第53話 娘達の話の割合多すぎじゃろ

 建国祭のメインとなる二日目。

 正式の建国日は今日であり、前までは今日だけが建国祭であった。


(つまらないわね)


 コフィーリアは馬車に揺られ、式典会場に向かいながら心の中で呟く。


「ひと月ほど前のなのですがね、兵と共にゴゴ洞窟に行った時の」


 祭がつまらないと言っているわけではない。

 寧ろ一日だけだった祭を三日間にする提案をしたのはコフィーリアだ。

 前は道に出る屋台から高い手数料を摂っていたのを安くし範囲も拡げ、街でワンタジアの歴史を題材にした劇などの催しも行って賑わうよう色々な改正をした。

 その効果ははっきり金銭の数字としても出ており、多く集まった民の楽しむ顔を見ても明らかだった。


「魔獣と遭遇しまして」


 想定外だったのはどれだけ盛り上げても王女であるコフィーリア自身は参加出来ないことだ。

 民に笑顔が増えることは嬉しいが、自分は堅苦しいだけの式典に出席し、あとのパーティーで王の側に立って各貴族の挨拶を作り笑いで見てるという苦行のような時間を過ごすことになる。


「腰が引けていた兵達を私が一喝し」


 もちろん式典は行うべきだろうが無駄が多すぎる。

 貴族達との繋がりは大事だからパーティーも社交の場として当然必要。

 しかし忙しい中時間を作って集まるのだから有用な話をするべきだ。

 過去を省みて学ぶのなり、未来について建設的な話こそするべきなのに、

 殆どの者は目の前の男のようにくだらない嘘の混じる自慢話ばかり。


「凶暴な魔獣として有名なガルガもいましたが私の剣で一刀両断にしてやりましたよ」


 馬車にはコフィーリアだけでなく、側近の執事とメイドの他に派手な服装をした青年がいた。

 彼の名はメガロ・バル・ストロング、現在王国に二人いる大将軍の息子であり、遠縁ではあるが王族の血も流れている由緒正しいき家柄の後継と言える男である。


「そう…鍛錬は毎日しているのかしら?」

「もちろんですよ!」


 今まで上の空だったコフィーリアがやっと反応してくれたことに喜んで答えるメガロだが、


「将来父上の跡を継ぎ、大将軍を目指すものとしては当然のことですよ」

(嘘ね、私がそれぐらい分からないと思っているのかしら…)


 その返答にさらに気分を害するコフィーリア。

 見るものが見れば、毎日鍛錬しているかそうでないかは一目瞭然だ。

 メガロは体格に恵まれており、武の才能も非凡と言って差し支えない、並の兵であれば鍛錬などせずとも勝ててしまうし、腕の勝る者でもこの男の親に気を使って勝ちを譲る。

 そんな風に周りが甘やかすからこの男はくだらないのだ。

 心血を注いで毎日鍛錬し実践経験を積めば、将軍には手が届く可能性は秘めている。

 以前勿体無く思ったコフィーリアはのだが…


「ならどれだけ腕を上げたのが見てあげましょうか」

「あ、いえ、そんな、コフィーリア王女にそのようなお手間をさいて頂くわけには…」

「時間はかからないと思うけれどね、まぁいいわ」


 本当にくだらない男だとコフィーリアは思う。


(私にも勝てず戦いをさける者が大将軍などとよく言えるわね。この男が大将軍になるぐらいなら私がなった方が数段国のためになる……面白いかもしれないわね、王になる前に大将軍を経験しておくというのも…)

「フフっ」


 そんな事を考えて笑みを浮かべるコフィーリア。


「あのコフィーリア王女、宜しければその、パーティーでダンスのお相手を」


 その笑みを見て機嫌が良いと勘違いしたメガロ、しかし、


「悪いけど、忙しいの」

「そ、そうですね、ハハ…」


 冷たく断るコフィーリア。

 今だけでも苦痛だというのにパーティーでもメガロの相手をするなど、冗談にしてもありえない話だ。

 コフィーリアを口説こうとする男は巨万ごまんといるが、このように馬車に同乗出来る者は少ない。

 今までの対応から分かるように、コフィーリアが好き好んでメガロと一緒に馬車に乗っているわけではない。

 これはコフィーリアの父親、つまり国王の指示である。

 日頃仕事と趣味ばかりで、婚約者がいて当然の歳ながら男の影のないコフィーリアを心配しての親心というものであった。


 余談ではある、ワンタジア国王と王国軍元帥が二人だけで真剣な話をしているとき、周りの者は国の平和の為、重要な話していると思っているが、

 会話の内容は八割、男勝り過ぎて夫が出来るか心配な娘たちのことであったりする。


(勧めるにしても、お父様もちょっとは考えて欲しいわね)


