一筋の光

 外に出たのは久しぶりだった。青い空が見えて、少し嬉しくなる。

「外……綺麗」

しかし、自分は依頼のために外に来ているのだ。

一週間以内に依頼を完了させないといけない。

とりあえず、ターゲットの調査をしなくては。アズサは西川と言う男の調査を始めた。


 数日経ち、調査が終わった。西川と言う男の情報を集め終わり、あとは殺すだけ。

しかしアズサは、暗殺をするべきか悩んでいた。


 依頼が終われば、またあの薄暗い部屋で1人きりになってしまう。

風呂場とベッド以外何もない無機質な部屋に閉じ込められる。

戻りたくない。苦しい。つらい。誰か、助けて。

ぐらり、と視界が揺れ、アズサは意識を失った。


 * * *


 いつもと変わらない通学路。

今日も特に何もなかったな、と思いながら下校している律紀りつきの視界に、異様な光景が映った。

 ——人が、倒れている。

 駆け寄ってみると、スーツを着た男性が苦しそうに横たわっていた。

幸いなことに、呼吸はしている。

「大丈夫ですか!?」

「……んん」

男性が起き上がった拍子に、2人の頭がぶつかる。

痛みに堪えながら男性に大丈夫ですかと声をかけた。

大丈夫と返ってきた声がとても弱々しく、心配になる。

「本当に大丈夫ですか?」

「だい、じょうぶ……」

男性は立ち上がって歩こうとするが、足元がおぼつかず、ふらふらしている。

「全然大丈夫じゃないでしょう!?家どこですか?支えますから……」

何かを呟いた後、男性は再び倒れてしまった。


 * * *


「ん……」

 目を覚ますと、今までに見た事の無い不思議な景色が目の前に広がっていた。

薄暗くてベッドと風呂場以外は何も無いあの部屋じゃない、真っ白で色々な物が置いてある部屋。

微かにいい匂いが漂っている。

自分は死んでしまったのか。

そう頭の片隅で考えるが、誰かの声が聞こえ、生きているのだと理解する。

「あ、大丈夫ですか?」

心配そうに顔を覗き込んでくる見覚えのない青年。ここは、どこなんだろう。

「ここ、は」

「病院ですよ」

"びょういん"

聞いたことのない単語が出てきて、戸惑うアズサ。

「びょう、いん? 何だそれは」

青年は驚いた後、病院は体調が悪い人を治してくれたりする場所だと説明してくれた。

そうなのかと思う一方、どうして自分がその病院とやらにいるのかがわからなかった。

「どうして、俺はここにいるんだ」

「どうしてって、倒れたんですよ。苦しそうにしてたので、救急車呼んで病院に連れてってもらったんです」

そうか、と返事をして辺りを見回す。見たことがないものばかりで、面白い。

「そういえば、名前、なんて言うんですか?」

「アズサ」

「あずさ? 苗字は?」

「……みょうじ?」

「えーと……無いんですか?」

「アズサと呼ばれていたから、それでいい」

「そう、ですか。オレは風神律紀かさがみりつきって言います」


 ——もしかしたら、この青年と一緒にいれば、自分が思い描いていた普通の暮らしができるのではないだろうか。

そう思ったアズサは、青年と一緒に住みたい、とお願いしてみることに。

「律紀。お願いがある」

「お願い?」


『お前と一緒に、住んでみたい』


嫌ならいいが、と付け加えて、律紀の様子を伺う。

「いや、でも……アズサさんにだって、家があるでしょう……?」

「家なんて……無い」

あの部屋は家ではない。ただの居場所だ。

「家が無い? じゃあ今までどうやって生きてきたんですか」

「暗い部屋に、閉じ込められていた」

両親は? 友達は? 矢継ぎ早に質問をしてくるが、全ていないと答えた。

誰にも会うことがなければ、外を歩くことさえあまりできなかったから。

一通り話終わり、律紀を見る。

「アズサさんも、大変だったんですね」

「……大変、か。そうだな。大変だった」

少しの沈黙の後、律紀が口を開いた。

「いいですよ。一緒に住んでも」

「いいのか!?」

「はい。何だか、アズサさんと一緒に住むと、楽しい事が起こるような気がするんです。オレも、アズサさんも、幸せになれるような楽しい事が」


 こうして、アズサと律紀は同居することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

梓の夢 如月雪人 @Kisaragiyukito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