第5話、アルバイトに領地運営を任せたらこうなった

こんな感じで、茜ちゃんは領地を発展させていきました。

ミクもアスカも別人みたいになっちゃって、私は今日も一人で書類にサインしています。


「えっ、軍隊作るの?」


「領兵団よ。警察とかないでしょ。

だから、自衛隊と警察と消防をあわせた感じ」


「ああ、それは必要だもんね」


「あっ、パーティーやるんだ」


「そこはルナの頑張りどころよ。

この世界にはないドレスを作っているわ。

ネコとドレスと食材。

スイーツに魔石に新型の馬車。

王都を中心に売り込んでやるわよ」


「でも、こんなところまで来てくれるかな」


「王都にアンテナショップを出してあるから大丈夫。

男性用だけじゃなく、男心をくすぐる刀剣類や脱毛クリームが飛ぶように売れているわ」


「脱毛クリームなんか売れるの?」


「トレンドは仕掛けるものよ。

モデル並みの男をツルッツルにして、社交界デビューさせたわ。

能力はないけどイケメンよ。

どうなったと思う?」


「ハーレムを作った」


「年頃の貴族の娘を総なめよ。

この世界じゃああり得ないんだけど、親のすすめる縁談を断ってまでそいつに熱をあげてるわ。

コロンに整髪料、ニキビ治療薬に美顔クリーム。

実用的な剣じゃなく、見た目がよくて軽いナイフもバカ売れよ。

全部出どころはこの領なの。

領というより、1区から4区ね。

領の中でも、直轄区への人口流出が止まらないわ。

いい傾向よ。

移住の申請は必ずうちのスタッフが面談して、使えそうな人材だけ許可しているの」


「周りの区はどうするの?」


「経済が回らなくなったら、区長罷免よ。

そこから区長の入れ替えをして、産業を興していくの」


「バンドル男爵は?」


「あれはあれで、使い道があるのよ。

汚れ役はどこの世界でも必要なの」




お茶会(パーティー)の当日です。


「皆さま、本日はこのような遠方までお越しいただきありがとうございます」


生徒会副会長のクミちゃんです。

進行役にはピッタリの人材です。

私は、茜ちゃんの用意してくれた原稿どおりに話すだけ。


「第三王子様、王女様、各局の局長・副局長、そして貴族の皆様。

初めまして、領主のルナ・ジャムでございます」


あれが領主かよ、若いな、すごいドレス!などのざわめきが起こります。

十分な間を開けて続けます。


「先代が亡くなり、必死で領の立て直しを行ってまいりましたが、皆様にご支援いただき、やっとそれなりの運営ができるところまでたどり着けました。

本日は、日ごろのご恩に報いるため、宴席を用意させていただきましたので、ごゆっくりとお楽しみくださいませ」


パチパチパチ


「やっぱり、ルナは華があるよな」


「普段はパッとしないんだけどね。

さて、料理の解説に行きますか」


「ああ、頼んだぞ。

その次はアスカだな」


「ええ、テーブルの魔石を解説すればいいのね。

わが領の加工師が細工した魔石で、性能としては自然石と同じです。

籠の中の魔石に興味をお持ちの方はお持ち帰りいただいて結構です。

でも、ひとつだけにしてくださいね。

テーブル中央には龍を彫り込んだ8cmの魔石が。そして会場中央には30cmの特大サイズをご用意させていただきました。

どうぞご覧になってくださいませ」


「十分だ」


「お話し中のところ失礼いたします。

具体的な話はアカネ・タチバナ様とするように言われてきました。

私、内務局長の補佐を務めますサンジ・タツリブと申します」


「アカネ・タチバナでございます」


「この後、できましたら内務局長を交えて具体的なお話をさせて頂きたいのですが、如何でしょうか」


「商談でしたら15分で完結できるよう、まとめてきてください。

腹の探り合いとかは、好きではありませんので」


「」内務局長はお忙しい方なので、午前中には出発しなければなりません。

30分お願いできませんか」


「サンジ様が行動を起こされたせいで、セレモニーの途中にもかかわらず5人も席をお立ちになりました。

15分で完結できないような商談など意味がございません。

マリー、後ろの方のご用件をお伺いして。

商談なら15分単位でスケジューリングしてください」


「承知いたしました」


「いかがなさいますか」


「では、11時から15分間お願いいたします」


「承知いたしました」



セレモニーが終わったら、私はお嬢様方をお茶会の会場にご案内します。

懇親会場には残らないように言われました。


「マリア・セレスティア王女様、ご無沙汰しております。

領主のルナ・ジャムでございます。

ネコちゃんたちは元気ですか」


「ええ、ノーラたちはすくすくと育っていますわ。

ルナ様も、すっかり領主様におなりですわね」


「ありがとうございます。

こんな遠方までお越しいただきありがとうございます」


「ノーラたちの仲間に会えると聞いて、お兄様にわがままを言って連れてきていただきましたの」


「そうでしたの。

ジャム領主のルナ・ジャムでございます。

お忙しい中、このような田舎にお越しいただきありがとうございます」


「第三王子エドワード・セレスティアです。

妹を口実に使いましたが、この軽い短剣の製作地であるジャム領に興味があってお邪魔しました。

それにしても、田舎だなんてとんでもない。

町民の服装を見ても、王都以上のセンスを感じます。しかも活気があって、珍しいものばかりでした」


