第27話
翌日、私はミクリ所長のもとに向かう。ミクリ所長は煙草をふかしていた。なぜか電子タバコではなく、昔からある、アナログな煙草。
「お疲れ様、ヒカリちゃん、僕はダイゴのところに行ってもいいし、別に男でも女でも好きな人と付き合ってくれたらいいと思う。それは君の人生だ」
煙をため息まじりで吐く。肩を落とし、何かに失望しているのかもしれない。何に失望しているのかは分からない。でもそれは、きっと、私も同じようなもので、人の意見は、感情は簡単に変えることが出来ない。
「私を異動してください。どこかそうだな、多摩の奥のほうとか。なければ辞めます」
「無理にプライバシーを明かす必要はないが………ヒカリちゃん、結局あなたはどうしたいんだ」
「私は迷いました。すごく。捧げる条件ってなんだろうって」
「それはなんだろうか」
「私がやりたいのは美術です。処女と引き換えに出来るのは、自分の最もな欲望である『美術』しかありえません。究極の絵を作るために出来る事をする、最善を尽くすだけです」
「それ以外にありえないっていうのかい」
「はい、お金も恋も、処女を交換するには足りなさすぎる、私の欲望に従うんです」
「それでいい。コピーぐらい、僕のところにちゃんと送ってくださいね」
「分かりました! お世話になりました。ありがとうございます」
「流石、表現者は違うねぇ、この世を揺さぶり続けよ、ヒカリちゃん」
本当に、ミクリ所長は情けない私をしっかりカバーしてくれた。本当にいい人だ。きっと私が何をやりたいのかは彼には伝わっていないだろう。
半年後、私はトランス状態になった男性と女性の絵を描いた。絶頂した時の、偽りのない表情、狂った表情、演じて歪んでしまった表情。裸でさらけ出しているように見えて、心は防衛線。その防衛線を超えて、快楽にイってしまった顔。東新宿発電所、輪姦ルームでの絵画だった。はっきり言って、経験を生かした、双葉ヒカリ史上最高傑作になったに違いない。
あの三人については、処女を捧げられない、捧げるにはまだやるべきことが多すぎだ、とオブラート三百枚ぐらい重ねて報告して、連絡先を削除/ブロックした。みんな、本当にごめんなさい。でも、ここまでの覚悟がなきゃ、あの作品はえがけなかった。絶対そう。
その絵画は、多摩発電所のルームで、ずっと密かに自分を撮ったカメラを参照し作られた。だから、リアリティーあるその絵を、やっとこそかけたような気がする。
「ヒカリ、この間の作品超よかったよ。先生もベタ褒めだったじゃん」
「ふふ、一大決心をしたからね、ハルカに負けてられなくてさ」
「さては、一皮むけましたな?」
「ふふ、それは乙女の秘密」
タピオカを吸う口は、少し器用になった。
梅雨明けの青空に、飛行機雲が綺麗にかかる。
日本の電力の約四割が、実はセックスとオナニーでできていた。 石田じゃが娘 @heilushi10585
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