草凪澄人の日常⑤~ヘレンの両親~

澄人がヘレンの両親について話を聞いています。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……夏澄が調べていたわね……そうよ。私とソニアの両親は境界で亡くなったわ」


「答え辛いことを教えていただき、ありがとうございます」


 予想していたことではあるけれど、その返答を聞いた俺は素直に感謝の言葉が出る。


 ヘレンさんは首を横に振って気にしていないと言ってくれた。


(俺が知らない人をイメージだけで蘇生……してみる価値はある……)


 じいちゃんの時には不発だった方法が本当に不可能なのか、実験に付き合ってくれる人は限られている。


 無関係の人に希望を持たせてダメだった時のことを考えると、できる限り関係者で試すしかない。


(あとはヘレンさんがどれだけご両親のことを覚えているか……だな)


 どのタイミングで蘇生の話を切り出すか。


「着いたわ。この病院よ」


 そう悩んでいるうちに目的地の病院へと着いてしまったようだ。


 二時間近く走った後に到着した場所は都会にある大きな大学病院だった。


 外来患者用の入口とは別の場所にある受付に行き手続きを終える。


 少し待ってくださいと言われたので今しかないと思い、ヘレンさんへ話を切り出した。


「ヘレンさん、ご両親のことはどれくらい覚えていますか?」


「忘れたことがない。最後に境界へ行く前に振り返ったときの顔は鮮明に覚えている」


 俺から視線を外さずにしっかりと見つめてくれる瞳がとても力強い。


 それだけ強い記憶が残っているのであれば、神の祝福の対象になるだろう。


「俺から1つの提案があります」


「…………聞こう」


 俺の真剣な顔をじっと見据えたまま、無言で先を促してくれた。


「失敗するかもしれませんが、ご両親を蘇らせてみたいと思います。どうでしょうか?」


 ヘレンさんが目を閉じてから、ゆっくりと瞼を開き再び俺を見つめる。


 そのまましばらく時間が経ったところで、ふぅと息を吐いてから言葉を返してくれた。


「頼む。私も両親に会いたい……やってくれるか?」


 普段はキリッとしていて頼りがいのあるヘレンさんが、弱々しく微笑みながら返事をしてくれる。


 その様子に、今まで彼女が抱えてきた寂しさのようなものを感じ取った。


「全力を尽くします」


「……無理はしないでくれ」


「こちらへ」


 俺は力強くうなずき、使ってなさそうな部屋に移動してからヘレンさんの背中へ手を添える。


 心を落ち着けるために静かに深く呼吸を行い、ヘレンさんへ言葉をかける。


「ご両親のことを思い浮かべてください」


「わかった」


「準備ができたら合図をお願いします」


「…………」


 集中してくれているのか、ヘレンさんから返事はない。


 俺はその間に自分の魔力をヘレンさんへ注入する。


 すると、ヘレンさんの周りを薄っすらとした金色の光が覆うようになった。


(準備が終わった。あとは神の祝福を発動させるだけだ)


 神の祝福の対象をヘレンさんへ託しているため、あとは彼女の記憶力次第だ。


「思い浮かべた。やってくれ」


「いきます」


 俺はヘレンさんの合図を聞き、神の祝福を発動させた。


 ヘレンさんの体を覆っていた金色の光が彼女を離れ、部屋の中央に集中する。


(頼む! 成功してくれ!!)


 俺は必死の形相をしながら金色の光を見守った。


──パァッ──シュンッ


(4つ!? どうして!?)


 集まっていた光が弾けて、四つの塊になってしまった。


 どういうことなのかと見守っていたら、二組の男女が俺とヘレンさんの前に現れた。


 全員ハンターのような恰好をしており、三十代後半くらいに見える見た目だ。


 ヘレンさんの両親を蘇生するはずなのに四人の人が現れたことに戸惑っていると、ヘレンさんの足元から水滴の落ちる音が聞こえる。


「パパ? ……ママ?」


 ヘレンさんは涙を浮かべ、恐るおそるという感じに声をかけている。


 声を聴いた四人が俺たちに気付き、信じられないといった表情を見せる。


「その声は……ヘレンなの? これは死後の世界なのかしら?」


 ヘレンさんと同じミルキーブロンドの髪の女性が困惑した顔のまま、泣きそうになりながらも笑顔を作るという器用なことをしている。


 ただそんな女性の声を聞いた途端、ヘレンさんの目からはポロリと大粒の涙を流してしまった。


「ああ……会いたかった……もう二度と会えないと思っていた……ママ! ママッ!!」


 ヘレンさんはずっと我慢していた気持ちをぶつけるように同じ髪色の女性へ抱き着き号泣してしまった。


 女性は戸惑いながらも慈しむようにヘレンさんを抱き留め、金髪の男性が寄り添う。


(この二人がヘレンさんのご両親……じゃあ、こっちの二人は?)


 ヘレンさんと抱き合っていない方の男女に目を配る。


 女性のほうは明るいブロンドだったが、男性の髪質が赤みがかった金髪をしている。


(もしかして……)


 ヘレンさんの身近で赤みがかった金髪をしている人は二人しかいない。


 もしかして思いつつ、俺はスマホをビデオ通話にしながらある人物へ電話を掛けた。


 呼び出し音の後に『もしもーし?』気の抜けたような女性の声が流れる。


「スミト? 急にどうしたの? 私の声が聴きたくなっちゃった?」


 地球の至宝とも例えられるスマホの向こうにいる女性の声を聴き、もう片方の男女が俺と目を合わせた。


 スマホの画面にソニアさんが映っていることを確認してから、スマホを男女へ向ける。


「ソニアさんのご両親ってこんな感じの人ですか?」


「んー? えっ!? パピーとマミー!? どうして!!??」


 ソニアさんの反応から、もう片方の男女は彼女のご両親で間違いないようだ。


 積もる話があると思うため、俺はスマホを目の前の男性へ渡す。


「……これは夢なのか?」


 男性は自分の頬を軽くつねって確かめたあと、画面に映るソニアさんへ視線を移す。


「どうぞ、お話をしてあげてください。終わったら、ヘレンさんに事情を聴いてください」


 そう言い残し、俺は退室しようと部屋を出たところで振り返る。


「ごゆっくりどうぞ」


 俺は深々と頭を下げてから部屋の扉を閉めて、看護師さんを捕まえる。


 中で重要な会議をしていると言い、部屋を一時的に貸してもらうことができた。


 そのまま自販機で飲み物を買って、検査が始まるまで時間を潰すことにした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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