草凪聖奈の焦り~夢の続き~
草凪聖奈視点による物語です。
以前見ていた夢が鮮明になってまいりました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「兄さま……本当に行かれるのですか?」
「許せ
私とお兄ちゃんに似ている男女が今生の別れを惜しむように抱き合っている。
(またこの夢? どんどん鮮明になっていく……)
目の前には見慣れない景色が広がり、隣には大きな屋敷がある。
ここはどこなのかわからないけど、周りにある建物はすべて石でできているようだ。
兄さまと呼ばれていた人は背が高くて、黒い髪を伸ばしている。
顔立ちも整っていて、目つきが悪い以外はとてもお兄ちゃんに似ていた。
ただ、服装だけは時代錯誤な和服だった。
「さらば!」
「兄さま!!」
その男性は何か決意をした顔をして、聖と呼ばれた女性に背を向けると、森の奥へと消えた。
(これはいったい何の夢なんだろう?)
お兄ちゃんに似た人が立ち去る夢から始まり、今ではこんな風にドラマのワンシーンだと思えるまでになった。
それにしても聖という女性は、お兄ちゃんのことをとても心配しているように見える。
でも、お兄ちゃんの姿が見えなくなると泣き崩れてしまった。
「うぅ……どうしてあの方は……」
聖という女性が涙を流す姿を見た私は胸を痛める。
彼女は自分のお兄ちゃんのために泣いているのだ。
(私もお兄ちゃんと会えなくなることになったら泣いちゃうな……グスン……)
彼女を見ていると自分の境遇と重ね合わせてしまい、感情移入してしまう。
お兄ちゃんは血の繋がったお兄ちゃんではないけれど、心では家族だと思っている。
けれど、今ではお兄ちゃんの姿を家で見かけることは少なくなり、連絡もほとんど帰ってこない。
逆に最近は、テレビの映像で見ることが多くなってしまい、私の寂しさが増していくばかりだ。
(お兄ちゃん……会いたいよ……)
私がそんなことを考えているうちに聖さんは立ち上がって、着物についた土を払っていた。
今度は何が起こるのかと眺めていたら、私へ女性が近づいてくる。
(うわぁー! すごい美人だ!!)
腰まで伸びた長い黒髪を後ろで束ねていて、切れ長の目をしている。
スラッとした体型なのに胸が大きいというアンバランスさだけど、それが逆に魅力になっていると思う。
身長も高いし、きっと男性からモテそうだと感じた。
その女性は私の前まで来ると、いきなり手を握ってきた。
「聖奈、私は生きている間に兄さまと添い遂げることはできなくなったけど、あなたは違うわ」
夢の中のはずなのに、女性から突然話しかけられたことに理解が追い付かない。
また、凛々しい声色で伝えられた言葉の意味も相まって、頭が混乱してくる。
「聞いているの? ……私は聖奈が幸せになってくれることを祈っているわ」
「は、はい……ありがとうございます……」
まだ夢を見ている感覚だったので返事をしてみたが、目の前にいる女性は私の言葉を聞いてうなずいていた。
(私は夢の中の人物と話をしているの?)
