5章 掃除機が欲しい!
宴の部分はとりあえずカット!短編か何かで挙げます。
地の文多めです。ごめんなさい!
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俺達が魔王城で仕事を始めてから、もう2週間が経った。始めの内は余所余所しく振る舞っていたが、今の生活にはだいぶ慣れて来た。モンスター達も直ぐに受け入れてくれたので、俺達は気負う必要も無かった。
仕事にも慣れ、毎日の掃除が楽しくなっているくらいだ。それに、咲良は何故か副掃除長とかいう物になっている。何を持ってしてアイツなんだ...。
掃除の仕事は週給制で、初任給は400Gだった。魔王城内の物価から考えるに、1Gは現実世界での1ドルくらいだ。つまり、1ドル=130円として52000円、だいたい1週間で5万円という事だ。月給換算だと20万くらいか。日本の初任給は平均20万くらいと言われているので、まあ妥当な金額だ。
『インフィニティ・ロード』の通過もGだったので、それと同じなのだろう。スライムを倒しても1Gだが、それは1ドルくらい、つまりジュースが買えてしまうくらいの金額だったのだ。冒険者時代に3万Gくらいの剣が売っていたが、それは車が買えてしまうくらいの金額だったという訳だ。
この世界の金銭感覚が狂っている訳では無く、実際にあれくらい手の込んだ剣はそれなりの値段になるのだろう。
魔王城の1階には大きな商店がある。雑貨、食品、衣服等色々な物が売っている所だ。いくら住み込みとは言え街に出る事はあるので、大抵の買い物はそこで済ませて来るのだが、急に必要な物が出てきた時に使う事がある。
ある夜、食事が終わって休憩をしていた頃の事。俺はシャンプーが切れている事に気づき、買いに行く事にした。もちろん街の店は閉まっているので、魔王城内で済ませる事にした。
時刻は19:30分。商店は20:00まで開いているので、俺は商店へと向かった。行った事が無かったのだでシャンプーが売っているかは分からなかったが、どうしようも無いだろう。
俺は地図を見て商店に到着し、そこで驚愕した。
商店、とは言われているがかなり大きな場所だった。ショッピングモールの大きめ有印良品と同じくらいだ。品も豊富で、量も多い。もちろんシャンプーはあった。
(次からはここ使お...)
と思いつつ、俺は商店を後にした。
おっと、商店の話はそんなに必要無かったか。話題を変えよう。
先程、仕事に慣れてきたと言ったが、最近1つ悩みがある。掃除をしていくに当たって現代人も直面した問題だ。『掃除』というのはとても大変な事だ。科学技術の現代日本人からすれば、もっと楽に掃除をしたい。
日本にあって魔王城に無い物。それは...掃除機である。掃除機は科学技術の結晶だとつくづく思う。掃除を生業にするなんて思っていなかったのだが、やってみると分かる物だ。お母さん、いつもありがとう。
魔界に掃除機なんてある訳が無いのだが、どうにも欲しい。自分で作るしか無いのか...?
掃除機の作り方は分からないが、何が必要かは分かる。『モーター』だ。モーターが有れば掃除機は作れるだろう。だが、生憎魔界にネオジムは無い。
何かモーターになりそうな物は無いだろうか...。
とりあえず皆に相談してみる事にした。
「確かに掃除機があったら便利よね。」
「掃除機なんて魔界で作れるのか?」
「モーターとか、そういう物が無いとダメかも。」
「そうなんだよな。何かそれに類似してる物を探したいんだけど...」
「魔王様に相談してみる?何か知ってそうな感じしない?」
「忙しい人だから、迷惑かも。」
「じゃあ他のモンスターに相談してみるか。」
まずは、この間の宴会でお世話になったボアに相談してみる事にした。オークとは言え、魔界の住人である事には変わり無い。
俺達は今日は休みの日なのだが、オークは働いている。オークは主に城内の警備をしているらしい。
「高速で回る物?聞いた事が無いな。」
「そうか...悪いな。邪魔しちまって。」
「力になれなくて済まない。...そうだ、商店の店主を頼ってみたらどうだ?魔界のアイテムにはかなり詳しい。」
「商店の店主...?ああ、あの人か。情報提供ありがとう、ボアさん。」
「いつでも頼ってくれよ!」
俺達は商店に向かった。俺以外の皆は商店に行った事が無いらしい。場所も分からないという感じだった。
「商店の店主ってどんな人なの?」
「会計以外で話した事は無いけど、印象からして気さくな人だと思うぞ?」
