草凪澄人の選択⑨~澄人対平義先生~

澄人が平義先生と特別試合を行おうとしております。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 競技場に戻ると、平義先生が地面に刺した大剣の柄へ両手を乗せて待っていた。


 真剣な顔つきをしており、一触即発の雰囲気が漂っている。


(かすかに圧を感じる……けど……これは……)


 平義先生は競技場内を威圧するように気を放っているため、勝負は既に始まっていると判断してもよさそうだ。


 ただ、その圧が弱すぎて、全く脅威を感じられない。


 これでは、俺が本当に平義先生と本気で戦っても大丈夫なのか不安になってくる。


(雰囲気を出すために弱い圧をかけているのかもしれない……俺も応えるか)


 環境を作るために周りの大人たちまで協力し、中央にいる平義先生の圧に気をやられている演技をしているのがわかる。


 ヒヒイロカネの剣を片手に持ち、平義先生と向かい合うように歩き出す。


 同時に平義先生と同じように気を放つために【強者の威圧】を発動させた。


 格上の相手でもひるませることができる強者の威圧なら、どこまで相手をできるのか見極めることができる。


「これ……は……」


「なにが……」


「くっ……耐えられ……ない……」


「うぅ……」


 俺が気を放ち始めた直後、試合を見るために周りにいた大人たちや部員が膝をついてうずくまり始めた。


 特にこの追い出し会を取材していた人たちはバタバタと倒れ出す。


 辛うじて立っているのは師匠やじいちゃん、香さんに夏さんといった実力がある者だけだ。


 香さんは一般人の人たちを守るために結界を張り、俺の気を受け流す。


 俺と対峙している平義先生は目を見開いてこちらを見た後、歯を食いしばり、顔を真っ赤にして耐えていた。


 ただ、平義先生は耐えるのに必死で、満足に戦えるようには見えない。


(これじゃあ実力差がありすぎて義間先輩が期待する戦いにならないんじゃないか?)


 俺は心配になってしまい、小手調べのつもりで剣を振り上げる。


 ヒヒイロカネの剣に雷を帯電し、振り下ろすと同時に平義先生へ向かって解き放った。


 轟音が響き渡り、地面をえぐりながら一直線に進む電撃が平義先生を襲う。


 大剣を盾にして身を守ろうとしていた平義先生だが、攻撃を防ぎきれずに後方へと吹き飛ばされた。


「がはッ!!」


 そんなに魔力を込めていないにもかかわらず、衝撃で競技場の壁に叩きつけられた先生が血を吐いて倒れ込む。


 そのままピクリとも動かず、起き上がる気配もない。


「「「「…………」」」」


 俺は呆然としながら立ち尽くしてしまい、周りの観戦している人たちも口を開けて固まっていた。


(攻撃力EX・剣術X・雷Sだと、ただのキング級ハンターは相手にもならないのか)


 俺は自分の力を過信しないように気を付け、大剣が転がっているところまでゆっくりと歩み寄っていく。


 大剣を持ち上げ、穴の開いた刀身を確認してから、平義先生の近くへ投てきする。


 俺の投げた大剣が壁へ突き刺さる。


――ドスッ!!


 鈍い音を響かせたあと、会場が静寂に包まれた。


 俺はそれを気にせず、強者の威圧を続けながら辺りを見回す。


「俺……草凪澄人は、草凪の血を引いてはいない!」


 はっきりと言葉を発してみると、みんな一様に息を飲み込んだ。


 大勢の前ではっきりと言葉にすることにより、周知の事実にする。


 じいちゃんと目を合わせると、聖奈から検査結果を聞いたのか、複雑そうな顔をしていた。


「では俺は誰なのか……世界最強の血脈を表す、草凪の澄の字を受け継ぐ者だ!」


 この場に集まった大人たち――さらには、画面の向こうにいる人たちへ宣言するために、はっきりと言い切る。


「同じ血脈を引き継ぐ、草凪正澄へ勝負を申し込む!!」


 自分を証明するために、俺はこんな方法しか思いつかなかった。


 今日やることになるのは予想外だったが、みんなが見ているので都合が良い。


 じいちゃんへ勝負を挑み、その返答を待つために強者の威圧を解く。


 俺が放つ圧がなくなったことで、倒れたり、うずくまっていた人たちが立ち上がっていた。


 観客の大人たちもざわめき始め、俺とじいちゃんのことを交互に見比べている。


 そんな中、じいちゃんは俺の方を見ながら不敵に笑みを浮かべた。


「ふむ……どうやらわしも本気で戦わないといけないようだ……広、あの矛はあるか?」


「万全の状態にて……使われるのですか?」


「あの澄人の相手をするには必要じゃ、持ってきてくれるか?」


「はっ、かしこまりました」


 じいちゃんは師匠へ声をかけ、【矛】と呼んでいた武器を持ってくるように頼んでいた。


 わざわざ師匠へ頼むということは、普通の矛ではないはずだ。


 観客がいるスペースから競技場の中央まで跳躍してきたじいちゃんは、俺の目の前で仁王立ちした。


「澄人よ。少し話をしよう」


 俺だけに聞こえる声で話しかけてきたじいちゃんは今までに見たことがないほど真剣な表情をしており、どんな話が出てくるのか構えてしまう。


「おぬしは、自分が何者だと思う? そして、その力は何のためにあると思う?」


「俺はじいちゃんの孫である草凪澄人……だけど、ハンターの祖である草凪澄の生まれ変わりだよ」


「なんとっ!? ……その話、本当か?」


「直接本人から聞いてきた。俺の力を使って世界を救ってくれって」


 俺が神域で直接聞いてきた話を口にすると、じいちゃんは一瞬だけ驚いた顔をしてすぐに笑顔になる。


「……よくわかった。わしの【孫】はすごいな」


 じいちゃんの大きな手が俺の頭を優しく撫でてくれた。


 じいちゃんに撫でられる心地よい感触に身を任せていると、師匠が長い木箱を持ってきた。


 俺の頭から手を離したじいちゃんは、師匠の持ってきた木箱を見据える。


「正澄さま、お待たせいたしました。天之瓊矛あめのぬぼこです」


「うむ……再びこれを使う時が来るとはな……」


 じいちゃんは天之瓊矛と呼ばれた矛を手に取り、俺に向かって切先を向ける。


 矛を水平に持ったまま、俺の胸元に狙いを定めてきた。


「澄人よ。これは初代さまが草凪の澄の字を継ぐものへ残した天之瓊矛じゃ」


「天之瓊矛……」


 ただの無垢な矛にしか見えない外見だが、強烈に神聖な風格を感じ取れる。


 自分の直感に確信を持たせるため、じいちゃんの持つ矛へ鑑定を行う。


【鑑定結果】

 神器:天之瓊矛


(やっぱり神器か……)


 神話で国を生み出したとされる矛を持つじいちゃんは、ゆっくりと口を開いた。


「おぬしが澄の字を引き継ぐ者かわしが全力で見極めてやる!」


 じいちゃんがここにいる全員へ聞こえるように大きな声でそう言うと、天之瓊矛が淡い金色の光を放ち始める。


 黄金の光は矛全体に広がり、じいちゃんの身体全体まで包み込んだ。


 光が収まってくると矛の穂先が金色に輝き、持ち手の部分が白い炎で包まれていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は【本当に】未定です。

更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー】をよろしくお願いいたします。

このペースがいつまで持つのか自信がありませんが、精一杯執筆を続けております。

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