第76話 適材適所じゃの


「はぁ~、困っただな」


 カルレインとラビスと三人で乗っている馬車の中で大きなため息をつくヨコヅナ。


「我は何も困っておらんぞ」

「バカですね~ヨコヅナ様は」

「カルとラビスも知ってたなら言って欲しいだよ」

「貴族が起業の祝いをすると言えばパーティーが常識ですよ。宣伝の機会を増やすためにも」

「寧ろ何故気づかん」


____________________________


 お祝いの参加が決定した後の数日間でも、爺やと何度もお祝いについての話し合いはしている。


「ヨコヅナ様、お祝いの日のために服を新調したいと思います。体の寸法を計らせて頂けますか?」

「分かりましただ。ありがとうございますだ」


「ヨコヅナ様、多くの方にお祝いして頂けることになりました」

「そうだべか、ありがとうございますだと伝えてくださいだ」


「ヨコヅナ様、お祝いはヘルシング家本宅ではなく、別で会場を設置することになりました」

「遠いだか?」

「いえ、当日は馬車でお送りいたしますので何も問題ありません」

「分かりましただ」


「ではヨコヅナ様、馬車にお乗りください。パーティー会場へとお送り致します」

「分かりま…え!?…パーティー?」


爺やがパーティーという言葉を隠していたのも事実ではあるが、当日まで気づかない方がどうかしている。

___________________________



「ヘルシング家主催だから、貴族の人ばかりなんじゃないだか?」

「名簿を見たところ、そこまで位の高い方はいませんでした。貴族でない商人の方もいますし、招待する基準の一つとして、ちゃんこ鍋屋と職業的に関連がある相手を選んでいるようですね。あくまで基準の一つですが…」


 ラビスはもう一つの本命の基準にも気づいている。だがあえてヨコヅナには言わないようにしていた。


(そのほうが面白そうですからね)


 ラビスがその気になれば、ヘルシング家の思惑を事前に潰すことも出来たのだが、それでは面白くないから敢えて誘いに乗っているのだ。


「家柄で言えば、ストロング家が圧倒的に上ですね」

「友達のバカロより下の者達なら、緊張する必要あるまい」

「……でも貴族のパーティーって色々作法とかあるんじゃないだか?」


 ヨコヅナでも貴族のお祝いパーティーとニーコ村でのお祝いパーティーが違うことぐらいわかる。そもそもニーコ村ではパーティーなどといった洒落た言い方自体しないのだから。


「ヨコヅナ様に貴族の作法など期待していませんよ、多少の粗相があったとしてもそこはヘルシング家がフォローしてくれるはずです」

「フォローしてくれなかったらどうなるだ」

「ヨコヅナ様が作法も知らない平民だと思われるだけです、ヘルシング家が非難される可能性はありますが気にする必要はありません」

「……大人しくしてるだ」


 お世話になっているヘルシング家が非難されると言われて、気にするなというのはヨコヅナには無理な話であった。


「ヨコヅナ様が大人しくしていても、話しかけてくる人は多いと思いますので、会話内容だけは気をつけてください」


 気をつける会話内容とは清髪剤やちゃんこ鍋屋の事で他人に話していい範囲のことである。


「日を改めて会いたいなどのお誘いがあっても、忙しいからと言って断ってください」

「…気を悪くされないだか?」

「言い方次第ですね。保留にするような言い回しにしても構いません、本気であれば後日また話がくるでしょうから」

「そうだべか」

「それともう一つ、今日私の事は補佐ではなく、仕事のパートナーと紹介してただけますか」

「…別に良いだか、どうしてだべ?」

「補佐というのは部下のようにも聞こえますから、王女様の専属メイドである私が命令とはいえ平民の部下であることを、よく思わない方もいるかもしれませんので」

「分かっただよ」

 

 理解したような事を言っているが、ヨコヅナは本当のところを何も理解していない。


「我にも何かあるかの?」

「…せっかく他国の料理を用意して頂けるので、カル様は色々食してちゃんこ鍋屋のメニューとして加えても良さそうな物を報告してください」

「うむ!任せよ!」


 カルレインが他の参加者など相手にする気はないことを分かっているラビスは、適任と思える仕事を任せる。


「ところでラビス、その格好…」

「何か変ですか?」

「…いや、似合ってるだよドレス」


 ヨコヅナがパーティーのためにタキシードを着ているように、ラビスも今日はメイド服ではなく、豪華なドレスを着ている。全体的に黒いが主体なのは変わらないが。


「クククっ、ありがとうございます」

「むっ!我にはないのか」


 ちなみにカルレインは黄色を基調としたドレスを着ていた。


「はははっ、カルも似合っているだよ」

「わははっ、我は何でも似合うがの」

「……気になっているのはサングラスのことですか?」


 ラビスは色のキツいサングラスとかけていた。

 ヨコヅナは今までラビスがサングラスをしているところを見たことがない。


「古くから続いている貴族の家系ほど、人族至上主義の思想を持つ者は多いので」

「目を隠す為だべか」

「ヘルシング家が許可している以上、表立って騒ぐ人はいないと思いますが念のためです」

「……でもパーティーでそれって良いんだか?」

「ご存知ありませんか?ワンタジア王国ではサングラスはパーティーなどの祝いの席でも、装飾品として認められているのですよ」


 サングラスをしていると顔がわかりづらいので、相手に失礼なようにも思えるが、とある理由からワンタジア王国では公認されている。


「顔を覚えて貰うことが社交の場の一番の目的ですので、ずっとかけたままの人は稀ですがね」

「……オラは、」


 ヨコヅナとしては思うところもあるが、何かを言う前に馬車が止まる。


「ヨコヅナ様、会場に到着致しました」


 行車が目的地についたことを知らせてくれる。


「分かりましただ」

「行きましょう、ヨコヅナ様」

「楽しみじゃの」

「…そうだべな」


 覚悟を決めてヨコヅナは馬車を降りる。

 カルレインを肩に乗せ、ラビスを隣にヨコヅナは開店祝いパーティーの会場へと入っていく。



 豪華で煌びやかな広いパーティールーム。

 複数置かれたテーブルには豪勢な料理が並んでいる。

 集まっている人達も高価なドレスやタキシード。


「なんでオラこんなとこにこんな格好でいるだ?」


 予想以上の場違い感に決めた覚悟が早くも揺らぎそうになるヨコヅナは、いつもの疑問が口から出てしまう。


「それはヘルシング家のお祝いに招待されたからじゃろ」

「目的はお祝いよりもパーティーですがね」

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