第34話 姫にも色々いるじゃろ
ヒョードルの回復は順調に進み、歩けるようにまでなったことでヨコヅナはそろそろ村へ帰る旨を伝えたのだが、その前に治療費の話になった。
だがヨコヅナにはいくらにしたら良いか全く解らないし、カルレインに聞いても、
「どうじゃろな?薬の価値は国や状況によって大きく変化するからの、我にも何とも言えん」
ということなので、来た日に言ったようにハイネに任せることにした。
そしたら、後日ある場所へ案内されたのだが、
「ヨコヅナ殿、この度は我が国の軍の中核、ヒョードル・フォン・ヘルシング元帥を、病からお救いいただきありがとうございます。王をはじめワンタジア王国の皆が感謝しております。代表して私コフィーリア・ヴィ・ダリス・ワンタジアが感謝を伝えさせていただきます」
白を基調とした清楚感のある高価なドレスを来て、慇懃で凛とした態度で感謝の言葉を紡ぐコフィーリア。
その姿はまさに、
「どうしただ?お姫様みたいだべ」
思わずそう言ってしまうヨコヅナ。
「みたいじゃなくて、お姫様なのよ!」
お姫様らしい振る舞いから一転、ヨコヅナの腹に拳をめり込ませるコフィーリア。
「世のお姫様って皆こんなに暴力的なんだべか?」
その威力に顔を歪めながら思わず言葉を漏らす。
「ほひへははにほひほひほほふひゃほ」
「私も多くは知らないがコフィーほど武に長けた王女は知らないな」
ソファーに座って出されたお菓子や紅茶を口にしながら、二人のやり取りを見ているカルレインとハイネがヨコヅナの疑問に答える。
「はぁ~……ふふっ、まさかこんな形でまた会うとわねヨコ」
「お久しぶりですだ姫さん」
こんな形とは当然コクマ病を治療したの件である。
「形式的なやり取りはここまでにして、実務の話に入りましょうか、座りなさい」
やり取りも何も腹を殴られただけなのだが、余計なことを口にしてまた正座をさせられたくないので、大人しく従うヨコヅナ。
「ところでなんでオラ、またここにいるだ?」
「ほへは、ゴクン 治療費を貰うためじゃろ」
「いや、ここにきたのはその金額を決めるためだ」
「正確には治療薬の価値を話し合うためよ」
ここというのは以前にも来た王女専用の応接室である。
ヨコヅナから治療費を決めてくれと言われたハイネだが、だからと言ってこれ幸いと安い金額を払う事など当然しない。
しかしハイネも薬の相場は分からない為、掛かり付けの医者に相談したところ、「これは個人の治療費とかそんな次元の話ではありません」と言われさらに困ることになる。
「今王都では父上が死の病から復活した話でもちきりでな。当然コフィーの耳にも入っていたのだ。そして詳しい話を聞きたいと連絡が入ったので丁度良いと治療費の事を相談することにしたのだ」
「その通りではあるけれど、……ヨコはともかく、ハイネには事の重大さを理解していて欲しかったわね」
「何を言う、解っているぞ。なにせ父上を助けてくれたのだからな」
「……親を助けてもらったということが思考を鈍らせているのかしらね。確かに王国軍元帥の命を救ったというのは重大なことよ。でもそれは点でしか物事を見れていないわ」
「点?」
「コクマ病という今まで死を待つしかなかった病を治療する薬、それはこれから先の何百、何千、何万の命を助けることになるのよ。つまり未来という線でみた場合の今回の件の重大さは計り知れないわ」
言われてみれば確かにと思うハイネと、多くの人が助かるのは良いことだべなと他人事のように思っているヨコヅナと、具体的な金額は別としてもその辺は理解していたカルレイン。
「本来なら王自ら謝恩と賞賛の言葉を送る豪華で大体的な祝会が行なわれてもおかしくない、と言うかそういう話も出ているのよ。ヨコが望むなら…」
「ええ!?いやいやいやそんなの必要ないだよ」
「そう言うと思ったわ。……私から祝会などは必要ないと話をつけておくわ」
コクマ病の治療薬を開発し、ヒョードルを救ったとだけ聞いている者達は、勝手にその者が辺境で薬の研究をしている医学に秀でた者だろうと決めつけているが、ヨコヅナのことを知っていたコフィーリアはこのまま会っても良い事にはならないだろうと考え、ヨコヅナと知り合いである事を理由に、祝会を保留にしてこの場を設ける進言をしたのだ。
