第52話 まだまだじゃな
「うまかったぜ、兄ちゃん」
「ありがとうだべ」
「一杯ちょうだいな」
「いらっしゃだべ」
午後になっても客が長く途切れることもなく売れていくちゃんこ鍋。
「好調ですね」
「わははっ、まだまだこれからじゃよ」
人通りも多くなってきて、祭も活気立ってきた。
「お客は来てるようだな」
「美味しそうな匂いだね」
「イジー兄!エネカ姉!」
そんな中現れたのは約束をしていたイジーとエネカ。
「仕事の休み取れたんだべな」
「ああ、ヨコおかげでな」
「オラの?」
「この前会った後、直ぐ部署移動になってな。今はオルガ様の下で働かせてもらっている」
「あ、ケオネス様だべか、試すって言ってただが、認められたんだべな」
「常に試されているようなものだよ。だが職場環境は改善されてな、しっかり休めるようになった」
前に会った時より明らかに顔色がいい。
「今は表情も生き生きしてるしね、ほんと良かったよ」
エネカも前から心配していたのだが、イジーは真面目で背負い込むタイプな為、ほとんど何もできなかった。
「仕事は難しくなったが、やり甲斐は前よりずっと感じている。ありがとうなヨコ」
「オラは何もしてないだよ。ケオネス様と何よりイジー兄が今まで頑張ってきたからだべ」
「…頑張るだけではどうにもならないことがある、それが王都だからな」
「そうだね~、ヨコも覚えておくと良いよ」
「分かっただ」
返事は良いがあまり分かってないだろうなと思うイジーとエネカ。
「そういえば旦那さんは一緒じゃないだか?」
「旦那は店番してるよ」
エネカの店は建国祭で盛り上がる場所に近い為、お客も普段より多めになる、休みにするような勿体無い真似はしない。
「そうだべか……あ、これは奢りだべ」
ヨコヅナは約束どおり二人にちゃんこを奢る。
「なんか悪いな、礼を言いに来たのに…」
「美味しそうだね、ありがたく頂くよ」
そう言って二人はちゃんこを味わう。
「おぉ~、美味しいな。久々に食べたが、ちゃんこ鍋ってこんなに美味かったか?」
「ヨコの料理の腕が良いからに決まってるでしょ、本当に美味しいよヨコ」
「ちゃんこを知ってる二人にそう言ってもらえると嬉しいだよ」
イジーが食べたことあるちゃんこ鍋はヨコヅナの父親が作ったものであり、ヨコヅナが作ったちゃんこを食べるのはこれが初めだ。
「屋台なんかじゃなくて、店を構えたらどうだ。売れてるようだしな」
今もイジー達の他に途切れず客がきている、気を使って婆やが対応してくれていた。
「バカだねぇ、屋台はそのための試し台に決まってるじゃないか」
「王都の人達にちゃんこ鍋を気に入ってもらえるのか、わからないだべからな」
「ああ、そういうことか」
「本格的に店を出すときは食材の仕入を任せておくれよ」
こんな時でも商売心を忘れないエネカ。
「その辺は色々繋がりとかあってオラは何とも言えないだ。カルに任せてるだよ」
「カルちゃんがかい?」
「うむ、仕入れは我が担当しておる、交渉は出来るが条件次第じゃの」
「ひははっ、じゃあ仲良くしとかないとね」
エネカはカルレインに包を渡す。
「お、これは甘い菓子じゃな」
「今一番の売れ筋だよ」
「わははっ、お主も悪じゃの~」
「いえいえ、カルちゃん程では、ひははっ」
「なにやってんだべ」
ただの差し入れを渡してるだけなのに、悪乗りしている二人。
「今日はハイネ様はいないのかい?」
「色々忙しいみたいだべ」
「誰の話だ?」
「知らないのかい?長くなるから後で私が説明してあげるよ」
「確かにあまり長く居ては商売の邪魔になるな。その前にもう1杯食べたいから貰えるか、次はちゃんと代金を払うよ」
「ありがとうだべ。イジー兄は痩せすぎだからいっぱい食べて方が良いだよ」
「ヨコやエネカと比べたら誰でも痩せて見えるだろ、うがっ」
イジーの頭を鷲掴みにするエネカ。
「ヨコはともかく何故私の名前も、デルンダイ」
ギシギシと締め上げられるイジーの頭。
「す、すまん、間違えた」
「ひどい間違いだねぇ。私も旦那に持って帰るから2杯頼むよ。もちろんお代は払うからね」
「ありがとうだべ」
2杯と言うことはエネカももう1杯食べるのだろう。
「アークも誘ったんだけどね、仕事だって言われたよ」
「軍の人たちは忙しいみたいだべからな~」
建国祭となれば国中の重鎮が集まる、当然警備する軍は大忙しだ。
「あいつの場合祭関係なく忙しいがな」
「自業自得だよ、借金までしてほんと馬鹿なんだから…」
「あぁ~……賭博だべか」
「知ってたのかい、もし金を貸して欲しいと言われても絶対貸しちゃ駄目だからね」
「ああ、僕も前に貸した金返してもらってないからな」
「私もだよ。まったくヨコの変わりにニーコ村に帰った方がいいじゃないかしらね」
「はは、ははは」
前に八百長試合をするように頼まれたことは言わない方が良さそうだなと思うヨコヅナ。
「お待ちどうだべ、勘定はカルに渡してだべ」
「カルちゃんは会計も担当してるんだね」
「うむ、ヨコは計算ミスが多すぎて任せておれん」
「ひはは、言われてるわよヨコ」
「小さいのにしっかりしているな」
事情も知らないイジーは適当な推測で、カルレインを屋台にもう一人いる婆やの孫なんだろうと思っていた。
「そういえばイジー兄は、オリア姉とウゴ兄の住んでるところ知らないだか?」
「いや、俺もあの二人とは長いこと会っていない」
「そうだべか…」
「ヨコも王都で暮らす事になったし、一度みんなで会うのも良いかもな。エネカはなんとか連絡つけれないか?」
「……そうだね。
「僕も冒険者組合に聞いてみるか」
「冒険者の組合なんかあるだべか」
「ああ、ガラの悪い奴も多いからあまり行きたくはないがな」
冒険者組合は冒険者に仕事の斡旋したり、獲ってきた物を買い取ったりする代わりに、仲介料と最低限の規律を強いる組織だ。
ウゴは冒険者であり、組合にも所属していた為、情報を得られる可能性もある。
「生けていれば良いけどねぇ」
「縁起でもないだよ」
「冒険者とはそういう仕事だ」
冒険者は命を賭ける仕事なだけに、もしものことがあっても不思議ではない。
「さて、そろそろ行くとするか」
「そうだね。ハイネ様に宜しく言っておいておくれ。後、清髪剤の方もしっかり頼むよ」
「わかっただ」
「美味しかった、では頑張ってな。」
「またね」
そう言って二人は歩いていった。
「イジー兄が元気になって良かっただ」
「一杯ください」
「いらっしゃいだべ」
「冒険者の組合か……面白そうじゃの」
イジーの元気な姿が見れ、ちゃんこ鍋の売れ行きも上々で浮かれているヨコヅナに、カルレインのその
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