第28話 いつもゴロゴロしているわけではないぞ
ある日のニーコ村。
ヨコヅナが家の掃除をし、カルレインがおやつに干し芋を食べながらゴロゴロしていると、キキおばちゃんが訪ねてきた。
「ヨコちゃん、またあの黒い連中が来てるよ」
そう言って外を指差すキキおばちゃん。
「…まただか。前来てからたいして経ってないだがな…」
開いた扉の向こうに見えるのは村の住人でない5人の男女。
「黒い連中?…客かヨコ」
前回は、カルレインが村に住むようになる前であるため状況が分からない。
「違うだよ……簡単に言えば盗賊だべ」
「盗賊じゃと…」
ヨコヅナから笑みが消え失せ、いつもと違う真剣な表情になっている。
しかし盗賊が来たにしては村は騒がしくないし、訪ねてきたキキおばちゃんも落ち着いたものだ。
家から出たカルレインが見た黒い連中とは、
「…ダークエルフじゃの」
ヨコヅナ達が黒い連中と呼ぶ5人は皆、人間より明らかに耳が尖っており、肌の色が浅黒く、白髪であった。
ダークエルフ、人族とは違う別の種族である。
大柄のと中柄のと小柄のの男3人、老婆と妙齢の女2人。
老婆以外は軽装の鎧を身に付け武器を携えている。
だが盗賊と言う割に大人しくヨコヅナが出てくるのを待っていた。
「盗賊とはどういうことじゃ?」
「相手しないと暴れるって言うだよ」
「??」
いつもと逆でヨコヅナの言葉にカルレインが頭に?を浮かべる。
そんなカルレインを他所にヨコヅナは前に出る。
「何の用だべ?」
「言わなくても分かっているだろ」
ヨコヅナの問に妙齢の女が前に出て答える。
「こっちも忙しいだよ」
「用事があるなら待っててやる」
「帰ってくれと言っているんだべ」
「それは出来んな。遥々ここまで来た意味がない」
「オラには関係ないだよ」
「お前に関係なかろうと戦ってもらう。…ニッグ、ヌダ、ネロ…やれ」
「「「はっ」」」
女の指示を受けて男三人が入れ替わって前に出る。
大柄のは鉄槌を、中柄のは両刃の剣を、小柄のはナイフを構える。
「………はぁ~、分かったべ」
ヨコヅナは服を脱ぎ捨て褌一丁になる。
そして力強く四股を踏む。
「相手をしてやる、かかってくるだよ」
手合の構えを取るヨコヅナから感じられる闘気は大会の時とは段違いであった。
「ああ、そうこなくてはな」
頭に?を浮かべながら事の成り行きを見ていたカルレインもなんとなく状況を推測する。
「つまり、ヨコに決闘を申し込みに来たということかの」
「ほほほっ、命まで取るつもりはありませんよ。腕試しが目的ですからね」
老婆のダークエルフが話しかけてきた。
「お嬢ちゃんは初めて見る顔ですね」
老婆は一見にこやかな顔をしているが、目は笑っていない。
カルレインが持つ独特の雰囲気に何かを感じ取っていた。
「この村に来たのは最近じゃからな。しかしあんな武器を持ってきておいて命を取る気はないとは」
「刃は潰してありますから」
「鉄槌で殴られたら死ぬじゃろ」
「頭に当てなければ大丈夫です」
「三人からは殺気を感じるが…」
「やる気に満ち満ちているのですよ……心配なら止めに入ったらどうですか?」
どう見ても三人は殺る気に満ち満ちているがカルレインは動かない。
「わははっ、冗談じゃろ。こんな面白い見世物を止める理由はない、それに…その必要もない」
一番先に動いたのは大柄なダークエルフのヌダ。
「うおおぉ!!」
脳天を狙って鉄槌を大きく振りかぶる。
ヨコヅナは斜め前に出て半身になりながら鉄槌を避け間合いを詰める。
