草凪澄人の選択⑦~聖奈のやらかし~

聖奈が血縁関係のことを公表したことが澄人にばれました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(どうせ聖奈に教えたら隠し通すことなんてできないし、説明をする手間が省けた)


 聖奈へ気にするなと手振りで伝え、平義先生の方へと向き直る。


「それで……だな……」


 先生が何を言うべきか迷ったまま黙り込んでしまったため、俺の方から切り出すことにする。


「なんで一年生は誰も戦っていないんですか?」


「ん? ああ……試合のことか?」


 俺が質問すると、先生が意外そうな表情をして俺の顔を見る。


 それから、競技場に視線を移し、戦いが行われている部員を確認していた。


「一年は卒業生とは戦わない」


「実力差があるからですか?」


「そうだ」と言いながら平義先生がうなずき、競技場の脇にいるアラベラさんたちへ視線を移して話を続ける。


「楠やアラベラは補助型ハンターだから、なおのことな」


 アラベラさんは【癒し手】で戦闘で負傷した部員の治療をしながら楽しそうに会話をしていた。


 同じように真さんや楠さんも、戦っている部員のサポートをするように動いている。


 他の一年も、同じように試合進行などの裏方に徹しており、誰一人として卒業生と戦っていなかった。


 俺がこうして平義先生と話をしているだけなのが申し訳ないくらいだ。


「ただ、一年はこの後に特別試合が組まれている」


「特別試合……ですか?」


「三年が見たいと希望した対戦だ」


「どんな対戦ですか?」


「希望結果がこれだ」


 平義先生がそう言いながら取り出した紙を俺へ手渡してくる。


 そこには【草根高校ミステリー研究部追い出し会 一年試合表】と書かれていた。


【草根高校ミステリー研究部追い出し会 一年試合表】

第一試合 水守真友 対 天草紫苑

第二試合 草地翔  対 白間輝正

第三試合 草凪聖奈 対 立花朱芭

第四試合 草凪澄人 対(     )


 内容を確認すると、俺の対戦相手の欄が埋まっていない。


(これじゃなかったのか?)


 楠さんがあれだけ必死に呼びかけてきた理由がこの対戦だと思っていたため、俺の相手がいないことに疑問を覚える。


 俺の考えていることを読み取ったかのように、平義先生が口を開く。


「お前の相手は俺だ」


「先生と対決……ですか?」


 どうして先生たちの中で平義先生だけが戦闘準備万端なのか、少し考えればわかることだった。


 俺とのんびり観戦をして、卒業生と対戦しようとしなかったため、やるならここしかない。


(先生と戦うのか……どこまで力を出そうかな……)


 三年生が俺と平義先生の対戦を見たいとのことなので、どのように力を見てもらうのか工夫する必要がある。


 俺が戦い方について真剣に考えていると、平義先生が俺の肩を叩いてきた。


「そんなに難しく考える必要はないぞ。いつも通りでいい」


「いつも通りに戦えばいいんですか? ……わかりました」


 先生の言うとおり、特に作戦を練る必要はなさそうなので、素直にうなずいておく。


 先生は話ができて満足したような顔で競技場を見つめ、俺もつられてそちらに視線を移す。


「三年の追い出し試合が終わったため、これより一年の戦いを始めます!」


 ちょうど、現部長である天草先輩が一年の試合を始めようとしていた。


 真友さんの対戦相手である紫苑さんが競技場に上がってくる。


 競技場の中央で向かい合う2人は、お互いの手を見合って相手の出方をうかがっていた。


 真友さんはタクトのような棒を持ち、紫苑さんは両手に短剣を装備していた。


「はじめ!」


「水の精霊よ!! お願い!!」


 その掛け声と同時に、真友さんがタクトを振るい、紫苑さんへ向かって水の球を高速で何十個も射出する。


「こんな攻撃!!」


 その水の球を、紫苑さんは両手で持っていた短剣を器用に使ってすべて弾き飛ばしていった。


 弾かれた水の球が観客のところまで飛んでいき、水飛沫が散っている。


(短剣に魔力をまとわせている。親和性が高いんだな)


 俺がそんなことを考えている間にも、真友さんと紫苑さんの攻防が続いていた。


「まだまだ!!」


 紫苑さんが右手に持っている短剣で斬りかかり、それを真友さんが避けながら水の精霊による攻撃を繰り出す。


 それを防ぎながら左手に持ったもう1本の短剣でカウンターを仕掛けるが、真友さんがバックステップで回避していた。


 お互いに攻めきれない状況がしばらく続き、会場中が息を呑んで見守っている。


(真友さんがいつの間にか水の精霊を使えていることにも驚くけど、紫苑さんもずいぶん速くなったな)


 二人の成長具合に関心しながら見ていると、紫苑さんが何かに気が付いたように顔をこわばらせた。


 二人の攻防を見続けていると、なぜか紫苑さんの動きが悪くなってきている。


 同じように接近戦をしているのに、紫苑さんだけが急激に消耗していた。


(紫苑さんがだいぶ苦しそうだ……真友さんなにをしているんだ?)


 なぜか急に動きの悪くなってきた紫苑さんが焦っているように見える。


 そうしているうちに、攻撃手段が短剣しかない紫苑さんが簡単に真友さんに距離を取られてしまった。


「紫苑さん、もう降参して。呼吸ができなくて苦しいでしょう?」


 紫苑さんは真友さんの言葉を聞いても首を横に振り、何とかできないのか画策しているようだ。


「じゃあ容赦しないから!」


 そう言いながら、真友さんは紫苑さんに向かってクルクルと回しながらタクトを向ける。


「囲んで」


 無慈悲な真友さんの一言で紫苑さんは巨大な水の塊に飲み込まれた。


「がぼっ!?」


 水の中で空気を求めるかのように手足を動かすが、紫苑さんの抵抗むなしく、ぐったりと動かなくなる。


「勝者! 水守真友!!」


 審判である天草先輩の判定を聞き、真友さんが水の球から紫苑さんを開放した。


 それから、競技場の中央に横たわる紫苑さんに近づき、手を差し伸べる。


「お疲れ様。大丈夫?」


 紫苑さんがゆっくりと起き上がり、真友さんが手を離すとそのままへたり込んだ。


 まだ息が整っていないようで、胸を大きく上下させている。


「先手必勝だと思ったんだけどな……やられたよ……ゴホッゴホッ!」


 紫苑さんは悔しそうにつぶやくと、咳き込みながら飲み込んでしまった水を吐き続ける。


 真友さんが紫苑さん背中をさすりながら俺と目を合わせてきた。


 なんで何もしないのとムッとした表情をしているように見えたので、俺は苦笑いをしながら手を紫苑さんへ向けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は【本当に】未定です。

更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー】をよろしくお願いいたします。

できるだけ明日からも頑張ります。

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