清澄ギルドの休息~聖奈の目覚め~
清澄ギルドの面々が旅館で休息をとっています。
草凪聖奈視点での物語になります。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さようなら聖奈、元気でな」
「待ってお兄ちゃん!!」
お兄ちゃんが背を向け、どこか遠くへ行こうとしている。
必死に手を伸ばすが、いくら追いかけても大好きなお兄ちゃんへ届かない。
「待って!! 待ってよ!! お兄ちゃん!!」
そして……私の伸ばした手は宙を掴み——そこで目が覚めた。
(またこの夢……私どうしちゃったんだろう……)
ふと隣を見ると、朱芭が規則正しい寝息を立てながら眠っていた。
連日境界への突入しているせいで疲労が溜まっているのだろう。
私も宿泊の旅館についてから食事を楽しむ余裕もなく、お風呂で寝かけてしまった。
(誰も起こしていないよね。よかった)
他のメンバーも深く寝ているのか、私が起きたことに誰も気づいていないようだ。
(まだ深夜の二時……少し眠れそうにないな……)
静かに布団から出て、私はトイレへ向かうために部屋を出ることにした。
トイレを済ませた後は、部屋と同じ階にある談話室のようなところで考えにふける。
(なんだか変だなぁ……何が原因なんだろう? やっぱりお兄ちゃんと会っていないからかな?)
もう一度眠れるようにコップへ甘いホットミルクを入れ、少しづつ口に含む。
その甘さがじんわりと口の中に広がり心地いい気分になったのだが──。
(お兄ちゃんと離れ離れになるのは嫌だな。二度と会えないとか考えたくない)
やはりどうしても夢で感じた悲しみを思い出してしまうのだ。
(いつもなら嫌な夢くらいすぐに忘れられるはずなのに……っ!?)
ただただボーっとしていたその時だった。
突如全身の血流が激しく脈打ち始める。
お兄ちゃんのことを考えるだけで頭がポーっとし、次第に意識が自分の体を離れていくかのような錯覚に陥った。
何かが私の思考を妨害しているように感じる。
(いつもなんなの!? 私の邪魔をしないで!!)
不思議とその違和感はすぐに消え去ったが、体中が汗でびちょびちょになってしまった。
寝巻がまとわりついてとても気持ち悪いため、もう一度大浴場で汗を流したい。
──カラカラカラ。
昔ながらの引き戸を開ける音を鳴らし、浴室へ足を踏み入る。
引き戸を閉めると、誰かがシャワーを浴びている音が聞こえてきた。
(貸し切りだと思ったのに……仕方ないよね)
大きなお風呂へ一人で入ることなんて滅多にないため、残念だが諦めることなりそうだ。
浴槽へ入る前にシャワーを浴びようとしたら、先に入っていた人と目が合う。
「聖奈? 寝ていなかったの?」
「香さん? 今お風呂ですか?」
お互いにこんな時間にお風呂に入っている相手が知人だということにびっくりしてしまい固まる。
一緒に入浴することになるとは思ってもみなかったため、私はタオルを持ったまま立ち尽くしてしまった。
香さんも体を洗っていた手を止めて、まじまじとこちらを見つめてくる。
「体、洗うんでしょう? 洗ってあげようか?」
「え……そんな……」
「来なさい、泡立てているからついでにしてあげる」
よく見たら香さんは美女であるため、顔が赤くなっていくことが自覚できた。
女性同士だというのにも関わらず緊張してうまく喋れない。
「お願い……します……」
「こっちへいらっしゃい、あっちを向きながら座りなさい」
香さんに促されるまま背を向けて座ると、ボディソープのついたスポンジが背中に当たる。
石鹸の良い香りと共に優しく肌に触れられる感触がくすぐったく思わず笑ってしまう。
鏡越しに映っている香さんの表情はとても優しかった。
「最近ね、私怖い夢を見るの」
「夢……ですか?」
「そう、これが全部夢で……目覚めたら、澄人がいない現実……っていうね……」
声色こそ変わらないもののどこか寂しげな様子が伺える。
普段強気な態度しか見ていなかったため、香さんの口からこのような言葉が出てくることに驚くことばかりであった。
しかし、私も同じような夢を見ているため、不安になる気持ちはわかる。
「私も同じような夢を見ました。私の場合は、お兄ちゃんがどこか遠くへ行く夢です」
「聖奈も? 私たちのことを心配させる澄人には美味しい物でもご馳走してもらわないとね」
「それいい考えですね」
「でしょ?」
香さんのいたずらっぽい笑顔を見て、心の中のモヤモヤがすーっと晴れていくような気がした。
二人で目を合わせてくすりと笑い合い、冗談を言い合えたことに安心することができた。
「よし! 終わったわね、湯船には浸かるの?」
「そのつもりです」
私が立ち上がると同時に、香さんが自分の体にシャワーを当てていた。
髪をまとめてから前髪をかき上げていたために綺麗なうなじが見えてしまいドキッとする。
(モデルみたいに美人だし、スタイルもいいんだからもっとおしゃれをすれば良いのにもったいないな……)
同性ながら憧れの目線を送っていると、視線を感じたのか香さんが振り向いた。
「入らないの?」
「は、入ります」
私が体へお湯をかけてからゆっくりと湯船へ腰をおろすと、香さんが横に座ってくる。
「解れるわねぇ……」
気持ちよさそうなため息を聞いた私は、思い切ってお兄ちゃんのことをどう思っているのか聞いてみることにする。
「あの、変なことを聞いても良いですか?」
「変な内容によるけど、言ってみて?」
「あの……やっぱりなんでもないです」
お兄ちゃんを異性として見ているか聞くのは止めておくことにした。
私が押し黙ってしまったことで、香さんは首へお湯を手でかけながら口を開いた。
「聖奈は好きな男の子がいるの?」
「えっと……私は……まだ恋愛とかは早いかなって思うんです」
「ふーん、そうなの」
香さんの言葉にはドキッとさせられたが、この答え方は合っていると思い、質問に答える。
お風呂に入ったことによる火照りだけではない汗が流れ出てくるのを感じてしまう。
香さんはそれを聞いて微笑むだけでそれ以上何も言わなかった。
「あ、あの! 体を洗ってくれてありがとうございました! よく眠れそうです!」
香さんにお礼を言った後に部屋へ戻っても、まったく眠ることができなかった。
(どれもこれもお兄ちゃんが悪いんだから!)
眠れなくなった私は、お兄ちゃんにご馳走してもらうご飯やスイーツをスマホで調べて過ごすことにした。
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ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は未定です。
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