第6話 それは○○だからじゃろ
「さぁー!!始まりました!!王都闘技大会本戦、その栄えある第一試合を務める選手の入場です!!」
ワアァァァッー!!闘技場の客席を埋め尽くす観客達の声が、通路で待つ選手にまで聞こえる。
「西方より登場するのは、 実力未知数、ニーコ村から来た推薦選手、ヨ コ ヅ ナ~!!!」
名前を呼ばれ、緊張と困惑のまじりあった顔をしながら通路に立っているヨコヅナ。その隣にはセコンドとしてついてきているカルレイン。
「なんでオラこんなとこにいるだ?」
「それはヨコが闘技大会に推薦された選手だからじゃろ」
はじまりは数日ほど前にさかのぼる。
「村に誰か来てるようだべな」
ヨコヅナ達が森での狩りから戻ると、村の皆が集まって騒いでいた。
ニーコ村は小さいため、外から客人が来ればすぐにわかる。
「じゃが、あの馬車を見るに商人ではなさそうじゃな」
人が集まるのは大抵商人が来たときだが、今日留まっている馬車は派手な装飾を施しており、商品を載せてもいない。
「あれは、領主様の馬車だべな」
「ほほぉ、まだ会ったことなかったの」
「領主様の前では大人しくしてるだよカル」
「失礼な、我は常に大人しいじゃろ」
確かにカルレインが子供のように騒がしいことはあまりないが、むしろ姿に似合わない誰に対しても偉そうな態度が問題だと言えた。
「でも、領主様が来るなんて話聞いてなかっただが?」
いつもは事前に連絡が回るはずなのにとヨコヅナが考えていると、キキおばさんがやってきた。
「ヨコちゃん!丁度良かった。すぐに村長の家まで来ておくれ!あんたにお客様だよ」
「オラにだか…誰だべ?」
「わからないけど、なんかすごいお偉いさんみたいだよ」
領主の急な訪問に、心あたりのない自分への身分の高い客…
「なにやら面白そうな予感がするの」
「オラは嫌な予感しかしないだよ」
カルレインとヨコヅナが逆のようで同じ予感を感じながら、村長の家へと向かう。
「おう!来たかヨコ」
村長が緊張しながらもホっとした顔で出迎える。
すぐさま村長の家の客間に通されたヨコヅナ。
そこにいたのは予想した通り領主、クラモット・ムー・ノトン
そして、護衛の兵士二人の前に座っている、おそらくヨコヅナに会いに来たという人物であろう初老の男性がいた。
ぽっちゃりして穏和そうな領主に対して、その男性は細身ながらも威厳のある人相をしていた。
「ケオネス様、彼がお話した少年です」
「ふむ、…確かに良い体格をしているな」
鋭い目付きでヨコヅナを観る、ケオネスと呼ばれた男性。
「とりあえず入って座りなさい」
「失礼しますだ」
領主の言葉に慣れない敬語を使いながら、部屋に入るヨコヅナ。それにカルレインも続くと、
「カルちゃんも来たのか!?ちょっと待って」
今気づいたように驚いて止めようとする村長。
「我がいては駄目な話なのかの?」
「村長その子は?」
「えーと、この子はですね、少し前に報告させていただいた孤児の少女です」
「オラの家の居候だべ」
「我はカルレイン、カルと呼んで良いぞ。わはははっ!」
腰に手を当ててのいつも通りのカルレインの偉そうな態度に、頭が痛くなるヨコヅナ。
村長も領主も目を丸くしているし、護衛の兵士が無礼な態度を嗜めようとする。
が、それより早く、
「ふふ、面白い少女だな。…同居している者であるなら居ても良かろう。秘密にする話でもないしな」
領主も兵士もケオネス様がそう言うのであればと了承する。
「こちらの方はケオネス・ジン・オルガ様」
全員が座ったところで領主から男性の紹介がされる。
簡単にまとめれば、ケオネス・ジン・オルガはこの国の中枢でも王族を除けばトップクラスの政治的力を持ち、領主が昔からお世話になっている人物だっだ。
「そんな方がオラになんの用ですだか?」
男性の正体がわかっても、ヨコヅナには訪ねてきた理由は検討もつかない。
「ここからは私が説明しよう」
自ら理由を説明してくれるらしいケオネス。先ほどのカルレインへの対応といい、国のトップでありながら気さくな雰囲気が感じられた。
「近々王都でコフィーリア王女殿下が主催する格闘大会が開かれるのだが、知っているかな?」
