第6話 魔王の力の譲渡
「場を移そう。」というゴマちゃんの声に従い、私とゴマちゃんは、私の寮室に戻った。
それにしても魔王なのに..あだ名がゴマちゃんって、なかなか慣れないわね‥。
ーーー
「ふむ……狭い部屋だな。」
「寮室だし、このくらいが普通なんだけど‥。」
きっと、広い部屋に慣れきっているんだろうな。
リリも城に住んでいたが、基本的に自分の部屋と、魔法の練習場、その2つの部屋ぐらいしか行かなかった。
魔法の練習場は体育館ぐらいの広さだったけど‥、広い部屋がたくさんある魔王城で、私に与えられた部屋は、前世の部屋と同じくらいの狭い部屋だった..。
「では、先程話せていなかったことを話そう。何が聞きたい?」
「えっと…、天使長がゴマちゃんを裏切った理由は、知っていますの?」
「そんなこと、こっちが聞きたい。……まあ、差し詰め、我が邪魔だったのだろうよ。」
「それ以外、思いつかん。」と、吐き捨てるように言うゴマちゃん。
「いや、あなた、魔王史上最も多くの天使を殺したのでしょう?なら恨まれても当然だと思うのだけど‥。」
「いや…、あれは仕方がなかった。我だって、好き好んで天使を殺したりはせん。」
仕方のない事…私たちが、今人間界に進出する理由と同じ。
だけど、天使たちと条約を結んだと言うのに、わざわざ封印するって…
「だとしても、魔王を封印しなければいけない事なんて、天使長の仕事にあるのかしら?」
「ん?確かにそうだな。…あまり考えていなかったが、我が邪魔になるような何かをしたいと言うわけなのだろうか…。」
真剣な表情で、リリとゴマちゃんは話し合うが…
「しかし…考え続けていても、我らには明確な答えがわからん。他に質問したいことはあるか?」
ゴマちゃんは、あっさりと流した。
確かにそうだけど、でも…天使たち、と言うより、天使長がやろうとしている事が気になるわ。
「力を貸す、と言いましたわよね?」
「ああ。」
「具体的に、どのようにして、私を手伝ってくださいますの?」
「なんだ、そんな事か。」
ゴマちゃんはケラケラと笑う。
そ、そんなにおかしなことかしら?
「何、簡単な事だ。我が今持っている力の限りを、リリに譲渡すればいいだけの話。」
「そ、そんな事ができますの?!」
「可能だ。」
で、でも、確か力の譲渡の仕方は遥か昔に失われたもの……あ、そうか。
それならば…
「こ、これで……
もう、あの時のような…馬鹿にされる事も、なくなるのね。
そう思うと、リリは心がフッと軽くなる気がした。
しかし…
「だが…力の譲渡にはそれ相応の契約が必要だ。」
「か、簡単には行きませんのね‥。」
し、しかし、これも私が力を手に入れるための試練!
そうと決まれば…
「儀式をやりましょう!
「しかし…儀式には、レッドドラゴンの血が大量に必要なのだぞ?」
「へ?」
突然突きつけられた条件、それは…
「レッドドラゴン?!それって…火山一帯の魔獣たちの
「今ではそのように言われているのか。」
昔がどのように言われていたかわからないけれど、私には荷が重すぎる!
レッドドラゴンとは、先程リリが言ったように、火山一帯の魔獣の主だ。
その強さはピカイチ。並の魔族たちじゃ太刀打ちもできないほどには強いのだ。
「
「安心せよ。我も同行する。」
「え?同行してくれますの?」
てっきり、
「時間はなるべく無駄にしたくない。契約をすると決まったのならば、早速レッドドラゴンを討伐しに行くぞ。」
「ちょ、ちょっと待っ!」
待ってくださいまし!と言う前に、ゴマちゃんは転移魔法を唱えていた。
ーーー
転移した先は、レッドドラゴンの巣穴の目の前だった。
「あ、暑いですわ‥。」
「火山地帯だからな。暑くても仕方がなかろう。」
魔王の娘として、落ち着き払ってレッドドラゴンを討伐したいのだが…なにせ暑い。
身を焦がす暑さは、ジワジワとリリの体力を奪っていく。
だがそんな中、ゴマちゃんは汗一つ流さない。
「あなたは随分、余裕そうですわね…?」
「ん?…あぁ、これを私忘れていた。」
ゴマちゃんは、本当にどこから取り出したのかわからない、一粒の飴玉を渡してきた。
ポイッと投げられ飴玉を、ギリギリのところでキャッチする。
「なんですの?これ。」
「それは火山地帯での暑さ対策ように作った飴だ。」
さしずめ、状態異常にかからない道具ってとこかしら?
