第9章~日常の変化~
清澄ギルドの変化~境界大量発生~
この話より第9章になります。
境界が大量発生しており、澄香がギルド員を引き連れて対応しております。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「真! 終わったわ! 次はどこへ行けばいいの!?」
「北東に二十キロです! B級とC級境界が一つづつあります!」
「すぐに向かうわ!」
真の指示に従い、マイクロバスに飛び乗って急発進する。
後ろには清澄ギルドへ加入したばかりの新人たちがすでに乗車していた。
「夏、次はBとCよ。メンバーの振り分けをお願いできる?」
「了解です」
隣に座る夏は眼鏡の縁を上げながら答えてくれた。
今、世界中で境界が大量発生している。
それに対処するため、私たち【清澄ギルド】は一週間以上日本各地を回っていた。
現地のハンターでは対処できない高ランクの境界を主に請け負って、各地を駆け巡っている。
「澄人さまは大丈夫でしょうか?」
夏が手を止めて心配そうにつぶやく声を聞き、私は適当にラジオのチューニングを合わせた。
『──ザザザ……救世主がイギリスのA級境界を攻略しました!』
「元気みたいよ?」
「よかったです」
ラジオで澄人の安否を知ることが今の私にとって楽しみになっている。
A級の討伐報告を聞いて、夏も嬉しそうな顔をしながら窓の外を眺める。
(澄人があらかじめ世界に向けて今回の危機を発信してくれたおかげで被害が少なくすんだ)
異界でのモンスター対応のために結界石を大量に使ってしまい、近日中にかつてないほどの境界発生があると、澄人が警告を出していたのだ。
そのおかげもあって世界中の人々が協力して境界攻略に努めているからか、今のところ境界はオーバーフローしてない。
(有望なこの子たちが加入してくれて助かった。私と夏だけだったらこんな数、攻略できないわ)
二つ名がある三人は世界ハンター協会の任務に就き、平義さんは草根市で活動しているため、実質清澄ギルドで動けるのは私と夏だけだった。
攻略してきた境界の危険度と数を考えたら、加入してくれていなかったら大変なことになっていたことだろう。
(本当に感謝しても仕切れないわね……この子たちには……)
この騒動の直前に加入を希望してくれた新人たちは澄人が目をかけていたこともあって非常に優秀だ。
私の横で地図を広げていた夏に質問をする。
「メンバーは決まった? 時間的に次が最後になりそうだけど」
「はい。大体、私と香さんは分かれるとして、聖奈さんと朱芭はB級に突入してもらいます」
「私と朱芭が一緒なんですか!? やったー!」
「聖奈、ちょっと……B級境界だよ? もう少し緊張感を……」
後ろに座る聖奈が遠足に行くかのようにはしゃいでおり、朱芭が困った顔をして注意をしていた。
他にも平義先生のお弟子さんや、水守家の才女が賑やかに会話をして、車の中は非常に騒々しくなっている。
そんな光景を見て、私は小さく笑ってしまう。
(まさか、こんな風になるなんて……)
私たちだけだったらこんな雰囲気にはなれなかった。
それこそ、澄人がハンターとして活動する前には考えられなかった光景だ。
私は助手席に座っている夏の方をチラッと見る。
すると目が合い、こちらに向かって微笑んでくれた。
彼女と出会った頃とは見違えるほど明るい表情をしており、胸の中がくすぐられるような感覚を覚える。
「もうすぐ着くわよ? みんな準備は良い?」
バックミラー越しに後部座席の様子を確認すると、全員がいつでも戦闘ができる態勢をとっていた。
これなら安心だと安心し、アクセルを強く踏み込むと車はスピードを上げて現場に向かう。
◆◆◆
(やっと終わった……ようやく休める……)
車の窓から外を見るともう真夜中になっており、今日の活動が終わったことを実感させられる。
B級とC級の攻略を終えて帰宅途中なのだけど、運転しながら寝てしまいそうだと思っていた。
「夏、ホテルまではあとどれくらい?」
「一時間弱くらいですかね……後ろの子たち大丈夫でしょうか……」
「疲れ切って寝ているわね……」
後部座席にいる六人は疲労の限界を迎えたのか、思いっきり眠りこけている。
ギルドのアジトで境界の観測を担当していた真には休むように言ってあるので、彼女も今ごろは夢の世界にいることだろう。
私は起こさないように優しい運転を心掛けつつ、カーラジオのスイッチを入れた。
「古い車なので雑音が多いですね……ニュースに合わせます」
夏が気を利かせてニュースのチャンネルに周波数を合わせてくれる。
ラジオから雑音が混じったアナウンサーの声が流れてきた。
『──速報です! Sランクの境界が発生したとの情報が入りました! これまで観測したことがない、ザザザ──』
「肝心なところで……」
「場所と突入予定者を調べますね」
夏はそう言うとポケットに入れていたスマホを取り出して操作し始めた。
(ただで貸してくれるって言っていたけど設備が悪いからか……)
今度ギルドでマイクロバスを買ってしまおうと決意するのに時間はかからなかった。
「夏、詳しい事わかった?」
「えっと……出ましたけど……」
夏はスマホを操作する指をピタッと止めて、眉間にしわを寄せている。
少し不思議そうな顔をしている夏に対して私は声をかけた。
「S級境界で日本発生なら私たちも動員されるでしょう? いくことになりそう?」
「いや……それが……発生した直後に消えたみたいです」
「…………え?」
予想外の答えについ素っ頓狂な声で返事をしてしまう。
夏は再びスマホを操作しながら口を開いた。
「金色の光が吸い込まれた直後に消えたらしいです」
「……澄人よね……間違いなく」
「だと思います……」
S級境界を一瞬で消し去るなんて、澄人以外にできそうなハンターはいない。
(澄人は今どこにいるのかしら……)
澄人が世界を飛び回っていることは理解しており、今回もその類の話だとわかっている。
しかし、これだけ長い間離れているとついつい心配になってしまう。
その気持ちを見透かされたかのように夏から声を掛けられた。
「心配……ですよね……澄人さまのこと……」
夏に私の顔色から感情を読み取られたことに気付き、苦笑いをしながらうなずいた。
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ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は未定です。
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