「なら良いんだけどよ。頑固親父だったら困るし...。」
「話しやすい人だと、助かるね。」
そうこうしている内に、商店にたどり着いた。今は誰も来ていない様だ。
「すいませーん!店主さん居ますか?」
カウンターに向かって呼びかけると、奥から返事が聞こえる。暫くすると、人影が見えてきた。
「お、新人くんじゃないか、今日は何を買いにきたのかな?」
中から出てきたのは、耳の長い金髪の小柄な女性だった。この店の店主、リセツさんだ。彼女はエルフなのだが、人間界と分離し、魔族に賛同したダークエルフという種族である。
「こんにちは。今日は買い物に来た訳じゃ無いんです。リセツさんがアイテムに詳しいと聞いたので、聞きたい事があって来たんです。」
「聞きたい事?アイテムについてなら出来る限り答えるよ。」
「あの、高速で回る物とか知りませんか?もしくは物凄く磁力の強い鉱石とか。」
「うーん...。アイテムだとそういう物は知らないけど、それ以外なら聞いた事があるよ。」
「本当ですか⁉︎」
「うん。植物なんだけど...グルグル草って言うんだけど、花弁が回転するらしいよ。それも物凄い高速で。しかも花弁は刃みたいな硬さでずっと回ってるらしいんだ。...獲るのは難しいと思うよ。」
グルグル草って...。物凄く安直な名前だな。花も着いてるのか。
「その情報が聞けただけで十分ですが...どこに生えているか分かりますか?」
「魔界の奥地、オーガ族の森にある山の中腹のみに生えているらしいけど、オーガも近寄らない様にしてるそうだよ。」
オーガ族の森とは、魔界の中でも辺境にあったはずだ。この世界の地形が変わっていなければ。それに凄く広い場所なのだ。その山に登った事もあるが、4人でへとへとになりながら攻略する程大変な所だった思い出がある。
だいたい、その草でモーターが出来なければ意味が無い。獲ってきて出来ませんでした、では無駄骨になる。大事な休暇にそれは避けたい。
それに収穫の仕方もどうすれば良いのやら...。
取り敢えずはオーガの森に向かうかな...。
「そうだ、アレを獲るならこれを使いなよ。もしかしたら取れるかもよ。」
リセツさんはカウンターの引き出しから何かを取り出し、俺に金属の物を渡してくれた。形はハリガネ状の鍵の様だ。
「これは...?」
「昔、店を開く前に盗賊してた時があってさ。その時に使ってたマスターキーだよ。この鍵状なら刃を止められるかも知れないからね。」
「なるほど...。ありがとうございます。大切に使わせて貰いますね!」
グルグル草がどんな物かは良く分からないが、使えると言うのなら貰っておこう。俺はマスターキーを貰い、商店を後にした。
この世界は『インフィニティ・ロード』に近い世界なので、アイテムは無限に持つ事ができる。コマンド操作でアイテムを取り出す事が可能なので、とてもエコで良い仕組みだと思う。
個人での持ち物とパーティ全体利用可能なアイテムボックスに別れていて、アイテムボックスには無限に収納出来る。持ち物は10個までだ。今俺がマスターキーを仕舞ったのは持ち物欄だ。
そんな事はどうでも良く、早速準備をしてオーガの森に向かう。ただ、1日で帰ってこられるか心配なので、明日分も休暇を取る事にした。掃除長も快く承諾してくれたので、気持ちが軽い。良い人だよな。
オーガの森に行く為には、馬車で数時間のオーガ領前まで行き、そこから川を船で登った後、徒歩で森に向かう。オーガ領に入ったらそこは敵地だったので、船もかなり大変だった思い出がある。
馬車は魔王城周辺の街から出発するので、普通の馬だ。因みに魔王城発だと吸血馬だったらしい。
オーガ領までの道のりはおよそ3時間。そこまでは安全に行けるだろうが...。
「咲良、大丈夫か?」
「うん...大丈夫よ...。」
「いや、顔色がすごく悪いぞ?陸もだ。」
「俺は...大丈夫だぜ...。」
陸と咲良が酔ってしまった。この2人は別段乗り物酔いが酷いという訳でも無かったが、馬車には凄く弱く、(特に咲良)毎回気持ち悪そうにしていた。
「あ、ごめんね。すみません、ちょっと馬車止めて頂けますか?」
「あいよ。」
御者が馬車を止めた瞬間、咲良は馬車を飛び出して岩陰に全力疾走して行った。同タイミングで陸も脱走し、反対の草むらに走って行った。
「あーあ、やっぱダメか。」
「あの2人は、馬車に弱いからね。」
聞きたくない様な音がする。ああ、虹が綺麗だな。
<オエエエエエエエエ ダイジョブカ! ダイジョウブナワケナイダロ!
