第89話 それがあるのがバカなのじゃ
「……それはどういう意味かしら?」
思いもよらないメガロの発言を聞いて、意味を確認するコフィーリア。
「いえ、あの二人は仲が良いので。そういう可能性もあるかと思いまして…」
コフィーリアは「一緒にいたい」「二人は仲が良い」という言葉から導かれる可能性を考え、
「………つまり…あの二人が、恋仲、だと言うの?」
信じられないためか言葉が途切れ途切れになる。
「ラビスが…恋…???」
ヤズミも人物と言葉のイメージがまるで結びつかない。
「いえ、あのちっこいのが言うには、そういう関係ではないそうですが…」
「ちっこいの?…あぁ、カルのことね。あの娘がそう言うのであれば違うのでしょ」
「ですね。あの自分に取って利用価値のない人間に対しては、虫を見る時と同じ目をするラビスが、恋だなんて」
「まぁ…そんな目で見てくる時はあるが、しかしヨコヅナを見てる時は違うように思えるのです」
「どう違うのかしら?」
「何と言いますか…乙女の熱い視線のような」
「ぶはっ、…失礼しました。しかしラビスが、乙女の熱い、視線、ぷふ。ストロング様その冗談はとても面白いです、ふふふ」
「冗談を言ったつもりはないのだが…」
ラビスが恋をするという可能性を、まるで信じず笑っているヤズミ。
コフィーリアも同感だった。
ラビスは専属従者の中で一番日が浅いが、それでも三年近く王宮で働いている。その間に感じたラビスの印象は「誰も信頼していない」だ。それはコフィーリアを含めても同じであり、それこそ男など利用価値があるかという観点でしか見ていなかっただろう。
(……でも、若い男女である以上可能性はゼロではないわね。……恋心の可能性を考慮して、今日のことを振り返った場合…)
ラビスはヨコヅナの鍛錬を妨げないように終始気をつかっていた、ヤズミと口論になった原因もヤズミが騒いで鍛錬の邪魔になりそうだったから。
助言したのはヤズミの為でなく、ヨコヅナの鍛錬として価値のある手合わせにする為。
賭けの内容はヨコヅナにも利があるものでなければと言っていた、もし、ヤズミとラビスが仕事を交代した場合、ヨコヅナには不利益しかない。
丸くなったと感じたのはヨコヅナに対しての態度。
(…一応辻褄は合うわね)
報告書の件もコフィーリアの専属従者に戻るつもりがないのであれば不自然ではない。
(欠点が少しでも緩和されればと思ってヨコの補佐にしたけど…)
ラビスの欠点は他人に対して全く情かなく、自分に利あるかどうかでしか判断しない点。
だからコフィーリアはヨコヅナの補佐をする仕事を命じた。
ヨコヅナはラビスとは逆で利より情で行動を決める。
可哀想で自分が嫌だから、賞金の出る格闘大会でも女性は殴らない。
多くの人の命が助かるのなら、コクマ病の治療薬で儲けようと思わない。
美味しいと言ってくれるのが嬉しいから、誰でも気楽に、安く食べに来れるちゃんこ鍋屋にしたい。
そんなヨコヅナの補佐をすれば、ラビスはいい方向に成長できるのでは思ったから。
(勢い余って愛情が湧き、私の手から離れたら本末転倒ね……とはいえ根拠は、メガロの私感的意見。常に一緒にいるカルが違うと言ってるのであれば、今考える必要はないわね)
コフィーリアはこれ以上の憶測は無意味と判断する。
「そうね、面白いけど根拠は乏しいいわ。ちゃんこ鍋屋で働いている間に少し探っておいてヤズミ」
「…探る必要あるのでしょうか?」
「ついでよ。あなたから見たちゃんこ鍋屋の様子も報告して欲しいから、そのついで」
「了解致しました……あの、それで…私がちゃんこ鍋屋で働く期間はいつまでなのでしょうか?」
ヤズミは一番聞きたかった質問をやっとすることができた。本当は馬車に乗るなり聞きたかったのだがコフィーリアの雰囲気が和らぐまで待っていたのだ。
「それもヤズミ次第よ。働きぶりはラビスの報告させるわ」
「…それではラビスの報告次第では何時まで経ってもの戻れなく」
「ラビスは仕事に関しては真面目だから、あなたを虐める為に嘘の報告をしたりはしないわ」
「……それは、そうですが」
「だからしっかり頑張りなさい。もしちゃんこ鍋屋をクビになるようなことがあれば、戻ってこれるなんて思わないことよ」
「は、はい!頑張ります!!」
コフィーリアの言葉が決して冗談などではないことがわかるヤズミは、とにかく専属に戻れるまでちゃんこ鍋屋の仕事を頑張ろうと心に決めた。
「ふふふっ、それにしてもヨコが関わると、何かしら物事に変化が起きて楽しいわね」
「そ、そうですね」
同意しつつも、今回の変化はヤズミ的に楽しくない。
「はははっ、私もヨコヅナと関わるようになってから、日々に張りが出てきたように感じます。それにレ……あっ!!」
「どうしたの?」
「え~と、訓練場に忘れ者を…」
「そうなの、一旦引き返す?」
「い、いえ、コフィーリア王女をお送りした後、戻りますのでお気になさらず」
「そう、それなら良いけど」
「はい、大丈夫です(仕方ないよな、あいつがいると馬車に四人は無理だからな)」
メガロはそう心の中で言い訳をして、今はせっかくのコフィーリアとの相乗りを楽しむ事にした。
その頃、訓練場の忘れ者は、
「メガロ様どこですか~?メガロ様~……馬車もない、まさか俺のこと忘れて先に帰ったのか?いや、流石にそれはないよな」
姿の見えない上司と馬車を探していた。
レブロットはメガロと一緒の馬車に乗って訓練場に来てたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます