第27話 た、たまにはこういうこともある


 快晴の空に心地いい風。

 小鳥の囀りと川のせせらぎを聞きながらヨコヅナはのんびり釣りをしていた。


「落ち着くだな~」


 大会が終わり王都から村に戻ったヨコヅナは平穏でのんびりした生活を楽しんでいた。


「おっ!きただ」


 竿からの引きを感じ取り、魚を釣り上げる。


「いい大きさだべ」


 絶好の釣り日和なだけあって魚の食つきもいい、大漁と言っても良い数を釣っている……のだが、


「モグモグ、わははっ、釣りたての魚を川原で焼いて食べるのはうまいの!」


 釣った先からカルレインが焚き火で焼いて食べてしまうから溜まらない。


「カル、一人で全部食べたら困るだよ」


 のんびりやっているが、釣りも立派な食料調達の一つ。調理すれば保存食にもなる。


「我が食べきれないぐらい釣ればよかろう」

「そんなに釣ったら川から魚がいなくなるべ。というかカルも釣るだよ」


 はじめはカルレインも釣りをしていたのだが、すぐに釣竿を放り出して焚き火をおこし、ヨコヅナが釣った魚を焼いて食べだしたのだ。


「我はそんなチマチマしたやり方は好かん」


 ヨコヅナにとってはのんびり出来る釣りは好きなのだが、カルレインはお気に召さないらしい。


「働かないなら飯抜きにするだよ」


 働かざる者食うべからずである。


「わかったわかった。ようは魚が捕れれば良いのじゃろ」


 カルレインは食べていた魚の串を放り出し、川へ近づき水面に手を当てる。

 集中するように目を閉じたカルレインから異様な気配を感じる。


「カル?」


 次の瞬間水面から目を開けていられなくなる程の光が放たれる。


「うっ…なんだべ?」


 光は直ぐに収まり、水面は元に戻る。

 

「何をしただ?」

「魔法じゃよ。ただ水の中に光を通しただけじゃがの」


 なんでもないことのように言うカルレインだが、魔法の知識が無いに等しいヨコヅナにはそれが簡単なのか難しいのかは分からない。


「そんなことより早くせぬと流れていってしまうぞ」


 魔法をすごいと思うも、何故使ったかを分かっていないヨコヅナだったが、カルレインの指差す水面を見て気づく。


「魚が浮いてきているだ」


 捕まえる為に川の中に入るヨコヅナ。


「死んだのではなく、気絶しているだけじゃから直ぐ動き出すぞ」


 流れていくの魚もあるため掴んで運んでいる間はないのと、ヨコヅナは平手で掬うように魚を川辺に飛ばす。


「わははっ、まるで熊じゃの」

「笑ってないでカルも手伝うべ」

「魔法を使って腹が減った。モグモグ、よほひまはへふ」

「どんだけ燃費悪いだよ!」


 任せると言い終わるまえに魚を食べるのを再開しているカルレインと、ツッコミつつ慌ただしく魚を獲るヨコヅナ。



 出来る範囲の魚を捕り終え、川から上がったヨコヅナは散らばった魚を集め焚き火の前に座る。


「我のおかげて大漁じゃの」

「でも次からは普通に釣るだよ」


 大漁に捕れたがこれなら一匹ずつでものんびり釣りを楽しみたいと思うヨコヅナ。

 魔法の影響で今日はもう釣りは無理だろうと判断し自分も魚を食べることにする。


「いただきます」


 焼いた魚を前に手を合わせる。


「……ヨコは食事の前にいつもそれをしておるが、どういう意味があるのじゃ?」

「食材への感謝だべ」

「感謝?」

「これも親父から教わったことだべ。自分が生きるための糧となる命と、またそれを育てた森や川や大地にも感謝してから食事はするものだと」

「……ヨコの父親は変わった考え方の持ち主だったのじゃな」


 あるいは住んでいた国自体が、と考えるカルレイン。


「食材への感謝か…。我は強いものが弱いものを食って糧とするのは自然の摂理であって、感謝することではないと思うがの」

「オラはこうした方が美味しく食べれるからやってるだよ」


 ヨコヅナも焼いた魚を食べる。


「うまいだな」

「わへほほはねはひゃほ」

「捕ったのはオラだべ」


 二人で釣った魚をどんどん焼いて食べていく。


「むむ、はへは……」


 カルレインが何かを見つけたのか魚を咥えたまま、茂みの方へと歩いていく。


「カル?何か食べれる物でも見つけたべか」

「ゴクン、………ヨコは我を食いしん坊キャラだとでも思っておるのか」

「自覚なかっただか!?」


 今年一番の衝撃を受けるヨコヅナ。


「ふん、まぁよい。我が見つけたのはこれじゃよ」


 カルレインが採ってきたのはある植物の実。


「……カミツヤの実だべか」

「ここではそう呼ばれておるのか」

「正式名称は知らないだが、その実の汁を水で溶いて髪に塗るとツヤツヤになるからそう呼ばれてるだ」


 ヨコヅナは使わないがニーコ村の女性陣はたまに使っている。


「髪質を良くするのは確かじゃが水で溶くだけでは効果が薄いし持続力もない、もっと適切な調合がある」

「…でもオラそんなの使わないだよ」

「使うのは我じゃ。髪は女の命じゃからの」


 昔エネカ姉やオリア姉も同じようなことを言っていた事を思い出す。


「じゃあ採って帰るだべ……」

「うむ………ん?ヨコ、何かくるぞ」


 カルレインに言われるまでもなくヨコヅナもそれに気づいていた。

 ドドドドドッと地鳴りのような足音と共に草木をかき分け現れたのは巨大な猪。

 猪は凄まじい勢いで二人のほうへ向かってきた。


「今日は本当に大漁だべ」


 ヨコヅナは逃げるでもなく猪の正面に立つ。

 ドスンッ!!と猪の突撃を受け止めた。


「あれ程の重量の勢いを受けてあれだけしか押されぬのか」


 常人であれば吹き飛ばされるであろう衝撃を受けてもヨコヅナが押されたのは一歩分程だ。


「ふんっ!」


 そして猪を高々と持ち上げ脳天から地面に落とす。相手が猪のため、かなり変形ではあるが【吊り落とし】と呼ばれる技である。


「……ちょっと魔素狂いだべかな」


 大物を仕留めたのに魔素狂いでは食べれないと残念がるヨコヅナ。


「この程度なら大丈夫じゃろ。ヨコでも食べれるよう我が処理をしてやるぞ。…ついでじゃ料理も我が作ってやろう」

「料理出来るだか?」

「いつも言っておるじゃろ。我は天才じゃ出来ぬ事などない」


 だったらいつも手伝ってくれればいいのに思うヨコヅナであったが、せっかくやる気になっているのだから要らぬ事は言わないことにした。


「じゃ楽しみにしてるだよ」

「わははっ、任せよ」




 後日の夕飯でカルレインが作った猪料理を食べたヨコヅナだったが、


「めちゃくちゃ不味いだよ!!?」


 早くも今年一番を塗り替える程の衝撃の不味さに料理を吐き出しそうになる。


「何を言っておる処理はちゃんとしたぞ、モグ…ぐぇ、なんじゃこれは!?」


 自身が作った料理の不味さに驚くカルレイン。

 処理は完璧であり、確かに猪はヨコヅナでも食べれるものになった。

 不味いのは単純にカルレインが料理下手なだけである。


「カルは料理しなくていいだよ」


 二度とカルレインに料理はさせないと心に決めるヨコヅナであった。

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