第94話 これじゃと我とは食べ物関係の店しか行ってないようではないか


「ヨコ、こっちだよ」

「オリア姉お待たせだべ、早いだな」


 ヨコヅナはオリアと街で待ち合わせをしていた。


「ダメよ!ヨコ、こういう場合は男が先に待ってないといけないのよ」

「…でも待ち合わせには遅れてないはずだべ」

「男は待ち合わせより早く来て、待ってるものなの!」

「…わかっただよ」

「よろしい。ふふ、じゃあ行こっか」


 先日エネカの店ではゆっくり話せなかったから、会って話そうとオリアから連絡があったのだ。


「どこに行くだ?」

「……それも本当は男が決めておくものなのよ」

「オリア姉から誘ったのに?」

「男は相手が行きたい所に行くパターンと、自分が相手に勧めたいところに行くパターンと、二人にとって無難に思えるパターンと、奇を狙ったパターンの、四つを考えておくの」

「……多いだな」

「少ないわよ。女にはも~とたくさんやることがあるんだから」

「ははは、そうだべか」


 オリアのお姉さん風を吹かせるこの感じに、懐かしい気持ちになるヨコヅナ。


「でも王都に来て日が浅いヨコにはまだ荷が重いでしょうから、今日は私がエスコートしてあげるわ。今後の参考にしなさい」

「ありがとうだべ、…参考になるかどうかは分からないだが」

「じゃあまずは服屋に行きましょうか。ヨコは昔から服が地味なのよ」

「そういえば服屋は行ったことないだな」

「え!?今までどうしてたの?」

「商人の方から売りに来るだよ。ニーコ村と一緒とだべな」

「はは、さすがヘルシングね。……この前も思ったけど王都の常識にズレがあるみたいだから、色々教えて上げるわ」

「ズレてるだべか…オラの周りは少し変わった人が多いからだべかな」


 ヨコヅナのこの言葉を聞いたら「お前が言うな!」と皆が口を揃えることだろう。



 オリアと一緒に服屋を回ったヨコヅナ。ヨコヅナの服を見ると言いつつ大概はオリアの服を見ていた気もするが、特に不満はなかった。

 服屋だけでなく靴屋や装飾品屋等も回った。

 服と一緒に靴や装飾品も商人が売りに来るし、カルレインと出かける時は食べ物関係、ラビスとは仕事関係の所しか行かないから、ヨコヅナとしては初めて行く所ばかりであった。


「お腹空いてきたね、何か食べよっか……あ、そうそう知ってる?」

「何をだべ?」

「最近王都に、ちゃんこ鍋屋が出来たんだって。タメエモンさんの得意料理だったよね、すごい人気みたいだよ」


 オリアはちゃんこ鍋屋の経営者がヨコヅナなのを知らないようだった。


「……もちろん知ってるだよ」

「私まだ食べたことないんだよね。行列出来てること多いし」

「ちゃんこが食べたいなら、オラが作るだよ」

「ありがと…でもお店でちゃんこ作ってるのは元宮廷料理人らいいよ、ヨコに同じぐらい美味しいちゃんこ作れるかな?」

「当然だべ、オラの作るちゃんこの方が美味いだよ」

「……ふふふ、ヨコも言うようになったね」

 

 別に隠す必要はないが、面白いからちゃんこ鍋屋の事は話さないことにしたヨコヅナ。



 二人が何か食べようと店を探していると、


「……急に休みが欲しいというから何かと思えば…」


 ヨコヅナの聞き覚えのある声、


「人に仕事を押し付けてデートとは、良いご身分ですね」

「ラビス!?」


 偶然にもラビスに出会う。


「黒い、メイド?…ヨコの知り合い?」

「オラの仕事を補佐してくれてるラビスだべ。ラビス、この間話した同郷のオリア姉だべ」


 双方に相手を紹介するヨコヅナ。


「……初めまして、ラビスと申します」

「初めまして、でも補佐って?それに何故メイド?」

「ラビスの本職は姫さんの専属メイドだべから」

「コフィーリア王女の……」

 

 ヨコヅナの言葉を聞いて思考を巡らせるオリア。


「……そういうことか。短期間なのに上手くいきすぎてると思ってたけど、しっかりサポートしてもらえてるんだ」


 清髪剤の爆好評は、ニーコ村から出て来たばかりのヨコヅナと、商人とはいえ小さい店しか持ってないエネカの二人だけにしては、出来すぎだと思っていたオリア。

 だが、広報に使ってるだけでなく、人材等もコフィーリアからサポートされているなら納得できる。

 そのオリアの言葉を聞いて、目を鋭くするラビス。


「仕事のことでお話があります。少し宜しいですか?」


 そう言ってラビスはヨコヅナの服を引っ張る。


「え、ああ。オリア姉ちょっと待っててだべ」



 オリアに話が聞こえないぐらいに離れたところで、


「ヨコヅナ様、オリアさんに清髪剤の製造方法とか聞かれませんでしたか?」

「え、…今日は聞かれてないだよ」

「…と言うことは、前回は聞かれたのですね」


 エネカの店でオリアと会ったことは話したが、オリアが清髪剤のことを聞きたがっている事はラビスに話してなかった。

 

「作り方は話してないだよ」

「当たり前です……会話の内容には気をつけてください。頭の回る人のようですから」

「……分かってるだよ」

「本当ですか………」


 ラビスは冷たい瞳でヨコヅナを見る。


「信用できないだか?」

「ヨコヅナ様はバカですからね……」


 いつもの貶し言葉だが、今日のは少し棘が鋭い。


「え~っと、もう、良いかな…?」


 そう言って近づいてきたオリア。


「大丈夫だべ……だべなラビス」

「……分かりました」

「う~ん、……あ!そっか~」


 二人の少し険悪そうな雰囲気を感じとったオリアは、何かに気づいたようにラビスに近づいて、


「ふふ、安心していいよ。私はヨコのだから」

「何を言っているのですか?」

「ヨコとの関係を勘違いして怒ってるのかと思って」

「勘違い……っ!」


 オリアの言葉の真意に気づいたラビス。


「頭の回る人かと思いましが、確かに私の勘違いのようですね」

「あら酷い…でも、勘は鋭い方よ」

「…どうぞ存分にデートを楽しんでください。ただコフィーリア王女に怒られるような事だけはなさらないように」


 そう言ってラビスは背を向けて歩き去っていった。


「しっかりした娘だね」

「仕事が上手くいってるのはラビスのお陰だべ、オラは怒られてばっかりだよ」

「ふふ、なんか想像できる。……あの目、ラビスちゃん『混血』よね」

「そうだべ」


 酷いと言いつつ、オリアもエルフとの『混血』なだけに、少しだけラビスに親近感を覚えていた。


「ヨコにはああいうしっかりした娘がお似合いだと思うな」

「……ミスしたら鞭で叩いてくる女性を、お似合いと言われても困るだな」

「ははは、それは厳しい愛情表現ね」


 ヨコヅナは鞭の痛みから愛情は感じたことはない。


「話はご飯食べながらにしよっか」

「そうだべな」

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