(タイトル未定 NO.3)
@yasiro_bell_hoduki
第1話
9月の終わり。
ふらふらとした足取りでブーツの踵をコツコツ と鳴らしながら路地裏を歩く。
あんなに長かった夏も終わり、本格的に秋に差し掛かる。そんな時期。
路地裏を抜けた頃、背伸びをして夜の匂いを目一杯肺に入れる。
それまで伏せていたまつ毛をゆっくりと上にあげて、眩しい程の月を見上げた。
「…やッぱ、行かなきゃダメなのかなァ。」
ポツリ、と小さく声を震わせて零す。
それに合わせるように肩の怪異_____“一ツ目”ちゃんは、
僕の頰に自分の冷やっこい体を寄せた。きっと慰めのつもりなのだろう。
「心配かけてゴメンね。大丈夫。」
小さな白い友人に少し微笑んで、そう声を掛けて指先で小さく突いてやると きゅう、と声を上げ 僕の指先を食べるかのように大きな口を開く。
それを見て慌てながら指をコートの中へ引っ込めると、不満げにまた一声を上げ。
お互いに話せる言語があるのだから話せばいいのに…。と思うも今日はそんな気分では無いのだろう。
まぁいいか。と、静かに二人 口を噤んでまた一つ一つと足を進め。
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暫く道沿いに歩くと, 古びれた廃商店街に差し掛かる。
燻んだ赤色の看板が僕らを見下ろし その向こうからは、こちらを見てギラギラと目を光らせる大人達や、反面 気にも留めず花札やポーカーなどを、お酒で真っ赤な顔をしながら 楽しむ男の人達の姿があって。
お店も屋台も出ていない筈なのにやけに賑わっている姿を、先週も見た筈なのにどこか懐かしく感じて胸がぎゅっと切なくなる。
いや、
その気持ちを紛らわすように看板を潜って 賭け事を楽しむ大人達の中に元気よく声を掛けながら 人と人との隙間に飛び込んだ。
「んぷっ、今晩はッ!お兄さん方ッ!
今日はナニしてるノッ? ミセテよぅ!」
「おっ!薔薇坊じゃあねえか!今ちょうど花札してた所なんだ」
「それにしても二週連続とは、薔薇坊にしては珍しいねえ!」
「家出かぁ〜?」
「あっお前あれだろう!母さんに0点のテストバレて慌てて逃げてきたんだろ!」
「あは、そうに違いねぇや!」
「あ〜あ〜あ〜ッ!!ウルサイッ!聞こえナイ〜ッ!」
と、好き勝手揶揄う大人達に、態とらしくそう叫んで両耳を塞ぐ。
勿論、本気で怒ってる訳でも拗ねている訳でもない事をみんな理解している為か、そこでドッと笑われ 思わず僕まで吹き出してしまうから、一種の茶番劇だ。
学園に入学してから…いや入学する少し前から、こうして月一くらいの頻度で遊びに来ている。
ありがたい事に皆深く触れずに受け止めていてくれるから、それが尚 心地良い。
と言っても未成年な為、流石にまだ賭け事には参加できないしそもそもそんなに使える程のお金なんてないが、
こうやってお互いに境遇も名前も知らないもの同士が集まると,なんだかちょっぴり違う世界に来ているような、そんな気分で。
謂わば一種の現実逃避のような物かもしれない。
何より此処では、僕はアルベラ=ファウストでもベルでも “______” でも無くなる。
何かを 背負う立場でも、守る立場でも、不確かで掴めない幻想を与える立場でも無い。
それが生まれて此の方 14年来の肩の重荷を 少しだけ降ろさせてくれるようなそんな安堵感を覚え、心の底からじんわり と温かいものが溢れ出すような感覚がする。
「大人になッてもココにアソビに来たいなァ」
「坊〜〜、そりゃ大歓迎だけどよぉ。」
「でもあと6年か?」
「ははっ、まだまだ先だねえ」
「いやいや、もうすぐだろう。子供の成長は早い。」
「まぁ何にせよ坊がどんな大人になるか、楽しみだな!」
小さく呟いた言葉に、そうやって太陽のような笑みを浮かべて返してくれるお兄さん達。
少し胸がくすぐったくなって、思わずはにかんでしまうと まるで子供を可愛がるようにわしゃわしゃ、と大きな手で乱暴に撫でられる。
お酒と柔軟剤と少しの加齢臭が混ざった匂いがふんわり、と香りそれはまるで誰かを思い出させるような____________
いいや、それは今思い出す事じゃない。
ふるふる と首を振り、ちらりとお兄さん達を見ると もう既に花札を始めようとしていた所で。
まずは先にどちらが親か子か決めるらしい。
他の人が騒ぎ立てる中ジッとその様子を息を潜めて見つめる。
手前のお兄さんが
基本こいこいのルールは月が早い方が親になるらしい。したり顔で奥のお兄さんが微笑み、手前のお兄さんは無表情ながらも少し悔しそうにしていた。
まあ此処からが勝負だ。始まりが肝心、とは言うがそれよりも僕はその後がどうなるかが気になる。
どんな感じでのし上がるのか、どんな風に相手をねじ伏せるのか、それとも始まり通り順調に進んでコテンパンに負かすのか。
猫のように目を細めて、一抹の起承転結も逃さないように 蒼眼を忙しなく動かす。 この時だけは 乗り気な日の戦闘訓練と同じくらい気分が高ぶって楽しい。
兄やお友達と話したり遊んだりしている時のような胸がぽかぽかする楽しさではなく、これはまるで一つの戦闘を物陰で見ているかのようなそんな感覚だ。
思わず緩めてしまう口元を隠すこともなく、それをただただ食い入る様にジッと見つめた。
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