「え」


「あ」


「もしかして、おふたり。そういう、ご関係ですか?」


「あ、いや。彼女は」


「はい。今日は呼ばれてここに来ました。直々に」


「そうだったんですか」


「ちょっと。ばらしちゃいけない」


「わたしはトースターしか焼けなくて。いつも彼が、そこにいるオーナーの先生がごはん作ってくれるんですけど、そろそろ、その、わたしも挑戦したいなって」


「そうなんですか。ちなみに、その、失礼なようですが、ご結婚は」


「していません。プロポーズは、まだです」


「あら」


 おくさまがた。広がる動揺。


 ひそひそ声。ここは既婚者限定のお料理教室よね。オーナーの恋人さんが未婚というのは、いただけないわね。


 声は渦となって。


「告白しろ、という、流れになっていますが。どうしますか、先生?」


「こまったなあ」


「わたしはあなたのためなら、いつでも何枚でもトースター焼きますけど」


「う」


「わたしから告白も、いたしましょうか?」


 おくさまがた。闘技場で出す類いの、コール。結婚しろ。告白しろ。やれ。覚悟を決めろ。一撃でころせ。


 ころせって。いやいや。


「一撃でころしてくださいね?」


 彼女。


 にやにやしている。


 そう。


 美味しい料理は、全てを解決してしまう。そして今、もう、逃げられない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢の焦げる音(焼くだけは料理といえるのか) 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