第8話
収穫は一人につき一冊ずつ。計三冊をかっぱらった。あそこにあった全ての女の子を浚ってしまうことは、せっかくお兄さんが築き上げた愛欲のコミュニティを潰してしまう気がしてできなかった。僕たちが手にしたものは、思い通りの代物ではなかったにせよ、これもみな鍛錬である。みんな鞄のいちばん奥にしまい込んだ。
来た道を戻って、僕たちは無事に石段を降りて小屋まで帰ってきた。日が暮れはじめていて、秋風が肌寒い。この風が僕たちの幼い熱まで奪っていく。咽だけが熱いままで、そこから今日が閉じていく予感が溢れてくる。ルネはおもむろに鞄を開けると、さっきの獲物を取り出した。
「やっぱりおれはこれいらないや。誰かもらってくれ」
オモチが「ハイ!」と手をあげた。マンガを渡すルネ。彼の皮膚は、もう新しい細胞が分裂をはじめているようだった。ルネは生れ変わった瞳で、僕を見て、語りだした。
「面白いよ。面白いんだけど、なんかこれは、おれが思っているものと違うんだよ。おれは将来こんなことする大人にはなりたくない」
「おれもそう思った。でも、やっぱり読みたいな。おれはとりあえず読んでみる」
「うーん、そうか。やっぱ返してもらおうかなあ」
ルネは僕と話すときだけ、やたらとやさしい子どもに戻る。他の誰かとケンカをしたり、オモチを蹴ったりするけれど、僕にはいつもやさしい。
オモチの叫声、また蹴られたのだ。でも、蹴られただけだった。
下山するためのいくつかある階段の一方向から、ふいに驚いたような声が聞こえた。階段を上がって、女の子が三人やってきた。
結子たちだった。三人の女の子が現れた。どうしてこんな汚穢に自ら脚をつっこんでくるのか。オモチは急いで鞄を締め直した。彼女たちはルネだオモチだと人の名前を連呼して騒ぎ立てた。緊張で熱も寒さも消えてしまった。僕たちのなかで、罪のないのはルネだけ。僕は焦りまくって、めまいを起しそうなひどい罪悪感で難破しそうだった。鞄の中身をあらわにされたら……ダメだ、もう生きては行けまい。
僕のルネ @oyamakensuke
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