「ありがとうございます。

刀剣につきましては、後程担当にご案内させますので、まずはこちらのお茶をお試しください。

アールグレイと申しまして、柑橘類で香りづけしています。

野外ですので、少し濃い目の香りにいたしましたが、もし強すぎるようでしたら香りの弱いものもございますのでお申しつけくださいませ」


「お兄様!これすごくいい香りです。味も上品な…」


「ほう、これが柑橘類で香りづけされているとは。この白磁のカップも素晴らしいですね」


「ありがとうございます。

紅茶の方も色々と取り揃えてございます。

冷たいのもございます。こちらはティーソムリエのコウミ・茶山サヤマと申しますので、こんな感じのものとお申しつけいただければ数百のブレンドの中からご要望のお茶をお出しできるかと存じます」


「そんなに種類があるんですか」


「お茶は、土地によって味が変わるだけでなく、手の入れ方で違った味を楽しめます。

それから、こちらが本日のために用意した新作のスイーツでございます。

卵をベースに上品な甘さに仕上げたプリンで御座います。

それほど日持ちしませんので、今のところ領内限定でございますが、甘いものが苦手でなければお試しください」


「すごい柔らかさですね。色もかわいいし…!

お兄様、これすごいです」


「…!こ、これは…、溶けるように甘味が広がっていく。適度な冷たさも気持ちいい」


「私は失礼しますが、本日のスイーツを担当いたしましたリナ・マルヤマでございます。

別のスイーツもございますので、ご希望をお申しつけくださいませ」




こうして、各テーブルをまわります。


ティータイムのあとは、モフモフタイムです。

アメリカンショートヘアにロングヘア・スコティッシュフォールド。ソマリにベンガルにノルウェージャンフォレストキャット。

人気どころを30匹用意しました。

通常価格金貨1000枚のところ、本日に限り金貨500枚。2千万円です。


「お、お兄様、どういたしましょう。全部かわいいです…」


「そうだね。僕はベンガルとアメリカンショートヘアが気に入ったよ」


「ああ、一人2匹までなんて、決められませんわ…」


「ネコちゃんを担当していますネネ・イヌカイでございます。

今日は2匹だけ、オオカミに近い種類のイヌを用意していますの。

とゴールデンレトリーバーとラブラドールレトリーバーになりますがご覧になりますか?」


「ぜひ!」




「こちらが、刀剣類専用の部屋になります。

軽い剣をご要望とのことですが、このチタン製のレイピアなどは軽いです。

ですが、実用的とは言えません。魔物1・2体で切れなくなります。

あとは刺殺にしか使えませんし、このような刀と切り結べば折れます」


「これほど切れそうなのに、なぜ?」


「刃が奇麗すぎるんです。油が少しついただけで切れなくなります。

それに、軽すぎて勢いが乗りません。

実用性を考えれば、ステンレス製の刀がおすすめです。

重たいですが、チタンほどではありませんが錆に強いです。

私もステンレス性の兼定レプリカを普段使いしていますが、実践ならこれ一択ですね」


「女性用にしては長く重いですね」


「70cmの本差と50cmの脇差を使います」


「試し切りはできますか?」


「巻き藁でよろしければ奥に用意してあります」


ズバッ、スパッ


「なるほど。確かに軽くて取り回しは楽だが、力が乗りませんね。

だが、刀はいいですね」


「本差で重量は1kg程度。数回なら問題ありませんが、戦を想定するとそれなりの鍛錬が必要になります」


「式典用のレイピアと本差を使い分けた方が良さそうですね」




パーティーは大成功です。

多くの注文をいただき、将来的な目途も立ってきました。

私たちは高校を卒業し、アカネちゃんの会社へ入社します。

大学にも籍をおいて、卒業だけはしておきますが意味ないですよね。

領地の方は人口も増えて王都と同じ10万人に達しました。


自警組織を持ち、法律も制定してあります。


「ソーラーパネルも増えてきたね」


「ああ、縫製工場が増えてきたし、LEDの街灯も多くなってきた。

なにより、電気自動車の充電は必要だからな」


「開拓した領地にダンジョンがあったんだって聞いたけど?」


「町を安定させたら、異世界ライフを楽しもう。

だが、軽油の貯蔵施設も増やして、農業用のトラクターとかを使えるようにしないといけないし、当分先だな。

ルナも正式に伯爵位を告げたし、日本の会社も順調だ。

屑魔石のおかげで、金貨を持ち出す必要もない」


「セバスチャンは相変わらず屑魔石の買い付けなの?」


「ああ。それを元手に骨董に手を出してな、しょっちゅう贋作を掴まされてアスカに怒られてるよ」


「世界の統一まで、先は長そうだね」


「いや、軌道に乗せてしまえばあっという間だ。

現に王都は人口の流出で、もう5万人を割っている。この国を押さえたら隣国だ。

あと2年だな。そうしたらルナ女王の誕生だ」


「ルナ様、国王がお待ちですが…」


「あ、はいはい忘れていました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

領地運営はアルバイトにお任せ! モモん @momongakorokoro3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