草凪澄人の選択⑥~三年生追い出し会へ~
澄人が三年生のために異界から戻ります。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いつものように視界が切り替わり、なぜか地下の競技場にミス研の部員が集まっていた。
三年生を囲うように下級生が座って話を聞いているようだ。
全員がハンタースーツを着ているため、制服のままでは目立つ。
集団を見守るように数人の先生が立っており、その中で一人だけ武装している平義先生の姿を発見した。
(あそこなら目立たないから横に行こう)
俺は壁際に移動してから、平義先生の横で着替えた後に永遠の闇を解除する。
まだ気が付いていない先生へ小声で話しかける。
「平義先生、静かに聞いてください。澄人です」
「……来れたんだな」
先生は困惑する表情を浮かべるものの、俺が間に合ったことに安堵していたようだった。
そして、他の人に聞こえないように注意をしながら会話を続ける。
「これは何が始まるんですか?」
「三年生の追い出し会の前に挨拶だ。毎年この時期にやることになっていて、義間の挨拶が終わったら、卒業生が指名した在校生と戦う。もうそろそろ始まるぞ」
先生が視線を向けると、ちょうど壇上へ前の部長だった義間先輩が上がってきた。
義間先輩は希望に満ち溢れた表情で在校生を眺める。
「今年は特別な一年だった」
義間先輩が感慨深くそう口にすると、何人もの部員が同意するようにうなずいている。
その様子を見た後、義間先輩がゆっくりと話し出した。
「俺たちが過ごしてきた2年間なんて比較にならないくらい、充実した時間を過ごすことができた」
義間先輩の言葉に全員が耳を傾け、それぞれがこの一年を振り返っている。
その中には俺も入っていて、この部活で過ごした日々が走馬灯のように浮かび上がった。
(好き勝手やっていたから、先輩たちには迷惑ばかりかけたな)
特に皇高校が攻めてきた時のことが忘れられず、あの時はみんながいなければ草根高校が制圧されていただろう。
壇上にいる義間先輩も目を軽く閉じ、記憶を思い返しているようだ。
「みんなも知っていると思うけど、うちの部はとても弱かった。俺たちの代は……他校から雑草世代なんて呼ばれていたくらいだ……それなのに……」
義間先輩が言葉を詰まらせると、卒業生たちが応援するように大きな拍手をする。
涙ぐんでいた義間先輩は一度深呼吸をし、再び口を開いた。
「そんな弱い部に……入部してくれた新入生たちがいる!」
その言葉をきっかけに拍手の音が大きくなる。
義間先輩の目にも光るものが見え始めており、その気持ちが伝わってくる。
「きみたちはプラチナ世代と呼ばれ、過去に類のないくらいの栄光をこの部活にもたらした! 逆に、困難を持ち込んだ時の後処理がどれだけ大変だったか!!」
両手を握りしめながら訴えるが、卒業生や在校生たちの笑い声が響き渡る。
平義先生も肩を揺らして笑っており、義間先輩が少し照れくさそうな顔をして咳払いをした。
俺もそんな光景を見ながら笑っていると、壇上にいる義間先輩と目が合う。
俺に気が付いた義間先輩はクワッと目を見開いてこちらを指差す。
「草凪澄人!! 主に貴様が原因だ!!」
義間先輩の声が競技場中に響いたことで、会場中の視線が俺に集まった。
義間先輩と平義先生以外は俺が来たことに気付いていなかったため、動揺が広がる。
急に名指しをされた俺が手を振って応えるとさらに場が混乱した。
しかし、そのざわめきの中で妙な会話が混じる。
(なんで聖奈の方をしきりに気にする人がいるんだ?)
なぜか聖奈のことをチラ見しながらひそひそと話している人が数人いた。
「お前のおかげで最高の1年になった!! ありがとう!!」
雑音を気にせずにそう言い切って強引に話を終えた義間先輩は、大きく息を吐いてから壇上から降りていく。
義間先輩は座っている部員たちの前に立ち、力強く拳を突き出す。
「在校生! 本気でかかってこい! 雑草集団の意地を見せてやる!!」
拳を握りしめ、闘志をむき出しにしている義間先輩を見て、全員がやる気をみなぎらせている。
あらかじめ組み合わせが決まっていたのか、その後すぐに対戦が始まっていた。
試合中ではない卒業生の周りには在校生が集まり、思い思いの話を楽しんでいる。
そんな中でも俺の周りだけは静かであり、誰も話しかけてこない。
「…………」
「……ぁ……ぉ……」
主に俺の横にいる平義先生が原因で、何かを言いたそうにして口を開こうとしては閉じるを繰り返しているからだ。
その空気を察して、在校生はもちろんのこと、卒業生さえも近づいてこない。
しなばらくしてからようやく先生と目が合い、覚悟を決めたように俺へ話しかけてきた。
「聖奈からお前たちの関係について聞いた」
「……どんな関係ですか?」
DNAの検査結果を聖奈は知らないはずなので、なにを伝えたのか見当がつかない。
ただ、俺が聞き返すと、先生はスマホを取り出して操作を始める。
そして、その画面を俺に見えるようにして差し出してきた。
「なるほど……聖奈に検査結果を見られていたんですね」
「ああ……そういうことだ」
平義先生の画面を見た俺は自分のスマホをアイテムボックスへ入れっぱなしにして何も見ていなかったことに気付かされた。
ただ、なぜ聖奈がミス研全体のグループメッセージで公表するようなメッセージを送ったのか理解ができない。
(この文面は……みんなへ送ったことがわかってないんじゃないか?)
最初は真友さんだけに送ったようだったが、場所を間違えてしまい、そのメッセージを他の人たちが見てしまった。
その結果、聖奈が自分の意図していない形で公開してしまったのではないかと予測を立てる。
現に俺のスマホには聖奈からの謝罪するメッセージが届いており、今も会話の合間合間に何度か申し訳なさそうにこちらを見てきていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は【本当に】未定です。
更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー】をよろしくお願いいたします。
出先で頑張りました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます