第4話、茜


私の名前は橘あかね。

フルネームを漢字で紹介する時は、名前をひらがなにしている。

一応、小学校の頃から成績はトップクラスで、運動神経もいい方だと思う。

幼少の頃から、剣術とピアノを叩き込まれ、打楽器もそこそこ行ける。

胸は人並みで、お尻は小さい方だと思う。

髪は腰までのストレートヘアで、いつもリボンで結んでいる。

父は総合商社の社長で、母はデザイナー。

尊敬する人物は土方歳三。そう、新選組副長である。

二番手に位置しながらも、実権を掌握する生き方に共感を覚える。


趣味はラノベを中心とした本の読み漁りで、ゲームはしない。

そんな私に、ついに異世界が回ってきた。


愛猫の兼定とともに行こうではないか。かの地へ。




「あなたがセバスチャンさんですね。

私は橘あかねと申します。

本日より、領主三人の手足となりますので、ご承知おきくださいませ」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


「こちらが経理担当の宇佐美。

それから、料理担当の理奈。

農業担当の草山豊美と、織物担当の手崎美縫みほです。

私が、統括させていただきますので、よろしくお願いします」


「おお、いきなり5人も増えたんですね」


「時間が惜しいので、早速それぞれの事業の中核となる人を紹介してください。

経理担当はいないそうなので、帳簿を確認させていただきます」


「はい。ではマリー、宇佐美様をご案内してください」


「かしこまりました」


「あっ、会長…じゃなく、茜ちゃん、管理用に中古のパソコンと、大型のバッテリー2個買っていい?」


「プリンターはいいのか?」


「バッテリーがもたないから、印刷は生徒会室か自宅でやるよ」


「あとは、金庫用のカギも買っておけ。とりあえずは私が立て替えておく」


「了解」


「料理は、商業的な担当がおりませんので、とりあえずここの料理長でいかがでしょうか」


「では、料理長さんのお手並み拝見。茜ちゃんもあとで来る?」


「いや、今日のところは理奈に任せる」


「農業は、当家の畑を任せているトラクターでいいでしょう」


「あそこで、畑を耕している人?」


「さようでございます」


「ほーい、行ってきまーす」


「頼んだぞ」


「織物というか、仕立てですよね。当家に出入りしている仕立て屋は月に2回まいりますが、どういたしますか?」


「連れて行ってもらおう。

その前に、ミク。お前の持ち場は食堂だろう、いつまで無能を演じるつもりだ。

アスカ、お前は宇佐美と一緒に資産チェックだ」


「へっ?」


「はいはい、分かったわよ。まったく人使いが荒いんだから」


「帳簿チェックはウサちゃんだけで十分でしょ。私も街中でお金になりそうなもの見ておきたいわ」


「どういうこと?」


「聞いてなかったのか、ミクとアスカは中学の時の生徒会の仲間だ。

この二人がつるんでいるルナという人物に興味があったから、一通りチェックはしてある」


「馬車にしますか、それとも瞬間移動で」


「周りの様子も見ておきたいから馬車にしよう」


ガタゴトガタゴト


「セバスチャン、自分は瞬間移動で使わないといっても、せめてサスペンションとタイヤだけは替えておいてほしいものだ」


「はい、次回までには」


「えっ、どういう事?」


「ミックスジャム商会。設立されてもう3年になる。

実態のよくつかめない会社なんだが、金の取引と陶器や雑貨を扱っている会社だ。

前から、取り扱う商品の一貫性がなく、どこかから金を仕入れて売りさばいているという感じがあった。

昨日、ルナから話を聞いて辻褄があった。

それだけ長く日本にいて、こんな馬車はないだろ」


「さすがは橘商会のお嬢様。恐れ入った次第です」


「日本はともかく、こっちの世界で出し惜しみはなしだ」


「承知いたしました」


「だが、一つだけ忘れるな。主はルナ。肝に銘じておけ」


「わかりました」


馬車は城壁の手前を左折し、工房が立ち並ぶ通りを進んでいく。


「お待たせいたしました。

こちらが領主邸に出入りする仕立て屋で、テラズの工房になります」


「セバスチャン、転移機の余分はないのか?」


「あと3個ございます」


「じゃあ、一つをミホに渡してくれ。

あと二つ、早急に作ってもらおうか」


「承知いたしました」


「どれくらいかかる。費用と時間両方だ」


「一週間ですね。魔石を使いますので、一つ金貨10枚です」


「私の分はすべてのポイントに行けるようにしてくれ。

隠し事は好まない」


「まいりましたね。どこからそのような情報を」


「お前の行動パターンを考えると、簡単に推測できる。

それでも、二つか三つ隠しポイントを確保するだろうことは織り込んである」


「まったく、噂通りのお方ですね。

橘商会の切り札。ゼロの観察眼。シークレット・クラッシャー。

降参です。すべてアカネ様のご指示のままに」


「アカネちゃん、そんなにすごいの?」


「今までのは遊びだ。

学生と生徒会と習い事の合間に父の仕事を手伝っただけ。

だが、今日からはここが本業だ。

日本のコネもすべて使ってルナをこの世界の王にする」


「ふーん、そこまで本気なんだ。

アカネちゃんが本気なら、もう一つ上の気合を入れないとダメかな。

じゃあ、工房へ行ってくるね」


「ああ、よろしく頼む」


「ミックスジャム商会はいかがされますか」


「そのままでいいが、私の手の者を一人雇ってもらおう。

それとは別に、私名義の会社を立ち上げて、ここに関与する全員を卒業後に従業員にする」


「ちょっと待って。ここ、お金の匂いがする」


「セバスチャン、ここは?」


「鉱石を扱う工房で、私も魔石を調達する時に使います。

転移機を作るのに魔石が必要ですから、寄ってみましょうか」


カラン、「いらっしゃいませ」


若い店員さんだ。


「あら、セバスチャン様、本日は魔石の良いものが入ってますよ」


「見せてもらえますか」


「はい、こちらになります」


「おお、これは透明度が高い。おいくらですか?」


「金貨5枚になります」


「金貨5枚!ちょっと見せて」


「アスカ、それは水晶か?」


「そう。セバスチャン、あっちに魔石を持ち込んでるよね」


「ええ、向こうの宝石商にダイヤモンドだから、金よりも高価だと言われました。

ですから、どちらで買っても大差ないと…」


「ちょっと、ほかの魔石も見せていただけますか?」


「ええ、こちらが全部魔石でございますが」


「セバスチャン、向こうで見せた魔石はこんな感じだった」


「ええ、そうですが」


「お姉さん、これ以外にもクズになる魔石ってありますよね」


「ええ、裏に。木箱に入れて雨ざらしのまま放置してありますけど」


裏に回って確認する。


「アスカ、これって…」


「宝の山発見だよ。価値観が違うんだ。

多分、透明度が高いほど魔石としての価値が高い。

見てよ、ダイヤにサファイア、エメラルドにルビー。ざっと見て一億円だよ」


「金貨2000枚か、当座の運転資金にはなるな。

セバスチャン、箱ごと買い取ってくれ」


「磨いて、建物の装飾に使うということで、銀貨5枚で支払い済みです。

では、屋敷に運んでおきます」


セバスチャンは瞬間移動で箱ごと消えた。


「アスカ、戻ったら100万円以上と以下で仕訳けてくれ。

私が直接現金化する」


「ほーい」




「さて、報告を聞こうか。

宇佐美、会計の方はどうだった」


「帳簿がめちゃくちゃ。

現金の残高もあってない。

整理するまで2日ください。

この土日でやります」


「わかった。

アスカがお宝を見つけてくれたから、向こうの現金は確保する」


「それは助かります」


「次、食材の方はどうだ」


「ミクの能力で、あっちのスイーツや料理は再現できるんだけど、今日見た限りでは、向こうで売れそうな食材はないわね。

土日で、色々と加工して試してみる。

それと、こっちの食堂を回って、どんな加工してるのか、料理長以外の料理人も当たってみるつもり」


「分かった。

こっちの貴族を招いてお茶会を開く予定だから、メニューの候補も考えておいてくれ」


「了解」


「豊美はどうだ?」


「大豆、トマト、トウモロコシは植えてみた。気候は温暖だから、一年中収穫可能ね。

あとは、土を痩せさせないように工夫していくつもり」


「農業は時間がかかるな。

ミホは?」


「完全に手縫いね。

ミシンを導入したいけど、足踏み式で送料を考えると一台5万円で、交換部品なし。

やっぱり、ここにソーラーパネルつけて、電動ミシン買わない?

ただし、貴族用のドレスとか需要もレベルもわからないから、一度王都ってところへ行ってみたいわね。

ここのメイド服は、セバスチャンが向こうで買ってきたものよ。

こっちの庶民はほとんど貫頭衣レベル。布も高いし、目も粗いわ。

商業化するなら、布はあっちから輸入した方が早いわよ。

そのうえで、ミシンを使って服を作らせるなら可能ってレベル」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る