リリが飴玉を口に放り込み、しばらく舐めていると……
「だんだん暑く無くなってきましたわ。」
「さぁ、敵はすぐ目の前だ。」
本当に目の前ですわね…。
リリの驚きの声をものともしないゴマちゃんに続き、リリは巣穴に入っていく。
ーーーーーー
ーーーーーー
ーーーーーー
リリ達は襲いくる炎から逃げていた
「ひゃあ!」
「もっと頑張って走らないと、
「た、助けてくれるんじゃ無かったのかしら?!」
巣穴に入るや否や、いきなりレッドドラゴンに襲われ泣きそうになるリリ。
間一髪でドラゴンの攻撃を避け続けるリリを、ゴマちゃんは手助けもせず、見続けていた。
「も、もう限界ですわ...」
「やれやれ…仕方がないな‥。」
突如として、ゴマちゃんの前に紫色の魔法陣が展開された。
数秒後、勢いよく炎を吐いていたレッドドラゴンは、その大きな体を地面に叩きつけ、息絶えた。
一瞬の出来事に、リリはその目をまんまるく見開く。
流石魔王、とでも言うべきか。
鮮やかな魔法陣の展開、惚れ惚れするような魔力量の多さ。
その恐ろしい力が、後に自分に譲渡されることになると思うと、リリは嬉しさを感じる一方、それと同時に恐怖も感じていた。
「終わったな。では、血を回収し次第、部屋に戻り、儀式を始めよう。」
「わ、わかったのだわ。」
リリは大急ぎで、レッドドラゴンの血を集め終えると、ゴマちゃんの転移魔法で寮へと帰っていった。
ーーー
「ああ?!そんな事したら、部屋に血がべっとりとついてしまいますわ!!」
「儀式に必要な陣なのだから、仕方がなかろう。」
ベッドなど、重たい家具を含めた全ての家具を、ゴマちゃんが亜空間に仕舞い込み、それによってできたスペースに、ゴマちゃんはレッドドラゴンの血で、魔法陣を描く。
このままじゃ部屋が血塗れになってしまうわ!
リリはなんとか必死に、ここではない、どこか違う場所じゃダメなのかと聞いたが…
『儀式魔法と言っているが、これはいわば契約。契約魔法は、契約を持ち掛けた側と合意した側の1体1で行わなければならない。…失敗すれば、双方とも、無事では済まされん。』
と、恐ろしいことを言われてしまい、反論できなくなってしまった。
「では……いくぞ。」
魔法陣の中心に立つ二人。
リリはゴクリ、と唾を飲み込む。
その音さえ聞こえてきそうなほど、部屋の中はシン…と静まっていた。
『我、願いを叶えるもの。かの者の願いを聞き届け、力を授けたまえ。器を満たし、光を放て。』
詠唱が始まると、リリとゴマちゃんの体は、淡い光を帯びていた。
詠唱が進むごとに、光は強くなっていき、とうとう目も開けられなくなった頃。
『世の断りをねじ曲げよ。運命を壊せ、それは新たな未来、新たな希望。
詠唱が終わり、光もおさまった。
リリがそっと目を開けると……ゴマちゃんは困惑していた。
「どうしたの?」
「……おかしい。」
一体何がおかしいのだろう?すでに儀式は終わったし、失敗する事もなかったみたいで、これといって、体に異変はない。
「力が……」
ゴマちゃんはさらに続ける。
それは、リリが想定もしていなかった言葉だった。
「力の譲渡が‥失敗した..?」
追放された魔王の下剋上 Renard @lalaneko
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