第26話

 処女を捨てられない。


 「捨てる」という表現はこの際何もふさわしくない。代わりに、「処女を捧げる」という表現にしてみてはどうだろうか。処女を捧げる。悪くない響きだ。


 処女を捧げるときに、私は何が必要だろうか。


 美園先輩の言う通り、それは「覚悟」だ。


 覚悟があったから、他人から抱かれることに耐性が付いた。でもセックスは、あの痛みを次に超えることは構わなかった。次にワタル君の指が子宮に入るとき、私は彼を受け入れるだろうか。次にワタル君のペニスが私の処女膜を破るとき、私は彼を受け入れるだろうか。セックスするという、肉体的な関係を彼に許すことが出来るだろうか。他者を自分の中に入れるのを許す、それが果たして出来るのだろうか。


 じゃあ逆に、何があれば、セックスの怖さは、何を引き換えに克服することが出来るだろうか。他人を許すハードルの高さは、私の中でどこに差し置いているのだろう。


 ワタル君の恋心や性的欲求を裏切るか、私が痛むか。


 美園先輩の純粋な思いや仕事の矜持・貨幣の価値を裏切るのか、私が痛むのか。

 ダイゴ社長の庇護と将来の安定を裏切るのか、私が痛むのか。


 本当ならば、どれも、処女を差し出す十分すぎる条件だ。しかし、私はそれでは差し出せない。本当に痛くって、痛くって、痛みに耐えきれなくて、更に、自分の体に入ってくるのが、何かの引き換えがあってでも、どうしても拒んでしまう。


 白い壁に飾られた絵。縄に縛られた女性がこちらをじっと見つめている。自由への意志を憧れ続ける女性の絵だ。そして私が描いた絵だ。やっぱり女性は社会で弱い。社会に、いろいろなものに縛り付けられる女性は、まさに今自分のような人間を指す。絵は、私たち想像主に、いろいろ考えさせるツールとなるために生まれてきた。


 私がやりたいのは………

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