このどこか自分に似ている女性とは初対面だと思うのだが、なぜか名前を知られている上に励まされてしまった。
本当は夢じゃなくて、寝ている間にどこか別の世界に来ているんじゃないかと思い始めるほど、目の前の女性の存在が現実離れしていた。
すると、女性は何か思い出したような顔をする。
「そういえば名前を伝えていなかったわね……私は聖。草凪聖よ」
「私は聖奈です。よろしくお願いします」
私は彼女の自己紹介に対して丁寧に頭を下げた。
夢の中とはいえ、相手の名前を知らないまま会話を続けるのは失礼な気がしたのでよかった。
顔を上げると聖さんは私を見て微笑んでいるように見えた。
「聖奈は自分のお兄さんのことは好きかしら?」
「すごく好きです!」
「ふふっ……聖奈の反応を見ているとわかるわ。あなたのお兄さんはとても素敵な人よね」
聖さんに笑いながら言われて少し恥ずかしくなってきた。
(こんなにきれいなお姉さんに笑われるなんて……)
私が赤面していると、聖さんの眉間にシワが寄ったように見えた。
「だけど聖奈、このままではいずれあなたのお兄さんは私の兄と同じように会えない人になってしまうわ」
「え?」
「あなたのお兄さんは世界を救うために自分を犠牲にしようとするわ。けど、あなたがいればそんなことにはならないの」
聖さんは真剣な表情をしながら私をじっと見つめてくる。
聖さんの言っている意味が全く分からないため、少し怖いと思ってしまう。
それでも私を助けてくれるような優しい口調のため、話を続けようと口を開こうとしたが――。
そこで目が覚めてしまう。
「……夢? でも……はっきりと覚えてる」
先ほどまで見ていた夢の内容が鮮明に頭に残っている。
(お兄ちゃんの顔を直接見たいな……)
ベッドの上で上半身だけを起こしたまま呆然としていた私は、枕元に置いてある目覚まし時計を見てみる。
時刻はまだ朝の5時30分を指しており、お兄ちゃんが家にいるのなら勉強をしている時間だった。
「……お兄ちゃんに会いたい」
夢の出来事を思い出したら、お兄ちゃんに会いたくなってきてしまい、ベッドから降りる。
部屋から出るとお兄ちゃんの部屋の扉が目に入り、ドキドキしながら扉の前に立つ。
「お兄ちゃん……帰ってきているのかな……」
お兄ちゃんに会うだけなのに心臓が激しく鼓動しており、胸の前で手を握りしめた。
(よし!)
呼吸を整えてからドアノブへ手をかけ、音を立てないようにそっと開ける。
部屋の中は真っ暗で、お兄ちゃんの姿はない。
「お兄ちゃん……今日もいないんだ……」
急に力が抜けてしまい床に座ると、視界が涙で歪んできた。
「お兄ちゃんは何をしようとしているの……」
私はお兄ちゃんが何を考えていて、どんなことをしようとしていて、どうしてあんなに強くなっているのか全然知らない。
私の中でお兄ちゃんの存在が大きくなっていくたびに不安も増していく。
「聖奈か? そんなところでなにをしておるんだ?」
「おじいちゃん……」
私がグズグズと泣いていたら、いつの間にかおじいちゃんが後ろに立っていた。
心配そうな顔をしてこちらを見下ろしている。
「泣いておるのか? ほれ、こっちに来るんじゃ」
「うん……」
おじいちゃんに手招きされてリビングへ向かう。
ソファーに座っていると、おじいちゃんがホットミルクを作ってくれた。
お盆に乗せたマグカップを受け取ると、甘い香りが鼻腔を刺激する。
一口飲むと、体の芯から温まっていき、気持ちが落ち着く。
「聖奈……少しでも澄人に追いつきたいという気持ちがあるのなら、あの矛を使いこなしてみんか?」
向かい合うように腰かけたおじいちゃんは私の目をしっかりと見据えてきた。
その視線からは、私がどうしたいのかを確かめようとしていることがわかる。
「あの矛って、お兄ちゃんと戦った時の矛だよね? 私が使ってもいいの?」
「本来継ぐはずの澄人にはあの剣があるからの。ワシ以外に使うなら聖奈じゃろう」
「私でいいの……?」
おじいちゃんは優しく微笑んでうなずいている。
(お兄ちゃんと肩を並べられるようになるためには……あの矛しかない!)
あの矛を使いこなせば、お兄ちゃんと一緒に戦えるようになる。
私はマグカップに入った牛乳を飲み干すと、勢いよく立ち上がった。
「おじいちゃんまずは戦い方を教えて!」
「そう言うと思ったわい。では、早速修行を始めよう」
私はこの日から毎日のように朝早くから起きて、おじいちゃんと修業をする日々が始まった。
お兄ちゃんと同じ場所に立ちたい。
お兄ちゃんの隣で一緒に戦うために、ただそれだけを目指して――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は【本当に】未定です。
更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー】をよろしくお願いいたします。
今日でこの物語が2周年を迎えました!!
ここまで読んでくださった方々、誠にありがとうございます。
これからも完結に向けて執筆を続けますので、応援よろしくお願いします!
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