「さてと、まずはヒョードルの治療に対する対価なのだけれども、参考にできる資料を用意しておいたから、これにヘルシング家の感謝としての金額を上乗せして支払うと良いわ」
「こんな物まで用意してくれたのか、ありがとうコフィー」
ハイネはその資料を受け取り軽く目を通す。
「まずはと言っただが他は何を決めるだ」
「初めに言ったように薬の価値よ。それには薬の材料の採集場所、材料の加工や配合などの薬の作り方を教えてもらうことになるわ、しばらくヨコには協力してもらうわよ」
「命令みたいな言い方だべな」
「命令よ」
「感謝してるんじゃないんだべか…」
「感謝はさっきしたでしょ。今は仕事の話よ」
「……まぁ多くの人が助かるなら協力するだよ」
「もちろん謝礼はするわ、それに薬の価格を決めてその一部はあなたが得ることになる」
「薬の価格が決めれないからここに来たのに、オラが薬の価格を決めるだか?」
「開発者としての取り分、つまりヨコが欲しい分を上乗せできるということよ」
「あぁ、そういうことだべか」
ヨコは腕を組んで考える…ふりをしてから、
「カル?」
「ヨコが決めよ、う~ん次はこれじゃ、モグモグ」
カルレインに声をかけるも、見向きもせず興味が無いような返答をされる、実際今はお菓子にしか興味ないのだろう。
「あぁ~……姫さんに任せるだよ。みんなが助かるいい感じの値段にしてくれたら良いだよ」
「あなたねぇ……」
痛くも無いのに頭に手をやる。問題は無いのだ、高い値段をふっかけられる事が問題で普通なのだ。
「私の時もそうだったが、ヨコヅナはお金がいらないのか?」
「お金は欲しいだよ。ただこの薬で儲けようと思っていないだけだべ」
「それが理解できないのよ。そもそもあなたはどうしてコクマ病の治療薬を作れるのかしら?」
「父の治療の様子も見せないようにしていたな」
「その辺を話す気はないだよ」
ヨコヅナとしては珍しく断固とした態度でそう言った。
「命令でも?」
「姫さんはそんな命令しないだよ」
「どうしてそう思うのかしら?」
「そんなことより薬の作り方を知る方が重要だと分かっているからだべ」
「……薬の作り方の情報を話すかわりに、詳しいことは聞くなということね。その他面倒なことも押し付けると…」
「きょ、協力はするだよ」
「いいわ。価格、権利、流通、それとあなたに余計な面倒が行かないように情報操作もしてあげましょう」
「ありがとうございますだ」
「それだけの価値はあるし、こちらにも利があるからやることよ」
事が事だけにヨコヅナにやらせるよりコフィーリア自身が動いた方が色々とスムーズにことが運ぶだろう。
もちろんコフィーリアが全て行うのではなく、信頼出来る者に任せて監督するという意味ではあるが。
「金を懐に入れるような真似はするなよコフィー」
利があるという言葉をそういうふうに取ることもできる。だがハイネ自身本気でコフィーリアがそんなことをするとは思っていない。
「ハイネこそ謝礼金をケチるような真似をすれば、ヘルシング家の名が廃ると思いなさい」
「ははっ、愚問だな」
「ふふっ、お互いにね」
身分的に見れば確かな上下関係があるにも関わらず、ハイネが言っていた通り二人の友あった。
「させと、お金のことでもめなくて良くて、他も任せてくれるなら話が早く済むのは確かね。さらに細かいことはまた後日準備が出来てからにしましょう」
「じゃあもう帰って良いだか?」
「そう急ぐこともないでしょ。感謝の一部としてご馳走を用意しているわ」
「モグモグ、ゴクン お姫様のご馳走か、楽しみじゃの。わははっ!」
とことん食べることしかしてないカルレイン、これで食いしん坊という自覚がないことに呆れを通り越して感心してしまう。
食事中
「会ったときから思っていたのだけれど、ハイネ今日はなんだか髪が綺麗ね」
「ああこれか、カルレインが使っている清髪剤を分けてもらってな」
「確かにカルも髪が綺麗ね。どこで売っている品なの?」
「へいはふはいは、ひーほふはほひょふふふへふふっはほほひゃほ」
「清髪剤はニーコ村の植物をもとに作った物だべ」
「へ~、……それは面白いわね。私にも分けてもらっていいかしら」
「ひひほ」
「いいですだよ」
「……よく言っていることが分かるわね」
「もう慣れただよ」
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