第35話 尻に引かれている旦那が不憫でならんの
「ヨコは姉がいたのじゃな」
「エネカ姉のことだべか、姉と呼んでいるだが血は繋がってないだよ」
「そうなのか!?……似てたからてっきりの」
「そんなに似てるだべかな」
「顔は似てないが…」
カルレインはエネカの体型を思い出す、ヨコヅナの姉に見える体型を。
「エネカ姉はキキおばちゃんの娘だべ」
「……言われてみれば面影があるの。ところでヨコよ、まだ日も高いし食べ歩きでもしようではないか」
コクマ病の治療薬の件でニーコ村と王都を行ったり来たりし、他の場所でも薬の材料が採取できるか探索に行ったり、薬剤師に薬の作り方を教えたりと色々と忙しい日々を過ごしていたのだが、それも一段落がつき、久々に1日空きが出来た。
なのでまたエネカの店に今度はカルレインも一緒に顔を出しに行ってきたのだ。
「お昼ご馳走になったばかりだべ」
「遠慮してあまりお替り出来なかったからの」
3杯はお替りしていたはずだが、カルレインなりに遠慮していたらしい。
「金が入ったのじゃからよいじゃろ」
「それもそうだべな」
ヒョードルの治療でハイネから想像以上の治療費をもらったので、お金には余裕があるし、これはカルレインが稼いだと言ってもいいお金な為、ヨコヅナも奮発することにした。
「好きなもの好きなだけ食べていいだよ」
「わははっ、そんなこと言って良いのか?もらった治療費がなくなるぞ」
「……本当に食べそうだから笑えないだよ」
そんなわけで買い食いをしながら街をブラブラと観光する。
「この辺は来たことないだべな…」
ヨコヅナ達が今まで来たことない通りを歩いていると、
「おっと待ちな、でっかい兄ちゃん」
見覚えのない男に呼び止められる。
「けけけっ、ここを通りたきゃ通行料をもうらおうか」
「有り金全部な、げへへ」
さらに二人の男が出てきて道を塞ぎ、ムチャクチャなことを言い出した。
「間違って私有地に入っちまったべか?」
「ひはふひゃろ。ゴクン、ただの恐喝じゃな」
声をかけてきたのはヨコヅナを、王都に来たばかりの何も知らない田舎者と見て絡んできたゴロツキ達だった。
適当に食べ物屋を見つけては買って食べながらブラブラして、二人は知らず知らずのうちに南地区5番街、貧困街と呼ばれている場所に踏み込んでいたのだ。
貧困街は治安が悪く、ゴロツキ達の恐喝や強盗等は日常茶飯事のように発生し、今ヨコヅナ達はまさにその被害に遭っていた。
「まぁ、あえてここを通る必要もないからもどるだよ」
もと来た道を戻ろうと振り返るが…
「そうはいかねぇぜ、ここに来たからには金を置いてってもらおうか」
仲間なのだろう連中数人が後ろの道もふさぐ。
「そもそも金が目的なのじゃから通る通らないは関係ないのじゃろ」
「だったら何で通行料なんて言ったんだべ」
「いきなり金出せだと???ってなるからではないかの」
「いきなり通行料でも???ってなるだよ」
「何ごちゃごちゃ喋ってんだ!こらっ!!」
ヨコヅナとカルレインが呑気に会話している為、囲んでいた一人がイラついてナイフを取り出しながら近づき、
「さっさと金だしぐへっ!」
刃を向けた瞬間、ヨコヅナの張り手によって吹き飛ばされる。
「てめぇ!!何しやがる!?」
「いや、何しやがるって…」
「ナイフ向けて金だせって迫ってきたら、殴り飛ばされるのも当然じゃろ」
正論すぎるカルレインの言葉だが、そんな言葉が通じる相手ならそもそもこんな所で恐喝などしていない。
「ちっ、大人しく金をだしてりゃ怪我せず帰れたものを」
「ボコボコにしてやるぜ!」
「ガキの方は変態奴隷商に売り飛ばしてやるか!」
「泣いて謝っても許してやらねぇからな!」
数十秒後。
「ぐががぁ、ひ、ひぇ、ふひまへん。うるしへふだはい」
ヨコヅナに顔面を鷲掴みにされ、頭を潰されそうな握力に泣きながら許しを請う最後のゴロツキ。
「絵に描いたような雑魚じゃの」
他のゴロツキは地面に積み上げられており、カルレインがその上に座っている。
「……オラってこんな連中に絡まれるぐらい弱そうに見えるだかな」
ヨコヅナほど体格が大きいければ普通こんなゴロツキに絡まれることなどないのだが、
「弱そうには見えぬが、温和そうには見えるの。あと田舎者感がにじみ出ているからではないか」
「田舎者なのは事実だから仕方ないだな。……おっと忘れてただ…」
口から泡を吹きながら意識が飛んでしまっているゴロツキの顔面から手を放すヨコヅナ。
「さてと、先に進むかの」
積み上げられたゴロツキ達からヨコヅナの肩へと飛び移るカルレイン。
「もと来た道に戻らないべか?」
「こっちの方が面白いそうじゃろ」
「絡まれるのは別に面白くないだよ」
「我とヨコであれば滅多なことはあるまい、こういうところなら裏グルメ的なものがあるかもしれんしの。それに最近体が鈍っておるじゃろ」
「……それはそうだべが…」
確かにヘルシング家で泊まっている間はろくな稽古が出来ずにいるヨコヅナ。
もちろん稽古がしたいと言えば場を用意してくれるだろう、なにせ王国軍元帥の家にいるのだから。
しかしそれは言えないでいた。
「ただでさえ毎日のように軍に勧誘さてるべからな…」
「普段から稽古を欠かさないと知れば、ハイネの思い込みの強さだと、知らぬ間に軍に入隊しているとかありそうじゃの、わははっ」
「ほんとにだべな」
「絡んできたら実践稽古ができると思えば良かろ」
「……まぁ、もう少しだけ進んでみるだべかな」
そんなわけでヨコヅナとカルレインはさらに貧困街の奥へと進んで行くことにした。
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