第95話 元から多分にズレとるがの


「王都に来てからも、スモウの鍛錬は毎日してるんだ」

「ハイネ様が自由に訓練場を使えるように、取り計らってくれただよ」

 

 ヨコヅナ達が居るのはオリアのお勧めの料理店。

 カルレインと一緒に色々な店を回ったヨコヅナも知らない、隠れた名店といった感じだ。

 値段は安いのに美味しいく量もある料理を食べながら、話題はヨコヅナが王都に来てからの生活の事が中心。


「『閃光』とも手合わせをね~、よくあんなゴリラ女と戦えるね」

「ゴリラ女?……ハイネ様はゴリラとは似てないだよ」

「…以前『閃光』が戦ってるところを見たことがあるんだけど、ヨコと同じぐらいの大男を蹴り一発でぶっ飛ばしてた」


 ハイネ程の脚力があれば何も不思議ではない。


「見た目は確かに美人だけど、中身はゴリラよ」

「…でも、優しい人だべ。手合わせの時意外で、暴力を振るわれたことはないだよ」

「優しいというか、それ普通だから」


 やっぱりヨコヅナの感覚はズレてると思うオリア。



「この間は姫さんがスモウの鍛錬を見に来だた」

「…王女が格闘技とか好きって話は聞いたことあるけど…」

「格闘大会の後、スモウの投げ技とかも姫さんに教えただよ」

「……ほんとどういう関係なの!?」


 感覚のズレ具合は半端なさすぎて、オリアの推測も成り立たない。



「友達とかはいるの?、話を聞いてたら女性ばっかりだけど、男の友達」

「いるだよ。メガロ…と言っても分からないだべかな」

「メガロ……ストロング家のメガロ・バル・ストロングが友達、とか言わないよね」

「ああ、知ってるだか。そのメガロだべ」

「……ズレを修正するのは無理そうだね」


 もう諦めるしかなさそうだ思うオリア。



「この店、ご飯だけじゃなくて、デザートも美味しいの」

「オリア姉は甘いもの好きだべな」

「女の子はみんな甘いものが好きよ」


 カルレインはもちろんのこと、確かにハイネも甘いものが好きだなと思うヨコヅナ。


「ふふふっ」

「どうしただ?」

「ううん、楽しいなと思って、こんなに楽しいのは久しぶり」

「そうなんだべか」

「……今日会おうと言ったのは、本当はね…」


 そこで少し申し訳なさそうな顔をするオリア。


「…ヨコから少しでも、清髪剤の製造方法を聞けたらな、とか考えてたの」

「オリア姉相手でも、それは言えないだよ」

「そうだね、ごめんね」


 今日の話を聞いて思っていた以上に、コフィーリア王女が清髪剤に関与していることを知ったオリア。

 製造方法を他人に話した場合拷問じみた説教をされると言ってたのも、あながち冗談ではない事がわかってしまった。

 そんな危険な目にヨコヅナやエネカを合わせてまで、清髪剤の情報を知りたいとは流石にオリアも思わない。


「思ってただけなら、謝る必要はないだよ」 

「…ヨコは相変わらす優しいね」


 そう言うオリアの笑顔はどこか寂しそうだった。




「はぁ~、美味しかったね」

「参考になっただ」

「ふふ、それは良かった。ラビスちゃん連れて来てあげたら良いじゃない」


 ヨコヅナはちゃんこ鍋屋的に参考になったと言っているのだが、オリアは違う意味でとっていた。


「今日はここまでにしよっか」

「…まだ日は高いだが、用事あるだか?」

「ん~別に、でもあんまり遅くなるとラビスちゃんに勘違いされちゃうでしょ」

「……勘違いしてるのはオリア姉の方だと思うだよ」

「ふふふ、分かってるって」

「……その感じの「分かってる」は「分かってない」ってことを、オラは王都に来て知っただよ」


 そんないまいち噛み合っていない姉弟の会話をしていると、


「っ!………これって」


 オリアの表情が何かに気づいて次第に険しくなる。


「やっぱり用事が出来たわ」

「どうしただ?、オリア姉」

「ごめん!、またねヨコ」


 そう言ってオリアは全力で走っていった。


「オリア姉!?」

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