コフィーリア・ヴィ・ダリス・ワンタジア、この国の第一王女である。
ケオネスの質問に首を横にふるヨコヅナ。
「そうか、まだここまで話は伝わっていないか。率直に言ってしまえば君にその大会に出場してほしい」
「格闘大会に出場!?…どうしてオラに?」
「それはだな…」
事の発端はコフィーリア王女の頼み事(という言い方の命令)であった。
『世に知られていない見所ある若者を推薦して出場させよ』
この大会は若者に活躍のチャンスを与えるためという目的もあり、出場に対し年齢制限がある。
また、年齢が制限より下であっても、軍で一定以上の階級にある者は出場不可となっている。
それだけであればまだ候補者もいたのだが、
このての催しが好きなコフィーリアでも知らない強者となると、ケオネスには思い当たる人物がいなかった。
そこでたまたま別件て会う約束をしていたクラモットに相談したところ、
「ニーコ村には素手で熊を倒せる少年がいる」
という話を聞き此処まで来たという事だった。
「そんな噂だけで此処まできただか?」
「あまり時間もないというのもあるが、頼み事をするのだ、こちらから出向くのは当然だ」
ケオネスほどの地位の人物なら、こんな田舎の少年など呼び出して命令するのが普通だろう。
しかし、ケオネスは相手が誰であろうと最低限の誠意は必要だと考える人物であった。
「それでどうだヨコヅナ、大会に出場してくれないか?」
「…あ~、え~、とそれは…」
正直「お断りします」と言いたいヨコヅナ。
お偉いさんの推薦という重荷を背負って、王女主催の大会に出場するなんて、考えただけで胃が痛くなりそうだった。
しかし、
(お願いだから了承してくれ~!!)
(断るなよ!絶対だそ!絶対だからな!フリじゃないからな!!)
村長と領主の目での訴えが痛いぐらい伝わってくる。
「出場してくれれば、結果にかかわらずそれなりの恩義をはかる。仮に一戦目で負けたとしても咎めはしない」
「え!?負けても良いだか?」
こんな田舎にまで頼みに来たのに負けても良いとは意図がわからないヨコヅナ。
「負けて良いわけではないが勝負に絶対はない。若い選手同士であれば尚のことな」
コフィーリア王女は無茶を言うが、馬鹿ではない。そのあたりのことは理解している。
この場合推薦する相手を、見つけるのを諦めることのほうが問題視される。
「勝ち進んでくれるに越したことはないがな」
「…お言葉ですがケオネス様」
ケオネスの言葉に意を唱えたのは、護衛の1人だった。
「推薦選手は予選決勝からになります、そこで負けてしまっては本選に出場できません。王女殿下が目にすることもなく、ケオネス様の面目もたたず」
「その程度で、たてなくなる面目などしていない!」
護衛を叱るように声を大きくするケオネス。
「す、すみません!」
「部下が失礼したな、すまない」
「いや、そんな、気にしてないだ、間違ったことは言ってないとオラも思うだし」
ヨコヅナは気遣ってそう言った。
が、しかし、実のところ先ほどのケオネスと部下とのやり取りは仕込みである。
いきなり訪ねて来て、こちらの勝手な理由で格闘大会に出場してくれと言った挙げ句、実力をみせろでは失礼どころの話ではない。
負けても咎めはしないという言葉に嘘はないが、実力も見ずに推薦というわけにもいかない。
なので、
「君もそう思うか、…大会に出て大怪我でもしては大事だしな。どうだろうここは一つ実力のほどを見せて貰えないだろうか」
というふうに話をもって行く為の仕込みだった。
「実力と言われても、どうすればいいだ」
「それなら…」
「ヨコが毎日やっている鍛練を見てもらえばよかろう」
ケオネスの言葉を遮り、カルレインがそう提案する。
「ほぉ、普段から毎日鍛えているのか、それは期待出来そうだ、是非見せてもらおう」
「……わかりましただ」
「うむ。では稽古場へ行くぞ」
何故かカルレインが仕切きるのか誰もわからないが、ヨコヅナが鍛練を行っている場へ、その場の全員で行くこととなった。
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