第90話 よく耐えれるの
「久々じゃの」
「ん?何がだべ?」
ヨコヅナとカルレインは二人で市場に買い物に来ていた。
「我の登場がじゃよ、ここ半月程出番がなかったからの」
「…何の話だべ」
「わはは、気にするな。ヨコとこうして二人で出かけるのも久々じゃの」
「それは確かにそうだべな」
少し前までは仕事が忙しく、また最近はラビスと三人で行動することが多かった。
今日ラビスはちゃんこ鍋屋で働くことになったヤズミの件で別行動をしている。
「しかし、あの王女の執事がちゃんこ鍋屋で働くことになるとはの……正直向てるとは思えぬがな」
「オラもそう思うだよ…まぁラビスに任せたら大丈夫だべ」
「王女からラビスをかえすようにとか、言われなかったか?」
王女の考えているようにカルレインもまた、ラビスが戻るのに絶好のタイミングと考えていた。
「言われてないだよ……え!?もうラビスは姫さんのところに戻らないといけないだが?」
今でもヨコヅナは経営をラビス抜きにやっていける自身がない。というかこの先もそんな自信は出来る気がしない。
「ラビスは補佐を辞めたいとか言っておるか?」
「オラは聞いてないだ…ラビスが姫さんの送っている報告書に書かれてるかもだべが…」
「…いや、ラビスならはっきりヨコに言うじゃろ」
ラビスの性格からして辞めると決めたらなら、遠慮しないだろうし、言い辛いからとコフィーリアに代わりに伝えてもらうということは有り得ない。
「王女とラビスが何も言って来ないのであれば、今は気にする必要はあるまい」
「…そうだべな」
「鞭で叩かれるのか嫌なら、ヨコから言っても良いがの」
「寧ろ鞭で叩かれてるうちは、ラビスにいてもらわないと困るだよ」
仕事でミスがあるから鞭で叩かれているわけで、ラビスがいなくなったらミスが素通りしてしまうのだ。
「わははっ、それじゃとラビスはずっと戻れんじゃろ」
「お~い、でっかい兄ちゃんとちっちゃい嬢ちゃん。今日は良い魚が入ったんだ、晩飯にどうだい?」
二人が話をしながら市場を進んでいると、魚屋のおっちゃんに声をかけられる。
「魚だべか~。どうするべかな?」
「お兄さん悩むんなら肉にしないかい?油の乗ったいい肉を安くしとくよ」
ヨコヅナが悩んでいたら、肉屋のおばちゃんにも声をかけられ、
「肉や魚だけじゃなく、野菜も食べないとだめじゃぞ。今はシュンギクが良いぞ」
さらには八百屋のじいさんにも声をかけられた。
ヨコヅナ達が市場に足を運ぶのはそれほど多くないが、二人はちょっと有名だったりする。
だたでさえ体が大きくて目立つヨコヅナが、浮世離れした容姿のカルレインを、肩に乗せて歩いているのだから噂にならない訳が無い。
その上、店の人がこんなに声をかけてくる理由は、
「カルはどれが食べたいだ?」
「う~ん……全部じゃな」
「言うと思っただ。それじゃ全部買うだよ」
「「「毎度あり」」」
と、お勧めを大概買ってくれる上客だからだ。
「カルは他に買う物あるだか?」
他にも色々と食材なり調味料なりを買ったヨコヅナの両手は荷物で一杯になってきた。
「石鹸の材料じゃの」
「あれだべか。ニーコ村からの材料はまだあるだか?」
「そっちも少なくなって来ておるの」
二人が話しているのは、カミツヤの実を使った清髪剤と同じように、ニーコ村で取れる植物を原料に作った石鹸を、カルレインがアレンジを加えた物の事だ。
「それじゃ、次の便の時に頼んどくだ……ひょっとしてあの石鹸も商品にしたら売れるだべかな?」
「どうじゃろうな……石鹸は人によって肌に合う合わないがあるからの。我は泡立つ感じが好きじゃから使っておるが」
「オラもあれ好きだべ」
「まぁ、ラビスに相談してみればよかろ」
「そうだべな」
後日、石鹸を使ってみたラビスにヨコヅナは思いっきり鞭で叩かれた。
理由は、
「何故もっと早く言わないのですか」
とのことだった。
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