 一応武闘・格闘の大会が好きなコフィーリアの好みだと思って体格が良く、顔も整っているメガロを国王は選んたのだが、それは全く見当違いといえた。

 コフィーリアにとって表面的な造形の良し悪しは二の次だ

 さきほども言ったように毎日鍛錬をしていれば、その効果必ず身体に現れる。

 コフィーリアはそこから見て取れる積み上げられた努力をカッコイイと評価する。

 大きい小さい、太い細いなどもさしたる問題ではない。

 コフィーリアが興味を覚える程の知識を持っていればまだマシだが、


(くだらない話しか出来ないこの男を将来の相手として選ぶなど死んでもありえない。この男を選ぶぐらいならまだ…)


 田舎育ちで自分の知らない知識を持っており、予想の斜め上の行動をする、大きい少年がコフィーリアの頭に浮かぶ。


(何を考えているのかしらね、私は……そういえば祭で屋台を出すと報告があったわね…)


 清髪剤の生産・販売の進捗状態の報告書と一緒に許可を求める書類があった。

 王女の直接の依頼を後回しにするなど、本来ありえない事なのだが、新しいことに挑戦する事を結果に関わらず良いことだと考えるコフィーリアは承諾した。


「…馬車を止めるように言って」

「え?、どうし」

「はい」


 メガロが理由を聞く前に執事が御者に指示する。

 馬車が止まるとコフィーリアはさっさと降りてしまう。


「コフィーリア王女どこへ?」


 メガロも続いて馬車を降りる。


「ここからは歩いていくわ」

「いやしかしまだ結構な距離が」

「この道を行けばたいした距離ではないわ」


 馬車が通れる大通りでは遠回りになるが、屋台が立ち並ぶ通りであれば真っ直ぐ行ける。

 コフィーリア達が乗っていた馬車が止まったことで後ろをついて来ていたもう一台の馬車も止まり、中から人が降りてくる。


「姉上どうされたのですか?」


 後ろの馬車に乗っていたのは、コフィーリアの弟、モルドライト・ヴィ・ダリス・ワンタジア。

 コフィーリアによく似た容姿だが、優しさを感じる可愛らしい少年である。


「私はここから歩いて行くわ、モルはどうする?」

「ハハハ、突然ですね」


 一国の王女が屋台の並ぶ人ごみの中を歩いて行くなんてありえない事なのだが、モルドライトからすれば呆れつつも慣れてる姉の行動。


「僕も一緒に行きます」


 当然いつも一緒にいるメイドと執事は何も言わずについてくる、言っても無駄だと分かっているからだ。


「しかし危険では…」

「別に付き合う必要はないわよ。あなたは馬車で行きなさい」


 王女にもしものことがあれば大問題の為、メガロはコフィーリアの身を案じて言ったのだが、冷たく言い捨てられ歩いて行ってしまう。


「お待ちください、私も行きます」


 その後を慌てて追いかけるメガロ。



 正確な屋台の場所は聞いていないし、屋台が並ぶ通りは他にもある。


「見つからなかったら仕方ないわね」


 祭りを楽しむ民の顔を見て、どんな屋台が人気なのかを知るだけでも、馬車でのくだらない時間よりは有益である。

 午前中でまだ早い時間な為、ごった返すような人ごみではない。

 また道行く人たちがコフィーリア達一向に気付いて道を開けてくれる。


「姉上の改正のかいあって、年々人が増えていますね」

「そうね…まだ時間はあるし、気になる店があったら寄ってもいいわよ」

「気になる店ですか?」


 そうは言っても祭の屋台で王族が買うような品物は売っているはずがない。


「姫様~、あそこの屋台もう人が並んでますよ~」


 メイドが指差した方を見てみると数人の客が列をなして順番待ちをしている屋台。


「ちゃんこ鍋……聞いたことのな、姉上?」


 人が壁になっていて、見えるのは屋台上部の看板と作り手の頭部のみ。

 コフィーリアはモルドライトの言葉を最後まで聞かずその屋台へ足を向ける。

 普通に考えればありえない事だ。

 田舎暮らしで畑仕事と狩猟で生計をたたており、今まで客商売などしていなかったはず。

 毎年出店していて顧客が付いている店ならともかく、紛れもなく初出店。

 街で流行りの料理を売っているわけではない、コフィーリアですら名も知らない料理。

だというのに…


「なかなか繁盛しているようね、ヨコ」

「姫さん!?お久しぶりですだ」


 一国の王女が現れたというのに普通に知り合いに会った時と変わらない対応のヨコヅナ。


(やはり楽しいことは、自分の足で歩いてこそ見つけれるものね)

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