色々あったが、なんとかオーガ領まで辿り着く事が出来た。これから船で川を登る。咲良達はもうフラフラの状態だが、泣きっ面に蜂とはこの事か。怯えている様にすら見える。
オーガ領に入る為には、それなりの理由が無ければならないらしい。俺達は魔王城から来たというと、理由も聞かずに『魔王様にはお世話になっているから』と言って通してくれた。そう考えると、冒険者時代の俺達はオーガからすれば不法侵入者だった訳だ。そりゃ怒るよな、訳も言わずに入られたら。
冒険者として来た時は自力で川を登ったのだが、今回はオーガ族の船頭が案内してくれるらしい。
船頭はオーガの森の住人らしく、色々な事を教えてくれた。最近になって突然冒険者の来訪が減った事、そのお陰で平和に暮らしている事、山の雪が溶けきった事など様々だ。
冒険者が減ったというのはどういう事だろうか?NPCはオーガの森なんて入らないし、俺達は4人だ。これに関しては良く分からないが、平和に暮らせているなら良しとしよう。
山の雪が溶けた。つまり安全性が増したという事だろう。雪解け水の恩恵を授かっている部分は大きいらしい。
船の中でも、やはり酔っている者が2人。この数時間、ずっと気分が悪そうにしているので流石に心配になってきたが、しっかりと川に虹を作っていた。
暫くすると、森の様な場所が見える所に着いた。船頭は「ここから徒歩で1時間くらいだよ。」と言う。船頭に礼を言って、オーガの森へ向かう事にした。
酔った2人も歩いているうちに段々と顔色が良くなって来たので、「帰りも同じ事やります」と言ったら絶望していた。
15分ほど歩いた頃に、森の中に入った。この森自体が『オーガの森』なのだろうが、船頭は1時間と言っていた。恐らくここから集落までは45分掛かるのだろう。森の中にオーガは全くおらず、ここは本当にオーガの森なのかと疑っていたが、暫くすると子どもオーガに遭遇した。
子どもオーガは3人で遊んでいる様で、とても楽しそうだ。
「こんな街から離れた所で遊んで危険じゃないのか?」
「大丈夫だよ!この森にはオーガしか居ないんだ!」
「そうなのか。だからオーガの森と言う事か。」
子どもオーガの話によると、太古の昔に人間と争いをしていたオーガ族だったが、当時の魔王様が仲裁に入って戦争は終結。この領地を与えられて静かに暮しているらしい。魔界屈指の強さを誇るオーガ族なので、他のモンスターや人間達も入ろうとはせず、今まで発展して来たらしい。
ただ、ここ数年は冒険者による不法侵入が増えているそうで、その度にオーガが倒されていくらしい。その事を嘆いたオーガの長が人間を完全に拒んだそうだ。戦争をしていたとは言え、それは過去の話で若干の人間とは交流があった様なのだが、それが全く無くなっている。と言うのが現状で、平和ではあるものの物資不足が続いているらしい。
そんな子どもオーガの話を聞きつつ、一緒にオーガ族の集落へ向かう事にした。子どもにとっても安全で、俺達も道がわかる。双方が得する条件だ。
村の位置は大体予想ができており、山の麓だろうとは思っている。しかし山をぐるっと一周する訳にもいかないので、住人に連れて行って貰えるのはとても好都合だ。
それから数十分歩き、木々の茂り方がさらに激しくなって来た頃、子どもオーガが足を止めた。少しだが人の声が聞こえる。
「ここがオーガの集落だよ!」
「連れてきてくれてありがとう。もう行って良いぞ。」
子どもオーガは走り去って行った。今はすでに昼の2時だ。半日かけてようやくオーガの集落にたどり着く事が出来たのだった。
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虹出てるのは本当にごめんなさい。
魔王軍は、本当に悪者なんですか? 仮名 永遠 @route1943
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