草凪澄人の日常④~スキル実行~
澄人がじいちゃんの思い浮かべている人物に対してスキルを実行します。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【ワープ不可】
「どういうことだ? 人物が特定されているのにワープ先も蘇生もできないなんて……」
「ダメだったのか?」
つぶやく俺の声に反応し、じいちゃんが心配するようにこちらを見ている。
「そうみたい、協力してくれたのにごめんね」
「いや、いいんじゃ。わしの記憶を取り戻してくれてありがとうな」
じいちゃんが俺の頭をクシャっとなでて、お礼を言ってから脱衣所を後にした。
残された俺はドライヤーで髪を乾かしながら、神の祝福とワープが不発に終わった理由を考察する。
(亡くなっていないから神の祝福が使えなかったのはまだわかる……ワープが使えないのはどうしてなんだ?)
ワープはハザマの世界で戦っていたじいちゃんのところにもいけるチートスキルだ。
世界の境界線を無視できるワープが使えないとなると、どこにもいないということになる。
(生きてもいないし、死んでもいないって意味が分からないな……)
いくら考えてみてもそれらしい原因が思いつかない。
「はぁ〜どうしようかな」
そのまま布団に入るものの、俺は一向に眠りにつけないまま朝を迎えた。
昨日の寝不足のせいで体が非常に重く、ぼーっとしてしまう頭のまま家を出る。
通学路を歩いていると後ろから肩を強く叩かれた。
「お兄ちゃん、先に出るなら声をかけてよ」
「おはよ聖奈。ごめんな」
「……お兄ちゃんどうしたのその顔、血色悪いよ?」
追いかけてきた聖奈に謝ると、困ったように顔を覗き込んできていた。
肩の叩かれ具合から微妙に聖奈が怒っていそうだったが、それを覆すほど俺の顔色が悪いらしい。
「なんでもないよ。眠れなかっただけだから」
「本当? 無理してないよね?」
聖奈が疑うように俺のことを見ながら横に並んでくる。
一日眠れないくらいの不眠状態は神の祝福で簡単に治すことができるだろう。
「これくらい平気だから行こう」
「うーん……ちょっと待ってて」
聖奈が自分のバッグに手を入れ、スマホを取り出そうとしていた。
俺はその様子を何も言わずにボーっと眺める。
「もしもしヘレンさん? 昨日のお兄ちゃんについてなんですけど——」
ヘレンさんへ電話をかけ始めた聖奈は、俺のことを気にしながら話を続ける。
電話を切ると、開き直ったような笑顔を向けられた。
「お兄ちゃん。病院で休むついでに、検査をすることになったよ」
「どういうこと?」
いきなり病院へ行けと言われても何が何やらさっぱりわからないため、詳しい説明を求めようとした時、俺たちのそばに真っ赤なスポーツカーが止まる。
「二人とも、おはよう。聖奈説明は?」
「病院へ行くとだけ伝えて、なにもしていないです」
「そうなの? わかったわ」
ものの数分で颯爽と現れたヘレンさんが車の窓ガラスを下げて挨拶をしてきた。
聖奈と少し会話をしてから運転席を出ると、助手席側に回ってドアを開ける。
「澄人、とりあえず乗ってくれる? 病院へ向かいながら説明するわ」
おそらく病院へ行く件は俺が了承すればすぐに実行できるようにお膳立てられていたのだろう。
そうでもないとこんなに早くヘレンさんが直接俺を病院へ連れて行こうとはしない。
普通に病院に行くだけではないだろうなと思いつつ、うなずくことにした。
「わかりました」
二人の視線を感じながらも車に乗り込んで、荷物を足元に置いてからシートベルトを着ける。
窓の外を見ると、聖奈が小さく手を振るので手を振り返したところで車が動き出した。
聖奈は一緒に行かないんだと思いつつ、運転席に座るヘレンさんの横顔を見る。
「それでヘレンさん、どうして病院へいくことになったんですか?」
「あなたの休息と、健康診断よ……表向きはね」
「表向き?」
聞き返した時に信号待ちとなり、横目でこちらを見たヘレンさんがフッと軽く笑った。
「そう、表向き。本当の目的は、あなたの体に興味がある研究者たちが色々な検査をしたいんですって」
「検査……ですか。断れなかったんですか?」
「まあね。私やソニアも定期的に受けているし……体に異常かないか調べるのは本当だから」
「それならいいですよ」
「よかった。平義さんには連絡をしてあるから、学校のことは気にしなくてもいいわよ」
準備が周到すぎて、ヘレンさんの手際の良さに感心してしまう。
(やっぱり、俺が行くって言うだけにしてあった……さすが完璧な管理者だ……っと、そうだ)
検査をするのなら今俺の体を蝕んでいる睡眠不足という状態異常を回復させておく。
自分の体へ神の祝福をかけると、あれだけぼんやりしていた思考がクリアになるのを感じだ。
体も快調になり、寝不足による体のダルさがきれいになくなった。
(こういう使い方もいいかもな)
神の祝福の蘇生する以外の使い道を発見して喜んでいたら、ヘレンさんが呆れながら口を開く。
「奇跡の無駄使いじゃないの? 今の髪一本で人を蘇らせるっていうスキルでしょう?」
「よく知っていますね」
「あなたが境界内死亡者を蘇生しているかもって、噂されているわよ?」
「そうなんですか? 口止めしているはずなのに」
「口止めって……私にはバレてもいいわけ?」
「ヘレンさんは俺の不利益になることはしないでしょう? 信頼してます」
「またそんな言い方を……」
困ったように頬をかいたヘレンさんの表情は満更でもなさそうだった。
そんな話をしていたら、夏さんが作ってくれた【あのリスト】のことをを不意に思い出す。
「俺から1つ質問しても良いでしょうか?」
「急に改まってどうしたの?」
「いえ、なんとなくです」
「答えられるものなら答えるわよ」
ハンドルを握ったまま俺の方へ顔を向けたヘレンさんに、前からずっと聞こうと思っていたことを口にした。
「ヘレンさんやソニアさんたちご両親も境界でなくなったんですよね?」
俺が質問をした瞬間、ヘレンさんの表情が強張ったものとなる。
そして、数秒沈黙が続いた後に小さく息が漏れ出た。
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ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は未定です。
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