草凪澄人の日常②~腕をつかむ聖奈~
聖奈が澄人の腕を力強くつかんで離そうとしません。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お兄ちゃん、さっきのお店で女性に囲まれて嬉しそうだった」
聖奈らしくない感情が顔に出ており、話している内容が予想外すぎてすぐには言葉が出てこなかった。
「なに? 本当に嬉しかったの?」
「えっと……嬉しいっていうか……そんなことは考えてなかったかな……」
聖奈の問いかけに対して上手く答えることができず、苦笑いを浮かべてしまう。
それが気に入らなかったのか、聖奈はさらに頬を膨らませて不満げにしていた。
「お兄ちゃんはああいう人たちが好きなんだよね」
「え?」
聖奈が言っていることが理解できず、呆けた声を出してしまった。
すると、聖奈はより一層機嫌が悪くなったように感じる。
「あの人たち、みんな可愛かったもんね?」
「確かに綺麗な人だったけど……」
「やっぱり! 胸も大きい方がいいんでしょ!!」
聖奈の言う通り、確かに魅力的な体型をしていた人もいたけど、聖奈の方が美人だしスタイルも良いと思う。
聖奈の勘違いに焦る中、俺は何とか説得しようとするが、聞いてくれずにどんどんとエスカレートしていく。
「お姉さんに言いつけてやるんだ! お兄ちゃんが巨乳好きって!!」
「ちょ、それはダメだって!! 誤解だ!!」
「お兄ちゃんのバカ!!」
聖奈は俺の腕を投げるようにして離し、勢いよく走り出す。
俺はそれを追いかけたのだけど、全然追いつける気がしない。
(どうしてこうなるんだよ!!)
ただお店を巡っていただけでどうして聖奈と喧嘩になっているのかわからなかったが、今はとにかく必死に追いかけることしかできなかった。
「お兄ちゃんのバカー!!」
「聖奈待ってくれ!!」
街中で兄妹の追いかけっこが始まり、周りの人が驚いた様子で俺のほうを見ている。
俺がどんなに呼びかけても聖奈には聞こえていないようで、ただひたすら前だけを見て走っていた。
(まずいな……悪目立ちしている……)
こんなところを知り合いに見られるわけにもいかないため、どうにかして聖奈に追いつく必要がある。
俺は聖奈との距離を測りながら加速するタイミングを待つ。
それでもなかなか聖奈が止まらず、交差点に差し掛かって足を止めようとした。
「フッ!!」
聖奈が短い息とともに跳躍して、片側二車線ある道路を軽く飛び越える。
俺は雷の翼と身体能力向上を発動させ、その着地点へ向かって駆け出した。
「聖奈、捕まえた」
「あ、お兄ちゃん!?」
落ちてくる聖奈のの体をキャッチして、人混みの少ない場所へ向かう。
腕の中に収まる聖奈は抵抗せず、むしろ顔を真っ赤にして大人しくなっていた。
はぁ……と息を吐き落ち着くと、聖奈の顔を覗き込んで視線を合わせる。
「聖奈、さっきはどうして逃げたの?」
「……ごめんなさい」
シュンとして落ち込んだ姿を見せられては、強く叱ることができない。
頭を撫でてあげると、少しずつ顔を上げて潤ませた瞳で見つめてくる。
「お兄ちゃん、恥ずかしいよ……」
口ごもりながらボソッとつぶやく姿に、思わず心臓が高鳴ってしまった。
自分たちの状況を客観的に見ると、人気の無いところで俺は聖奈をお姫様抱っこしている。
この体勢はまずいと気づき、聖奈をゆっくりと地面へ降ろす。
「聖奈、ごめんな。俺が悲しませたんだよな?」
「ううん、私が勝手に怒っただけだから……お兄ちゃんは何も悪くないの……」
聖奈の顔は赤くなっており、照れ隠しなのか首筋に垂れていた汗を拭っている。
(どうしようかな。今日はもう帰った方が良いのかもしれないけど……)
そう思って聖奈を見ると、不安そうにしながらもじっと見上げてきていることに気付く。
このまま帰れば聖奈は俺が怒っていると勘違いをすると思う。
(運動をしたおかげで少しはお腹が空いたし……行くか!)
俺は聖奈の手を取って、逆の手でお腹をさする。
「お肉を食べに行こうか。お腹空いてきた」
「……うん♪」
2人で手を繋ぎなおすと、飲食店が並ぶ通りに向かって歩き始めた。
◆◆◆
「食い過ぎた……もう何も入らないぞ……」
聖奈と焼き肉を食べてから、ラーメン屋に行き、最後にシャーベットを食べて帰宅した。
俺はベッドに横になり、膨れた胃を押さえるようにしながら仰向けになる。
「明日は学校なのに何やってるんだろうな?」
自嘲気味に笑った後、時計を確認しようと頭を動かすとスマホのランプが点滅していることに気が付く。
【今日はとても楽しかったよ! 付き合ってくれて本当にありがとう! また行こうね! 途中で怒鳴ってごめんなさい】
夜は朱芭さんたちとどこかへ行くと言っていた聖奈からメッセージが送られてきていた。
【こちらこそ楽しい時間を過ごせた。誘ってくれてありがとう】
感謝を込めて返信をしておいたけど、今でもあの時機嫌を悪くした理由がわからない。
朝から連れ出されて考えるのも疲れたので、寝る前にお風呂に入ろうと着替えを持って部屋を出た。
洗面所で服を脱ぎ、浴室へ入ると大きな背中が俺の目に飛び込んでくる。
「ん!? 澄人か? 急にどうした?」
「……じいちゃんごめん、気付かなかった」
じいちゃんが体を洗っていることを確認すると、自分の不注意に申し訳なくなって謝ってしまう。
いつもはこのようなことがなく、俺が突然入ってきたことにじいちゃんを驚かせたようだ。
「何かあったのか?」
「えっと、その……」
聖奈のことを話すわけにもいかずに口ごもってしまい、じいちゃんは困り果てた表情をしている。
(なんて言えばいいんだ?)
必死になって考えているとじいちゃんが、ザバッと浴槽から立ち上がった。
六十代後半とは思えない肉体に思わず目が釘付けになる。
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次回の更新時期は未定です。
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