最終話 エピローグ

 町全体を巻き込んだ大きな騒動を引き起こしたプリムムとマイマイは、一ヶ月ほどこの町で依頼をこなす事で、どうにか解放された。


 たとえ脅されたとは言え、魔王勢力に勇者が屈服したというのは体裁が悪い。

 一から鍛え直す意味も込めて、フーランがやけに張り切って二人を引っ張った。


 その中に、なぜかオットイも巻き込まれたが。




 そして、プリムムとマイマイの二人は町を出る事になった。

 まだあるか分からないが、道中で死んだ仲間の形見を探しに行くためだ。


「オットイは行かないのよねえ」

「うん、僕は……ちょっと心配だからね」

「じゃあ岩村に帰ったらお母さんたちに報告しておくわね」


 オットイは、

「?」と首を傾げたが、うん、と頷いておいた。


「たぶん驚くわよぉ、あっ、プリムムじゃないのね、って」

「マイマイ、殺すわよ?」


 プリムムの逆鱗に触れ、マイマイが冗談よ、と言いながら距離を離した。

 オットイの事になると、なにをしでかすのか分からない。


 一ヶ月経った今でも、未だにプリムムの中にはオットイがいる。


「早くこの町から出たいのよ。……嫌いなのよ、ここ」


 嫌な思い出ばかりを作らされた場所でもあるが、町の人々の一人一人が強かだ。

 勇者と言えば威張れたこれまでの村とは根本的に違うのがやりづらかった。


 同じ道を、オットイも通っているはずなのだが、抱く感想は真逆である。


「そっか。僕は大好きだけどね、この町」




 二人の背中を見送った後、しばらくその場から動かずにいた。

 すると、門番の制止を振り切ってオットイの背中に飛びかかった者がいた。


「ぐえ!」

 と、背中に乗った体重を支え切れずに、オットイが地面に伏してしまう。


 その背中には、膝で乗っている、ティカがいた。


「――あたしを置いて行くなよオットイ! 一緒に、店を続けようって約束――」

「待って落ち着いてよティカ! 僕、ティカを置いて行かないよ?」


「――へ?」

 とティカは自分の先走りに気づき、頬が紅潮する。


「な、なーんだ、そうかそうか。……ならいい」


 何事もなかったかのように、オットイから離れるティカ。


 ……ごめんの一つもないのかー。


「っ、なにも言わずに門の外に出るオットイだって悪いでしょうが!」

「えっ、そんな事で僕は怒られるの!?」


 と、そんな二人の言い合いはこの町のいつもの光景として溶け込んでいた。


 オットイは、もう既にこの町の住人なのだ。

 すると町の人々が入れ替わりで声をかけていく。


「おーいティカ、今日も店に行くからなー」

「オットイも、今日は皿を割るなよー」


 ティカの力は制御できるようになっており、効果を出さない方法も習得していた。

 争いの種になる効果付き料理は作らなくなったので、普通の料理である。


 そのため、ステータスアップを目的にティカの店に来る者はいない。


 フーランによる情報規制によって、ティカにそういう力が宿っている事も、既に忘れられた事実だ。

 知っている者も限られており、フーランにも把握できている。


 だからティカへの脅威は、ほとんどが去ったようなものだ。

 事実、この一ヶ月、悪意を持ってティカへ近づく者はいなかったのだから。


「帰るよオットイ。……オットイと一緒に作らないと、変な味になるんだから」


 かつて、ティカの母親が言っていた。

 誰かを想って作れば、それが最高のスパイスになる、と。


 ティカの場合は少し違うが、誰かと一緒に作れば、最高のスパイスになったのだ。

 不味いと評判だった彼女の料理は、まあ、そこそこ食べれる普通の味まで上がった。


 美味しいと言われるまでは、まだまだ長い道のりだろう。


「だから、あたしの夢のために、オットイはずっと傍にいろよ」

「口調」


 オットイの指摘に、ティカがうぐっと口を閉じた。


「……オットイは、ずっと傍に、いてよ?」

「……く、ふははっ!」


 オットイの堪えられなかった笑いに、ティカが顔を真っ赤にしてグーを構えた。


 ……やっぱり、ティカのその女の子らしい口調は、似合わなかった。

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旅する勇者がきらう町 渡貫とゐち @josho

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