汝、隣人を愛せよ
白川津 中々
■
隣で文句を述べる柏木はまったくもってうるさく面倒くさかった。
「僕は絶対あの人とは分かり合えませんね」
そう憤る彼の言葉は空々しく聞くものの肌を泡立てる。もはや私怨となった感情は醜悪さしか感じさせないのであるが、当の本人はそれに気が付いていない。
「坊主憎けりゃ袈裟までと言いますが僕はそんな狭量と偏屈にまみれているわけではありません。単純にあの人の考え方と頭ごなしな態度が気に入らないんです」
こちらの辟易に気づかずに(あるいは気づいているかもしれないが)なおも話を続ける柏木に対して俺は「そうか」とだけ返して仕事を続ける。途中で中断された作業を目にすると眩暈が起こり脱力。集中力が続かないのは間違いなく柏木のせいであるが、立場もあって本人にそれを言うことはできない。
「本当に、意味が分からないです。僕はあの人と合わない」
「そうか」
もう何度も同じやり取りをしているというのによく飽きないものだ。俺はとっくの昔にうんざりしているというのに。
「本当に、無理ですね。考え方が合いません」
「なるほど」
一向に進まぬモニターと、終わりのない、くだらない愚痴と誹謗中傷の間で転職を夢見るも、無理だなと諦観。資格くらい取っておけばよかったなと先に立たぬ後悔に自嘲しつつ、ようやくキーボードをタイプして、俺は空いたセルに関数を入力するのであった。
「やっぱり無理です。僕は理解できません」
「そうか」
あぁ、今日も残業か……
汝、隣人を愛せよ 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます