草凪澄人の日常③~浴室にいるじいちゃん~

澄人がじいちゃんの入っている浴室に入室してしまいました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「澄人、せっかくじゃ、体を洗ってやる」


「えっ!? 」


「久しぶりに一緒に風呂へ入ろう」


 有無を言わせないように力強く言われてしまい、断れない状況だと思ったのでお願いすることにした。


 じいちゃんへ自分のボディタオルを渡すと、お湯が優しくかけられる。


(なんか恥ずかしいな……)


 じいちゃんは黙々と俺の体を洗い始めており、何を話せば良いのか全く思いつかない。


「大きくなったのう」


 されるがままに洗われていると後ろからつぶやくような声が聞こえてきた。


 最後にじいちゃんとお風呂に入ったのが五歳くらいのはずだ。


(そりゃあ10年以上経っていれば大きくなるだろ)


 じいちゃんの声は俺に言っているわけではなく、独り言のような感じだったためあえて聞き流した。


 そんなことを考えている間に全身泡だらけにされ、シャワーのお湯で流される。


「ふぅ……」


 ようやく終わったと思い、ホッとした瞬間、上からお湯が落ちてきた。


「ぶっ……なにするんだよ!」


「はははは!! 次は頭じゃ!!」


「急にかけるのは止めてよ! びっくりする!」


「スマンスマン、さっきは驚かされたから仕返しをしようと思っての」


 俺の文句に対して全然悪びれた様子がない。


 急にお湯を被せられたことに怒りがこみ上げたが、笑い続けるおじいちゃんの姿を見たらどうでも良くなった。


「なんだよそれ……」


「ほれ、目を閉じろ。シャンプーをするぞ」


「子どもじゃないんだから」


「わしにとってはいつまでもかわいい孫じゃ」


 言われた通りに目を閉じると温かい液体が髪の毛にかかる。


 その後すぐに、わししゃわっしゃと豪快に頭を擦られた。


「痒いとこはないか?」


「……ないです」


「それは良かった」


 頭を洗われるのが気持ちよく、自然と力が抜けていくのを感じる。


「よし、これで終わりじゃ。流すぞ」


 声とともに頭がシャキッとするほどの力加減から解放された。


 ザバーッという音と共に大量のお湯が頭からかけられ、髪の間を通り抜けていく。


「さっぱりした。ありがとうじいちゃん」


「しっかり温まってから出てこい。風邪をひくなよ?」


「うん、わかってる」


 俺が返事をした後、ごしごしと頭を撫でてくれた。


 じいちゃんはそのまま浴室を出て行き、脱衣所で服を着始める。


「ふう……気持ち良い」


 俺が浸かるには大きすぎるお風呂に入り、ゆったりと足を伸ばす。


 お世辞抜きに極楽と言える感覚に浸っていると、浴室の扉がノックされた。


「澄人、そのままでいいから少し良いかの?」


「うん、大丈夫だよ?」


 少し間があってから、静かにドアが開けられる。


 隙間から見えるじいちゃんの顔は険しく、真剣な眼差しをしていた。


「澄人、お前は小さい時の記憶はどこまで覚えておる?」


「小学校に入る前のことはあまり……」


「そうか……まぁそれならちょうどよいか……」


 言い淀むように言葉を詰ませていたじいちゃんは、意を決したようで言葉を続ける。


「わしは……澄人と聖奈が孫だということはわかるんだが……二人の両親の名前や容姿が全く思い出せん」


 静かな声でそう告白をしてきたじいちゃんへ俺は驚いたりしなかった。


(やっぱり……か)


 前に質問をした時にも、じいちゃんは「年のせいか思い出せない」とごまかしていたのでなんとなく予想はしていた。


 それでも、直接その事実を伝えられると心にのしかかるものがある。


 それだけ言って立ち尽くしてしまったじいちゃんを見ていられず、視線を下げる。


「今澄人と風呂に入って、お前と聖奈を沐浴したことや離乳食を作ったことを思い出した……ただ、両親のことだけは思い出せなかった……」


「じいちゃんって結構忘れている記憶ってあるの?」


「ん? ああ、レッドゲートに飲み込まれてから戦いばかりで、その前のことは曖昧じゃ」


 話を変えた俺の意図がわからないまま、じいちゃんはまじめに答えてくれていた。


 浴槽から身を乗り出し、じいちゃんの瞳を見つめながら話し始める。


「あのさ、そのまま記憶を探るようになにかを思い出そうとしてみていてくれる?」


「…………わかった。やってみよう」


 じいちゃんは眉間にシワを寄せて難しい顔をしたままゆっくりとうなずく。


 目を閉じて昔の記憶を思い出そうとするじいちゃんへ手を向け、神の祝福を発動させる。


 能力なんていう形のないものを認識できるため、記憶を復活させることもできるはずだ。


(【古い記憶】は大脳皮質に溜められている! そこへ神の祝福を!)


 俺はじいちゃんの記憶を【蘇らせる】ために神の祝福へイメージを乗せた。


「お……おおお……記憶が鮮明になっていく!!」


 ただでさえ大きなじいちゃんの目が見開かれ、感動したような声が漏れている。


 両親について何か手掛かりになりそうなことを思い出してもらえればと考えていた。


「澄人と聖奈は15年程前にわしが直接……二人の父親から預かった……わしの息子じゃ……なぜ忘れていたんだ……」


「思い出せたんだね」


「その時の二人はまだ本当に小さくてのう……」


 じいちゃんは涙を流し、風呂に入っている俺へ優しいまなざしを向けてくる。


「じいちゃん! その人の顔を忘れないでよ!」


「もちろんじゃ、もう忘れぬわ!」


 それさえわかればワープが使えるので、俺は急いでお風呂を上げって着替えを終える。


「じいちゃん、まだ顔を思い浮かべている!?」


「うむ! 安心しろ! 鮮明に映っている!」


 それを聞いてほっと胸をなでおろした。


 じいちゃんの記憶を頼りに神の祝福を発動させる。


 しかし、神の祝福が発動したにもかかわらず、光は何もせずに飛散してしまった。


(ダメだ反応がない。やっぱりどこかで生きているのか?)


 蘇生がダメなら直接出向けばよいので、ワープを発動させる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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