第80話 驚きじゃの


「パーティーって、疲れるだな」 


 メガロのヘルシング夫妻への挨拶に付き添ったヨコヅナは、その後、


 ヒョードル達が紹介したいという相手に挨拶に行ったり、

 メガロと共に令嬢方に囲まれたり、

 ラビスが話をしておきたいという相手に挨拶に行ったり

 

 と、慣れない事ばかりしてヘトヘトになっていた。


「ハイネ様と手合わせをするのに比べれば楽なモノでは?」


 今はラビスと一緒に会場の端で休憩している。


「疲れの質が違うだよ」


 稽古の時の肉体的疲れは慣れているが、今の気疲れはヨコヅナの苦手とするモノだった。


「飲み物をどうぞ、ヨコヅナ様」


 メイドが会場の端で休憩していたヨコヅナの為に、わざわざ飲み物を持ってきてくれる。


「ありがとうだべ」


 持ってきてくれたのは、レブロットとぶつかったのを助けたメイドだ。

 お礼を言われ笑顔になってメイドは会場の中央の方へと戻っていく。

 

「……初めてにしてはよくやれてますが、あのメイドを助けた件は間違った行動です」

「何でだべ?」

「一見酔ってぶつかったデブが悪いように思えますが、給仕のメイドと招待客であるなら悪いのはメイドの方です」

「でも暴力は駄目だべ」

「あれは反論したメイドの自業自得です。パーティーでは酔ってしまうお客様がいるのは当然なのですから反論すら成り立っていません」

「厳しいだな…」


 本職が同じメイドだからか、ラビスの口調はいつもよりもキツさが感じられた。


「じゃあ傍観してるのが正しいと言うだか?」

「いえ、最も正しいのは、止めに入り言葉で説得して最終的に相手とも仲良くなる、です」

「難しいこと言うだな」


 ラビスは何も止めに入ったこと自体を間違いと言っているわけではない。

 指摘しているのはその方法だ。


「…そして一番間違っていた点が、暴力は駄目と言っておきながら、暴力で解決しようとした点です」

「うっ…いや、オラは騒ぎをしずめようと」

「物理的に騒ぎの元をどうするのですか、力で組み伏せるのは列記とした暴力です。何をドヤ顔で「万事解決だべ」とか言っているのですか、場合によっては大問題ですよ。ヘルシング家に迷惑をかけたくなかったのではないのですか」

「ううっ…ごめんなさいだ」


 少し反論したら想像以上に捲し立てられ、謝るしか出来ないヨコヅナ。


「今回は運が良かったですが、今後はあのような行動はしないでください」

「……う~ん、でも同じ状況になったら、オラは同じことするだよ」


 謝ったにも関わらず同じ行動を繰り返すと、はっきり言い切るヨコヅナ。


「…そうですね。ヨコヅナ様はバカですからね」


 ラビスも呆れつつも納得してしまう。 


「……同じなのは、暴力を止めるところまでにしてください。その後は一切手を出さず、相手の気が済むまで、暴言なり暴力をヨコヅナ様が受けてください。時間が経てば周りが止めるでしょうし。それなら解決策として及第点です」

「ああ、それならオラでも出来そうだべ」


 相手が暴力をふるってきても、受け続けろと言われているのに名案とばかりに了承するヨコヅナ。


「……もし、ヨコヅナ様があのメイドを口説く事を目的として行ったのでしたら、正しい行動だったようですが…」


 飲み物を持ってきた時のメイドの笑顔を思い出すラビス。

 ラビスの忠告は金銭的利益を考えてのモノにすぎない。

 ヘルシング家に迷惑をかける事になるとは言え、ヘルシング家が雇ったメイドを助ける為と言えばヨコヅナだけに責任を押し付けられることはないだろう。

 だからヨコヅナが金銭的利益やヘルシング家への迷惑よりも、優先する目的があるのであれば話は変わってくる。


「パーティーが終わるまでに、デートにでも誘ってみてはどうですか?きっとOKを貰えると思いますよ」

「そんな目的でやったんじゃないだよ」


 ヨコヅナは思っていることが顔に出やすい、交渉事に長けているラビスであれば表情と口調から内心を読み取ることは難しくない。

 僅かな間もなく、普段と変わらない口調と表情で返されたその言葉が、嘘でも照れ隠しでもないことがラビスには分かる。


「クククっ…そう言うと思いました」


 ヨコヅナの言葉を聞いてラビスの雰囲気が和らぐ。

 ラビスが厳しい態度だった本当の理由は、本職がメイドだからでも不利益になるからでもなく……


「というかラビスは初めから全部見てただが?」

「……たまたま聞こえただけですよ」

「初めて会った時もそんなこと言っていただな」


 ラビスは初対面時コフィーリアに紹介されたも同じ事を言っていた。


「もう一つ気になっただが…」

「何ですか?」

「さっき「今後は」って言ってただが、オラは今後もパーティーとかに参加しないといけないだか?」


 そう言うヨコヅナの表情からは内心嫌そうに思っていることが読み取れる。


「参加はヨコヅナ様の意思次第ですので、お嫌でしたら断ればいいだけですが。仮にハイネ様のご帰還祝いに招待されて断れますか?」

「それは……断れないだべな」


 ヨコヅナの立場でハイネの祝いを断れるはずかない。


「現状を考えるに、今後パーティー等に参加する機会が増える可能性は大きいですね」

「……そうだべか」


 そんな諦めた感じで会場の中央を見るヨコヅナ。

 今会場の中央では曲に合わせてダンスを踊っている人が多くいた。


「今日のパーティーにダンスパートが組み込まれているのは意外でした」

「ん?貴族のパーティーって踊るのが普通じゃないだか?」

「多いのは確かですが、絶対ではありません」


 主催者や主役の者がダンスを得意としないときは、組み込まれない場合がある。


「……今後もパーティーに出ることになるなら、ダンスは踊れた方が良いだべか?」

「まぁ、出来ないよりは出来た方が良いですね」

「ラビスは踊れるだか?」

「当然です。女性パートだけでなく、男性パートもこなせますよ。その気があるのでしたら私が教えて差し上げますが?」


 ラビスは一つ勘違いをしていた。

 今回のパーティーの主役はヨコヅナ、主役が踊れないのであればダンスは予定に組み込まれない。

 ヨコヅナが踊れないと思っているから、ダンスが組み込まれていることを「意外でした」と言ったのだが…

 

「それはよかっただ。久々すぎて不安だから、ラビスが相手してくれると助かるだよ」

「え!?」

「えーっと、どうだったべかな。あぁ、思い出しただ」


 そう言ってヨコヅナはラビスの正面に立ち、少しかがみ腕を前にだして。

 

「一曲お相手頂けますか?」

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