第78話 我が子供じゃと!?

 

 ヒョードル達と別れたヨコヅナは、一人で飲み物の入ったグラスを持ちながら突っ立っていた。

 ラビスはというと、「少し一人で見て回りたいので」と行ってしまった。

 カルレインと合流しようと思ったが、それはラビスに止められた。理由を聞くと「カル様と一緒にいると親子に間違われそうですから」とよくわからないことを言われただけだった。


「オラってそんなに老けて見えるだべかな」


 カルレインがもし見た目通りの子供だったとしても、親は若くて30近い歳になるだろう。ヨコヅナは実年齢より十歳は老けて見えると言われたようなものだ。

 

「ちょっと凹むだな」


 そんな事を考えながら貰ったグラスに入ったジュースを飲むヨコヅナ。お酒でないのはヨコヅナが未成年だからだ。


「オラも何か食べるだべかな」


 料理の並んだテーブルへと足を向ける。



 そんなヨコヅナを少し離れた距離から、見定めする者たちがいた。


「あれが王都で今噂の清髪剤の発明者であり、ちゃんこ鍋屋の経営もしているヨコヅナ様」

「ヘルシング元帥の病気を治すのにも一役かったと聞きましたわ」

「それに闘技大会で準優勝したぐらい強い格闘家だとか…」


 ヘルシング家のパーティーに招待された絶賛彼氏募集中のご令嬢方である。


「でも出自はニーコ村の農民と聞きましたわよ」

「コフィーリア王女とヘルシング家の後ろ盾があるのですから、関係ありませんわ」

「重要なのは稼げるかどうかです」


 ヨコヅナを遠巻きに見ながら割とぶっちゃけた話をする三人のご令嬢。


「少し太ってますわね。私は細身の男性が方が好みなのよね」

「あらそう?殿方は逞しい方が頼りがいがありますわ」

「ヘルシング家の執事さんがあんな風に仰るモノだから覚悟していたのだけれど……想像していた程悪い容姿ではありませんわね」


 ヨコヅナは中を全く見なかった為知る由もないが、この令嬢方は以前のお見合い写真の束の中に写っていたである。

 爺やはもちろんお見合いを断られた相手に謝罪に行った。そして丁寧に説明もした。


「オラは自分が女性にモテないのはわかってるだよ」→『ヨコヅナは自分の容姿に自身がない』


「親の指示だったり、ヘルシング家の紹介だから会いたいのであってオラに会いたいわけじゃないだよ」→『相手が気持ちを考えると、いきなりお見合いで会うのは気が進まない』


「オラを見て一緒に居たいと言ってくれる女性」→『一度パーティー等の気楽な場で顔合わせした上で、また会いたいと言って頂けるなら是非に』


 多少脚色はしているものの嘘ではない。そして遠くない内に必ず顔合わせの場を儲けると約束もしていたのだ。

 転んでも唯では起きない爺やである。


「先ほどまで一緒にいた女性とはどういう関係なのでしょう?」

「仲良さそうにしていましたけど、恋人なのかしら」

「パートナーがいるのなら、この様な場は儲けないと思うわよ……あ!」


 遠巻きに見ながらも、三人のご令嬢が話しかけようか迷っていると、他で様子を伺っていたご令嬢二人がヨコヅナに話しかけにいった。


「先を越されましたわ!」

「私達も行きますわよ」

「はい!」



「あの、」

「ヨコヅナ様ですよね」

「そうだべ」

「お話よろしいですか?」

「良いだよ」


 令嬢二人から声をかけられたヨコヅナは、言葉を少なく落ち着いて見えるように対応する。


「ヘルシング様からお話はお伺っておりました」

「是非お話したいなと」

「…聞きたいのは清髪剤の事だべかな?」


 ヨコヅナでも話しかけられた理由の推測ぐらいはできる、女性が話しかけて来たのなら、目的は清髪剤のことだろうと。


「え?…ええ。清髪剤の話もお聞きしたいですわ」


 ただし、推測が当たっているかは別だが、 

 

「大好評ですわよね清髪剤。ヨコヅナが発明したとお聞きしましたわ」

「責任者でもあられるのですよね、すごいですわ」

「一緒に働いてくれてる人達が頑張ってくれてるからだべ、オラ一人じゃとても出来ないだよ」

「コフィーリア王女も愛用されているというのは本当なのですか?」

「本当だべ。清髪剤は送っているし、使ってるのは匂…オラは見れば分かるだ」


 本当は見た目だけでなくカミツヤの実の匂いで分かるのだが、女性に匂いがするというのは失礼かと思ったので言い換えた。


「君も使ってくれていんるだべな。綺麗な髪してるだよ」


 ヨコヅナは二人の令嬢の片方から、かすかなカミツヤの匂いを感じ取りそう言う。


「あら、嬉しいですわ。ふふふっ」


 髪を褒められた令嬢は頬を赤くする。

 ヨコヅナに他意はない、事前にラビスから「清髪剤を使っている女性に気づいたら、褒めるようにしてください」と言われたからその通りにしたまでだった。

 

「羨ましいわ、私は買いそびれてしまって。予約しているのだけど…」

「もう少しで大量に入荷させれるから待ってて欲しいだよ」

「仕事の詳細も把握してらっしゃるのですね!さすがですわ」


 ヨコヅナは許可のある範囲内でありのまま話してるに過ぎないのだが、

 二人の令嬢には、部下を大切にし仕事の出来そうな男性にうつる。またヨコヅナは言葉使いこそなっていないものの、温和な雰囲気は相手を安心させる。

 初め体格の大きいヨコヅナに話しかけるのに固くなっていた令嬢二人も緊張を解く。

 

(何とかやり過ごせるだべかな)


 二人が会話に満足してくれてるのを見て、そんな事を考えるヨコヅナ。

 ところがどっこい。

 今回のパーティーの主役はヨコヅナ。相手しなくてはいけない令嬢が二人だけであるはずがない。


 ヨコヅナの右側に別の令嬢三人が現れた。


「ヨコヅナ様は清髪剤だけでのなく、ちゃんこ鍋屋の経営もされているのですよね」

「コフィーリア王女から直接事業の経営を任されたとお聞きしましたわ」

「すごいですわ」

「え、あ、うん。ありがとうだべ」


 さらにヨコヅナの左側に別の令嬢二人が現れた。


「それにコクマ病の治療薬の開発にも協力していたとか」

「ヘルシング様が命の恩人だと言っておりましたわ」

「そ、そうだべか」


 いつの間にか7人もの令嬢に囲まれていたヨコヅナ。


「ちょっと!今私達がお話してたのよ!」

「あら、パーティーの主役を独占は良くありませんわよ」

「パートナーでもないのですから、文句を言われる筋合いは有りませんわ」


 しかも令嬢同士で言い争いをはじめる。


(どうしたらいいだべ?)


 予想外な状況に困惑して、ラビスかカルレインに助けを求められないかと視線を巡らしていると、ある光景がヨコヅナの目に止まる。

 パリンっ!とグラスが割る音の後に男性の怒鳴り声が聞こえた。


「ちょっと失礼するだ」

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