草凪澄人の決断④~異界を後にする草凪澄~

草凪澄御一行が異界を後にします。

澄人はひたすら姿を隠しております。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(やっとここまでこれた)


 これからが本番で、異界を去る草薙澄たちを尾行して対話をする。


 草薙澄だけと話をするのが理想的だが、他の二人ともできれば会話をしたいと思っている。


(きた!! ワープだ!!)


 草凪澄と女性二人を青色の光が包み込む。


 三人が消えたことを確認してから、俺も後を追うようにワープを発動させた。


 視界が切り替わると、そこは林の中だった。


 月明りで照らされ、辺り一面静寂に包まれている。


 俺は周囲を警戒しながら、草凪澄たちを見失わないように追いかけた。


「水鏡誠、聖、私のわがままに付き合ってくれて本当にありがとう」


 前を歩く草凪澄が後ろを振り返り、同行者に感謝を伝え始めた。


 草凪澄の顔はとても穏やかで、もう悔いはないと言っているようにも見える。


 その表情を見て、同行者の二人は首を横に振る。


「いえ……私は自分の意志で草凪様に付いていくと決めました」


「私も同じです。兄さまと一緒にいると楽しいことばかりだから、もっと一緒にいたいんです」


 誠さんと聖さんは草凪澄に微笑みかけ、彼に同意する。


 その答えを聞くと、草凪澄はうれしそうな笑顔になった。


 俺はその光景を見ながら、草凪澄たちの様子をうかがう。


 三人で雑談をしながら歩いているため、俺は一定距離を保ちながらついていく。


(常々思っていたけど、どうして聖さんは草凪澄のことを兄さまって呼ぶんだ? 苗字が皇のはずだけど……)


 なぜ皇の性を持つ者が、草凪澄を兄と呼ぶのかわからない。


 俺が知らないだけで、草凪家には何かあるのだろうか。


(それに、水鏡と草凪の関係も気になる)


 これまで三人に付いていた印象だと、誠さんと草凪澄はそこまで近い関係ではないと思う。


(水鏡家は草凪家に使える家系なのか? それにしても献身的すぎるだろう)


 それでも誠さんは、草凪澄のために水鏡家の神器を異界へ残すという決断をした。


 誠さんが草凪澄に好意を抱いているのは間違いない。


(聖さんは……草凪澄とどういった関係なんだ……)


 目的地に着いたのか、三人が立ち止まった。


 草凪澄が先頭で、少し遅れて聖さんと誠さんが続く。


 俺は最後尾で気配を殺し、会話を聞き漏らさないように集中する。


「家に着いたな」


 草凪澄が独り言をつぶやくと、聖さんと誠さんが同時に返事をした。


 誠さんはどこか悲しそうに、聖さんは緊張しているように見える。


「……兄さま、お話があります。付いて来ていただけますか?」


 聖さんが真剣なまなざしで草凪澄を見る。


 彼は聖さんの様子に気がつき、少し驚いたような顔をしていた。


「わかった」


「ありがとうございます」


 聖さんがお礼を言うと、誠さんが一歩下がり道を開けた。


「私は家に戻っておりますね」


 誠さんの声を聞いた草凪澄は軽く手を上げて応える。


 そして、二人で林の中へと消えていった。


 残された誠さんは大きく深呼吸をして心を落ち着かせようとしているようだ。


「聖さん……草凪さま……」


 誠さんの呟き声は小さく、俺以外に聞こえることはなかった。


 誠さんは二人の姿が消えるまで見送ったあと、家へ入っていく。


 俺は二人を追いかけるために走り出すが、途中で立ち止まってしまった。


(この二人は何の話をするつもりなんだ?)


 聖さんは草凪澄から離れた場所に立ち、空を見上げていた。


 二人とも表情が暗く、とても重苦しい雰囲気をまとっている。


 周囲を林に囲まれているためか、月明りだけが頼りとなっていた。


 人気はなく、虫や鳥などの鳴き声も聞こえない。


 ただただ静寂だけが辺りを支配していた。


「私は神器を勝手に持ち出した件で、皇の家から追放されるでしょう」


「すまないことをした。お前は私の妹として、実家のように草凪の家で過ごしてほしい。話は付けてある」


「嬉しゅうございます……ですが、私は……」


 聖さんの言葉が詰まる。


 草凪澄も聖さんも、お互いの目を見て話そうとしない。


「聖、私はお前のことを家族だと思っている」


「兄さま……」


 聖さんが涙を流す。


 彼女の頬を伝う滴は、月明りに照らされて輝いていた。


「ありがとうございます……兄さま」


 聖さんは草凪澄の手を取り、彼の胸に飛び込む。


 草凪澄はそんな聖さんを抱き留めると、優しく頭を撫でた。


「兄さま……本当に行かれるのですか?」


 聖さんが草凪澄の顔を見て、心配そうな顔で尋ねる。


 草凪澄はゆっくりと首を縦に振った。


「許せ聖。お前は草凪の家を頼む」


 聖さんは草凪澄の腕の中で体を震わせ、嗚咽交じりに言葉を紡ぐ。


「私も兄さまと一緒に行きたいです」


「ダメだ聖。これは私がやらなければならないことなのだ」


 草凪澄が聖さんを引き離すと、彼女に向けて笑顔を見せた。


 聖さんは涙を流しながら、草凪澄に訴えかけている。


「すまぬ! さらば!」


「兄さま!!」


 草凪澄は一言謝ってから、聖さんを置いて駆け出した。


 聖さんはその背中に向かって手を伸ばしたが、その手が彼に届くことはない。


 彼女はその場に膝を落として崩れ落ちる。


「うぅ……どうしてあの方は……」


 俺は草凪澄を追いかけつつ、聖さんの様子をうかがう。


 できれば聖さんを慰めてあげたいが、それは俺の役目ではないだろう。


(草凪澄。ようやく一人になったな)


 俺は時の回廊を降りてから、ずっと草凪澄が1人になるタイミングをうかがっていた。


 聖さんに別れを告げ、しばらく走ってから足を止めた。


 その頬には一筋の涙がこぼれている。


(よし、今なら話しかけられる)


 俺も足を止め、永遠の闇を解除してから大きく息を吸い込んだ。


(これから草凪澄と対話をする。俺はそのためにここまで来たんだ)


「おい! 草凪澄!」


 俺は大声で名前を呼ぶ。


 すると、草凪澄がこちらを振り向いた。


「誰だ貴様! どうやって現れた!」


「俺のことはどうでもいい。それより、どうしてお前はさっきの女性と離れたんだ?」


 俺は草凪澄の問いを無視して、質問をぶつける。


 草凪澄の表情からは怒りが見て取れ、俺を睨みつけてきた。


「答える必要はない。早く私の前から消えろ」


 草凪澄はそう言うと、俺に背を向けて歩き始める。


 俺はそんな彼を呼び止めようと、もう一度大きな声を出した。


「このままはざまの世界へ行くつもりか? 死ぬぞ?」


 その瞬間、草凪澄が足を止め、俺の方を振り返った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

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