草凪澄人の決断②~時の回廊へ~

澄人が時の回廊を利用して時代を転移します。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(見る以外はだめ……言葉を発するのも危険だな)


 伸ばしていた手を戻し、周りの風景を目に焼き付ける。


 瘴気を根本から解決しない限り、この光景が地球全体に広がる。


 それを食い止めるため、早く行動を開始する必要がある。


(聖奈……お姉ちゃん……夏さん……)


 頭の中でみんなのことを考えないようにして、目の前の惨状から目を離さないようにする。


(絶対に終わらせる!)


 改めて決意を固めてから、これからの行動を考え始めた。


(行く時代は……約四百年前に草凪澄が異界に行ったときだ)


【システムメッセージ】

 場所が曖昧です

 正確な時間と場所を指定してください


(なるほど……詳細な時間はわからないから、何度も試行錯誤するしかないな)


 草凪澄が四百年以上前に異界へ行った時狙い撃ちするのではなく、刻んで確認をしていくしかなさそうだ。


 異界にある首都クサナギにある大聖堂の前には、ある目印が建てられている。


 それを目安にすれば、草凪澄が異界に行った前後の時代がある程度予測できるだろう。


(四百年前の異界にある首都クサナギの大聖堂前)


【システムメッセージ】

 転移しました


 画面と同時に風景が切り替わり、異界の大聖堂前に転移したと表示されている。


 しかし、周りには大聖堂のような建物はなく、小さな教会のようなものが建っているだけだった。


(木でできた十字架が付いているから辛うじて教会ってわかるけど……これ?)


 首都の様子もだいぶ違い、木造建築の家屋や煉瓦造りの建物が並んでいる。


 だが、俺が目安にしていた救世主たちの石像だけは立派に立っていた。


(水鏡と皇の子孫の石像。ここで間違いない)


 左右にある石像の存在のおかげで、辛うじてここが俺が指定した場所と時代に間違いがないことがわかった。


(四百年前の首都は、都っていうよりも村に近いな)


 教会の前は今も昔も広場になっており、多くの人たちが行き交っていた。


 服装は現代と比べて質素なもので、剣や弓など武器を持っている人もいる。


(ここを起点に一年ごと遡れば、必ず草凪澄たちが異界を去った日がわかる)


 俺は時代転移を繰り返して草凪澄たちのことを探し出す。


【システムメッセージ】

 転移しました

【システムメッセージ】

 転移しました

【システムメッセージ】

 転移しました

【システムメッセージ】

 転移しました

 ──


 何十回目の転移を終えた俺は、左右にある石像の足元が完成していないことに気づいた。


(これって、もしかしたら……)


 もしかしなくても石像はまだ未完成で、さらに転移を進めると石柱へ変化した。


 ここから小刻みに転移を繰り返し、草凪澄が教会の前を通るのを待つことになる。


(草凪澄は異界から天界へ帰ったと言い残した……どこで?)


 リリアンさんの時代まで伝承され続けているということは、多くの人の前で草薙澄は天界へ戻ったはずだ。


 その日を探し出すことができれば、草凪澄と確実に会うことができる。


 首都の雰囲気がいつもとは違う日を特定しようと、多くの人が行き来する中、俺は転移を再開する。


 俺が直接動いてはいけないので、転移をするときに思い浮かべる場所を多少変える。


 一瞬だけ風景を見るのではなく、様子をうかがうためしばらくその時代に滞在をさせられることになった。


 今の時代も数時間が経過し、太陽が沈みかけている。


(些細な変化も見逃せない……それに和服を着ている人たちだからすぐにわかるはずだ)


 石像は二つとも和服を着ている女性のため、この中にそんな姿の人がいればすぐに気が付く。


 しかし、目を凝らして行きかう人々を観察していても、見当たらなかった。


(この日じゃないのか……気が遠くなるな……あれは……もしかして!!)


 もう何百回繰り返したかわからない転移をし終えた後、偶然空が目に飛び込んできた。


 清んだ青色で雲一つなく、澄み切った景色が広がっている。


 瘴気に覆われた異界では見たことがない空に目を奪われた。


(リリアンさんの言っていた、【暗黒の時代】からの開放ってこういうことだったのか……)


 神の使者はかつて異界を暗黒の時代から救ったとされている。


 俺は結界を作る神器のこともあり、ずっとモンスターの襲撃から解放されたことだと考えていた。


 本当は、瘴気が万延していた空から青空を取り戻したようだ。


(異界にもこんな空があったのか……これならすぐにわかる)


 俺は人を見るのを止め、ひたすら空の色だけに注目をして転移をする。


 草凪澄は神器の剣を使ってこの青空を取り戻したとリリアンさんが説明をしていた。


(暗黒を振り払った草凪澄は、俺が異界に来るのを予想していた……なるほどな)


 草凪澄は【破滅の音】が聞こえたとき、新たな神の使者が異界に来ると言い残してこの世界を去った。


 破滅の音とは瘴気が万延することで、新たな神の使者は俺のことだろう。


 どうして草凪澄は俺の時代で瘴気が万延することを予知できたのか。


(天界に帰る前の草凪澄に質問することが増えたな。会うのが楽しみになってきた)


 そう考えながら転移を繰り返しているとき、青空が消え、濃い紫色が空を支配した。


(この時代だ! 草凪澄が剣を振るうのを待てば良い!)


 空を浄化し、勾玉を渡したら草凪澄は天界に戻ると言い残して異界を去る。


 瘴気の広がる空の下、俺は草凪澄を待とうと決めた。


「おい……あれを見ろ!」


 誰かが声を上げると、周囲の人たちも一斉に同じ方向へ顔を向ける。


 俺も釣られてそちらへ視線を向けると、一人の男性が黄金の光をまき散らしながら剣を振り下ろそうとしていた。


 男性に付き従うように、和服姿の女性が二人並び立ち、それぞれ手には槍や弓を持っている。


 刀身から放たれている光が徐々に強くなり、とうとう視界がすべて金色に染まった。


「神の一太刀!!!!」


 男性の掛け声とともに、眩いばかりの輝きが辺り一面に降り注ぐ。


 黄金の軌跡はまっすぐに紫色に染まった空に向かい、雲に当たる直前に爆発を引き起こす。


 衝撃波のような風圧が地上に降り注いだのか、大多数の人が吹き飛ばされないように踏ん張っていた。


(神の一太刀は前の俺と変わらない威力だ……あの人がこの時代の草凪澄だな)


 まだ時代に干渉していない俺には影響はなく、草凪澄たちから目を離していない。


 爆風が止むと、そこには何もなかった。


 先ほどまであったはずの紫色をした空もなくなり、綺麗な青空が顔を覗かせていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は【本当に】未定です。

更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー&いいね】をよろしくお願いいたします。

これからも頑張るので応援よろしくお願いします。

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