草凪澄人の日常①~聖奈とお店巡り~

澄人が聖奈につられてお店を巡っております。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お兄ちゃん! 次はこっちだよ!」


「もう十軒も行っただろう!? まだあるのか?」


「まだまだあるよ! たくさん調べたんだから!!」


 俺は聖奈に手を引かれ、今日何軒目かわからないスイーツのお店へ入る。


 朝から飲食店にも何軒か行っており、レシートの枚数で合計の軒数がようやくわかるほどだ。


(これは一体いつまで続くのだろうか……)


 朝の七時に聖奈から家を連れ出されたはずなのに今はもう午後に差し掛かっていた。


 しかし、未だに聖奈は俺の腕を放そうとしない。


 ちなみに、この前に行ったスイーツショップでもケーキやマカロンなどを奢らされ、両手いっぱいにある紙袋も結構な重さだ。


(今のうちにアイテムボックスへ……)


 聖奈が次々に商品を購入するため、すでにアイテムボックスの中にはたくさんの食べ物が入っている。


(こんな量、いつ食べるんだろうか)


 そうこう考えているうちに次の目的地に着いたようだ。


 目の前にはオシャレな雰囲気漂う建物があり、外から覗くと女の子たちが楽し気に会話をしている姿が見えた。


(あ、甘い……空気が甘い……疲れる……)


 中に入ると甘い匂いに包まれるけど、その分だけ疲労感が増す気がする。


 聖奈と一緒に店員さんへ案内されて席に着くけど、疲れ切っていて全くメニューを見る気がしない。


「お兄ちゃん頼まないの?」


「……またスイーツだろう? お腹いっぱいだよ」


「今度はフルーツがたくさん乗っているんだよ? お兄ちゃん好きでしょう?」


「確かに好きだけどさ……それとこれとは——」


 鼻歌交じりで注文をする姿を見ると断りづらい。


 聖奈の上機嫌な様子を見てると、今日は妹にとことん付き合うしかないと思えてくる。


(まあ、リフレッシュには良いか)


 しばらくすると女性の店員さんが注文を取りに来たため、聖奈が笑顔を浮かべながら次々と伝えていく。


「お兄ちゃんのは、フルーツパフェでいいよね?」


「ああ、それなら食べられそうだ」


 十分後、 目の前に置かれたフルーツパフェを見て、俺は顔を引きつらせてしまった。


 両手で受け取ったガラス容器にこれでもかというくらいフルーツが盛られている。


(なんだこの量は……ここスイーツがメインのお店だよな!?」


 少なくとも大食いの人が来るようなお店ではないはずだ。


 どうしてこんな量のメニューがあるのか困惑していたら、前に座る聖奈と目が合う。


 目を輝かせ始めた聖奈はごまかすように笑顔になる。


「お兄ちゃん、ごめんね。カップル用のフルーツパフェを注文しちゃったみたい」


「カップル用って……二人でもこの量はきついだろ……」


 見栄え重視で作られたようなサイズをしており、とてもじゃないけれど食べきれるものではない。


「大丈夫だって! 二人で一緒に食べればきっとおいしいよ!」


 そういう問題ではないだろうと言いかけた時だった。


「あのー、もしかして、救世主さんですか?」


 三人の女子大生っぽいグループが声をかけてきたことで言葉を遮られてしまう。


「えっと……そうですけど……」


「わぁ〜やっぱり本物だ!! 握手してもらってもいいでしょうか!!」


「握手ですか? いいですよ?」


 一人が俺の手を取ると同時に残りの二人も手を見てソワソワしている。


 彼女たちの行動の意味がよく分からず戸惑いながら手を握り返すことにした。


「写真を一緒に——」


「お兄ちゃん溶けちゃうよ、アーン」


 スマホを取り出して俺と写真を撮ろうとしていた女子大生の言葉を遮り、聖奈がスプーンを俺へ向けてくる。


 とっさのことで反応できず、そのまま口元まで運ばれると甘さが広がっていく。


「美味しい?」


「美味しいけど……」


(この状況どうすればいいんだろうか……)


 言葉を遮られた女子大生は気まずそうに俺たちの様子を見ているし、周りからは好奇の目が集まっている気がする。


 そんな中、聖奈だけが平然としており、アイスや生クリームがついていない部分をすくって差し出してくる。


「お兄ちゃん食べてよ。減らないじゃん」


「いや……自分で……」


「自分でなに? 私が食べさせるの嫌なの?」


 ジト目になり睨みつけてきて断れない雰囲気を作ってきた。


「えっと……握手ありがとうございました、失礼します!」


 立ち去る女子グループを見送ったあと、聖奈の方へ視線を向けると満足そうにしている。


 やっと終わったかと安心しようとしたときだ。


 目の前へスプーンが迫っていた。


「アーン」


 とびっきり笑顔の聖奈の顔を見ながら覚悟を決めるしかなかった。


 その後、俺へ食べさせるのを満足した聖奈へ、アーンと繰り返すことになるとは思わなかった。


「ふー、食べた食べた。今日は甘い物、もういいや」


「満足してよかったよ」


 お店を後にし、聖奈がお腹をさすりながらにこやかな表情をしている。


 流石にもう帰るんだよなと口にしようとした時、聖奈がまたスマホに目を移していた。


「私、焼き肉が食べたいんだけど、お兄ちゃんお昼はなにか食べたいものある?」


「焼肉!?」


「うん、甘い物ばかりだったから今度はガッツリとしたものが食べたくならない?」


 突然の提案を受けて思わず聞き返してしまった。


(お店で散々スイーツを食べさせておいて今度は焼肉!?)


 聖奈は笑顔のまま俺の返事を待っており、本気で焼き肉のお店へ行こうとしていた。


「わかった。今から向かうとするか」


「やった♪ 早く行こう」


 俺は観念するように大きくため息をつくと、聖奈から腕を組まれてしまう。


 弾む気持ちを抑えられない聖奈だったが、腕組みは少しやりすぎだ。


「聖奈、腕はちょっと……」


「ヤダ」


 腕を振りほどこうとすると、聖奈がギュッと力を入れてしがみついてくる。


 直前まで見せてくれていた笑顔が消え、少し怒ったような目で俺を見てきた。


「私、さっきのこと怒っているんだよ?」


「え? なに? さっき?」


 身に覚えのないことに戸惑うと、聖奈は俺を掴み手へさらに力を入れてきた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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