異世界勇者は異世界勇者によって王国を追放される~短編版

三枝 優

第1話 異世界勇者は追放される

その日、シャイン王国は祝賀ムードで沸いていた。

東のヘルマン帝国に蹂躙され、占領され、滅ぼされる寸前だった。

広大だった王国のほとんどが占領され、最後の砦が一つのみ残すのみとなった。

そして、聖女エスカリーナは最後の賭けを行った。

異世界より勇者を召喚したのである。


最初は頼りなく思われた年若い勇者。

しかし、その勇者の指揮のによりヘルマン帝国の部隊を次々と撃破し、砦を、城を取り返していった。

そして、ついに元の国土すべてを取り戻したのだ。

国王と第1皇子は処刑されてしまっていたが、囚われていた第2皇子を取り戻すことがようやくでき、王城に迎えることができた。


今日は、その論功行賞が王子によって行われていた。

「騎士部隊長。汝ら3つの城5つの砦を奪還した功績により伯爵の位を授ける。・・・剣士隊隊長・・・・・」

次々と各部隊に褒章が与えられる。

やがて、終盤にかかる。

「拳闘士隊副隊長。・・・・拳闘士隊とやら、お前らはもともとはヘルマン帝国だったそうだな。」

「はい、縁あってシャイン王国に迎え入れていただきました。」

ふんっ、と王子は鼻を鳴らす。

「俺は認めてないぞ、ヘルマン帝国のスパイじゃないだろうな。」

「な・・・」

ザワザワと広場は騒がしくなる。


拳闘士隊。もともとはヘルマン帝国の部隊であった。

だが、戦ううちに勇者と隊長の間で奇妙なつながりができたのであろう。

拳闘士隊の隊長が、ヘルマン帝国の内部抗争によって貶められ、命を奪われた際に部隊ごと異世界勇者の元に託されることとなった。

その後、シャイン王国の各部隊と拳闘士隊は共闘し信頼しあうまでになったのだが・・・


「そもそも、よそ者は信用ならんからな。」王子が吐き捨てるように言う。

「皇子。どういうことでしょうか?」

異世界勇者が問いただす。

「そのままの意味だ。シャイン王国の部隊として必要ない。追放しろ。」

全員が息をのむ。

領土を取り戻すためにともに戦ってきた仲間である。

戦うこともせず、幽閉されてきた王子に何がわかるというのであろう。

「本当に追放してよろしいのでしょうか?」

「構わん。いなくなった方が王国のためだ。」

にべもない王子。


異世界勇者は小さくため息をついた。

異世界勇者の次の言葉は会場全体に衝撃を与えたのであった。

「シャイン王国の皇太子が追放といったのだ。拳闘士隊は全員国外追放とする。

 王国より支給された武器・防具はすべて没収とする。

 剣士隊は国境まで拳闘士隊の護送の任を与える。」

会場は大騒ぎになった。

しかしながら、当事者である拳闘士隊は見事に膝をつき整列したまま沈黙を保っていた。

最後尾にいたエルザ(12歳)はボソッと言った。

「なんスカ、この扱い。ひどくないすか?」

「黙ってろ。」

年上の隊員に小さく怒られる。


その時、聖女エスカリーナが王子の前に進み出て声を張り上げた。

「皇子殿、お待ちください!拳闘士隊はシャイン王国のために十分働いていました。その功績に報いるべきであります、追放など取り消してください。」

「だまれ!よそ者などいつ裏切るか知れたものではないわ!もう決まったことなのだ。」

「おやめください!王国のことを思うなら。お願いです!」


聖女は振り返り、異世界勇者に縋りつくように言う。

「勇者様、お願いです。追放などおやめください。どうか・・・どうか・・・お願いです。」

聖女の瞳からは涙が流れていた。


聖女の後ろから王子が非情にも言い放つ。

「聖女エスカリーナ。もう決めたのだ。いくらそなたであっても変えるつもりはない!!」

そして、めんどくさそうに命令した。

「異世界勇者よ。命令だ!そのもの達を退場させ追放しろ!今すぐだ!。」


異世界勇者は王子に小さく頭を下げると。拳闘士隊に命じた。

「では、拳闘士隊、起立!王国から支給された防具・武器をその場に置け!」

「はい!」


しかし、拳闘士隊全員。その場に整列したままである。

もともと、拳闘士であるため武器は携行しない。しかも手甲や胸当てなどはヘルマン帝国から持ってきたものである。

王国から支給されたものなど何一つない。


だが会場に大きな金属音が響き渡った。

甲冑が床に投げ捨てられたのだ。


全員が息を飲み無言となる。

剣が・盾が床に捨てられる音が響き渡る。


静寂の中、聖女エスカリーナのすすり泣く声のみが聞こえる。

「お願いです・・・おやめください・・・」



すべての甲冑・武器を投げ捨て、異世界勇者がゆっくりと拳闘士隊のほうに歩みだす。


「異世界勇者よ・・・これはどういうことか?・・」

当惑した王子が震える声を上げる。


振り返った異世界勇者が王子に向かって言った。

「私は拳闘士隊の隊長代理だ。拳闘士隊が追放というなら私も追放何は当然であろう。」


愕然とし、王座にもたれかかる王子。

その王子に言い放つ。

「よそ者は信用ならないのであろう?」


静寂の中、聖女のすすり泣く声のみが響き渡る。


「行かないで・・・お願い・・・勇者様。見捨てないで・・・」

聖女エスカリーナに悲しそうなまなざしを向ける勇者。

しかし、顔を上げると号令をかける。


「拳闘士隊!行くぞ!」

「「はい!!」」


最後尾のエルザはつぶやいた。

「かっけー・・・」



拳闘士隊、一同は整列し王城を後にするのだった。









西の国境付近。

剣士隊長は異世界勇者にお願いしてみた。

「我々もついて行っちゃだめですか?」

苦笑いする勇者様。

「申し訳ないけれど、エスカリーナのことをお願いしたい。」

「そうですか・・・残念です。」

国境の先。荒野に目を向けて聞く。

「この先どうなさるおつもりですか?」

「さぁ。どうしようかな。仕方ないのでフリン皇国にでも行ってみることにするよ。」

「あぁ。あそこの王様は勇者様を気に入っていたので歓迎されるでしょうね。」

「それはそれで困るんだけどね。」

お互い、見つめあう。

「勇者様。本当にありがとうございました。この御恩は決して忘れません。」

「いや、もう気にするなよ。」

「それじゃ、またいずれ。」

「あぁ、ではまた」



エルザが聞く。

「副長!隊長代理も一緒に来るってわかってたんすか?」

「当たり前じゃない。私たちの隊長様ですよ。」

「うわぁ・・私だけ?慌ててたの。」

「ちゃんと信じなさい。私たちの隊長様を。」


異世界勇者と拳闘士隊20名は西を目指す。

彼らはやがて、平和な日々を得ることとなる。



だがしかし。

この事件により、大陸全土のパワーバランスがまた大きく変動することとなったのである。

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