「頭には当てぬのではなかったのか?」
「おかしいですね~」
地面が陥没するほどの力で鉄槌を振り下ろしたヌダに、平手で相手喉を突き押す【喉輪】を繰り出す。
「ぐへっ!」
そのまま足をかけ、ヌダを後頭部から地面に叩きつけた。
「まず一人」
「チッ、このデブが!」
小柄なダークエルフのネロが素早く間合いを詰めナイフを横に切り払う。
ヨコヅナは刃をかわそうと下がるも腹に赤い血の線がひかれる。
「刃は潰しているのではなかったのか?」
「おかしいですね~」
ネロは続いて突き刺そうと低い姿勢で前に出るがヨコヅナも前に出る。
ナイフを突かれるよりも早く、腕を相手の延髄に振り下ろす技【素首落とし】を叩きこむ。
「がはっ!」
一撃で倒れ伏すネロ。瞬く間に二人目も倒したヨコヅナ、しかしその攻撃後の隙を狙って、中柄なダークエルフのニッグが背後から襲いかかる。
「死ねぇ~!!」
鋭い斬撃でヨコヅナの首を狙う。
「死ねとか叫んでおるのじゃが?」
「おかしいですね~」
「さすがに無理があるじゃろ」
「……あの程度で殺せるのなら、こんなところまで来ていませんよ」
ヨコヅナは屈んで斬撃をかわし、逆に隙ができたニッグをブチかましで吹き飛ばす。
「ぐはぁっ!」
錐揉み回転で飛ぶニッグ、小屋にぶつかり壁を壊す。
僅かな時間で三人は立ち上がれなくなる。
ヨコヅナの本気で放つブチかましは一撃で戦闘不能するに十分の威力があり、『喉輪』も『素首落とし』も闘技大会の試合では使おうとも思わないほど危険な技である。
「腕を上げたな。それでこそ倒しがいがある」
三人との戦いが終わったのを見て妙齢のダークエルフが前に出て構える、手に持つ武器は槍だ。
「ナランジャ、前にも言ったはずだべ。オラは女性とは戦わないだよ」
「……名前」
「間違ってただか?」
「いや合っている」
妙齢のダークエルフ、ナランジャはヨコヅナに名前を呼ばれ、一瞬驚いたような顔になるが直ぐに真剣な表情に切り替わる。
「私はこの三人よりも強い」
「強い弱いは関係ないだよ」
「……何もせず串刺しになりたいならそうしろ」
ナランジャは構えたままだが、ヨコヅナは正面からナランジャに対峙するも構えようとはしない。
数秒間の静寂の後、
「はぁっ!!」
気合と共に神速の槍がヨコヅナの心臓に向けて放たれる。
だが槍の鋒が胸に触れる寸前に、
「なっ!?」
ヨコヅナは槍を掴んで止めた。
「本当に腕を上げましたね。ほほほっ」
「今までのヨコには無理な芸当だったじゃろうな」
王都での闘技大会がヨコヅナを成長させたのだった。
人が新しい経験をすることで飛躍的に強くなることは希にあること、もちろん日々の弛まぬ鍛錬があってこそだが。
「それで、どうするだ?」
ナランジャが槍を動かそうともしても、岩にでも挟まったかのようにビクともしない。
槍から手を放し徒手で連撃を打ち出すナランジャ。
それを防御もせず、まともに喰らうヨコヅナだが……
「それで、どうするだ?」
まるでどうじていない。
ここまでされてもヨコヅナに戦う気配は見られない。
「くっ……」
「そこまでですナランジャ」
老婆が戦いを止める。
「ノノ婆!? 私はまだ…」
「これ以上やっても意味はありません。あなたなら分かるでしょう」
「……分かった」
ナランジャは悔しそうな顔をしながらも下がる。
「君を倒すにはまだまだ修行がなりないようですね。また鍛え直しです」
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