第2話
「ありがと〜ッ!楽しかったァ!」
また来るね、と商店街から抜けた所で大きく手を振る。
それに返してくれる様にお兄さん達も「またな」と同じ様に手を振り返して それに僕は満足げに微笑み、背を向けて道を真っ直ぐ歩き出す。
『相変わらずいい人ね、あのおじさん達。』
そう言いながら いつの間に移動したのか もそもそ、とコートの左ポケットから顔(目?)を出して こちらに視線を向ける一ツ目ちゃん。
『んッぷ…ふふ、おじさんッて言うノ辞めたげなよ。』
まだ言う程ソンナ歳じゃナイでしょ、と少し吹き出してその小さな白い体躯を手のひらで うりうり と撫でると、「子供扱いしないで」と赤い瞳を不満げに向けられる。
はァい、と素直に手を退けると また、もそもそとポケットの奥の方に身を隠し。
今日は機嫌が悪い日なのかな、なんて思いながら 反対側のポケットから先程お兄さん達から貰った小さなミルクキャンディーの小袋を取り出す。
ピッ、と包装を開け おもむろに中のミルクキャンディーを口に含んで、ころころと口の中で転がした。
じんわり、と口内に広がるミルクの風味と 喉を焼く様な甘ったるさ。
ふふ、と思わず頬を緩ませ きっと、同じ物を口に含んだのなら僕以上に嬉しそうな表情をしそうな人を思い出す。
学園を出る前、あの人の部屋で別れたばかりなのに すぐ寂しくなって会いたくなってしまうのは、きっと僕がまだ子供だからなのだろう。
ふんわりと自分の髪から あの人と同じシャンプーの匂いがして、思わず赤レンガの敷かれた道を すぐにでも引き返して駆け出してしまいそうになる衝動に駆られ ピタリ、と足を止めた。
「行きたくナイなァ…」
はぁぁぁ、と大きなため息を吐いて 両手で顔を抑えて道端にしゃがみ込む。
いや、あそこへ行きたくないのはぶっちゃけ何時もの事だが ここ数日前から なんとも言えない嫌な予感がしているのだ。
けれど 先週貰った三万で学費と寮費払って 更に一ヶ月分の食事代と…なんて、どう考えても無理な話で。そもそも寮費に月五万は掛かるし。
頼れる身寄りなんて とうの昔にあの街と共に沈んで誰もいないし、強いて言えば血の繋がってない兄なら居るが 流石にあんなに迷惑掛けておいて …そもそも、既に禁書を置く為に寮部屋を貸して頂いているのにそれに漬け込んで お金も、だなんて流石に烏滸がましすぎるだろう。
そもそも、僕が
…いや、人にお金を借りるなんて絶対に嫌だけど。
『_______って言うか、最低でも10万は今までくれてた伯爵が 3万しか寄越さない時点で罠って気が付きなさいよ。』
「へ…?」
思いも寄らなかった一ツ目ちゃんの発言に思わず、息の抜けた声が喉から漏れ そちらを見遣る。
闇夜でも鈍く光るその真紅の瞳は心底呆れた様にこちらを見つめていた。
『やっぱアンタ気付いてなかったのね…?』
(タイトル未定 NO.3) @yasiro_bell_hoduki
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