異界の異変解決⑫~迫る炎、澄人の選択~

フィノによる焼却が迫る中、澄人がある選択をします。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 黄金の斬撃が走り抜け、七色の枝や根が吹き飛ばされる。


 ヨルゼンさんの背後に張り巡らされていた七色の根も、黄金の斬撃に飲み込まれて跡形もなく消え去った。


 黄金の斬撃はそのまま祭壇もろとも壁を貫通して外へ飛び出す。


 それと同時にヨルゼンさんがゆっくりと崩れ落ち、リリアンさんが地面に落ちる前に抱え上げた。


「お父さん!!」


「ごほっ……リ……リ……アン……か……」


 咳き込んでいるヨルゼンさんは、七色の影響で顔色は青ざめ、虚ろな瞳でリリアンさんに話しかけている。


 彼は震える手でリリアンさんの腕に触れ、最後の言葉を伝えようとしていた。


「私は……もう……助からないだろう……」


「なにを言っているの!? 諦めないで!!」


 懸命に訴えかけるリリアンさんを見た後、ヨルゼンさんの状態を確かめる。


【名 前】 ヨルゼン

【年 齢】 42

【神 格】 2/2

【体 力】 5/50

【魔 力】 0/20

【状 態】 衰弱・魔力枯渇


(よかった弱っているけど、人間として認識されている)


 七色の樹の影響下からヨルゼンさんを救えたことを喜ぶ。


「リリアン……最後に聞いてくれ……おまえならわかるはずだ……さっきの植物は……」


「わかっています! お父さん!! 目を閉じないで!!」


 リリアンさんの言葉を聞いたヨルゼンさんの顔が安らぎ、嬉しさを感じさせる表情を浮かべていた。


「……すまなかったな……リリアン……私の分まで生きて幸せに……」


 リリアンさんを握るヨルゼンさんの手が落ち、彼女は父親の身体を抱え泣き叫ぶ。


(あとで謝らないとな……)


 この後どうなるんだろうと、俺は涙を流すリリアンさんを見つめた。


 しばらくするとリリアンさんは落ち着きを取り戻し、こちらへ向き直る。


「ありがとうございます。使者さまが連れてきてくださったおかげで、父の最後を看取ることができました」


「…………一旦戻りましょう」


 言いたい言葉を飲み込み、自分が滅茶苦茶にした祭壇場を一目見てからワープを発動させた。


 俺が作った避難場に戻り、リリアンさんの部屋のベッドへヨルゼンさんを寝かせる。


 リリアンさんはヨルゼンさんを見守るように椅子へ腰かけた。


「……申し訳ありません……取り乱してしまいまして……私は——」


「リリアンさん、少し待っていてください」


 リリアンさんは静かに語りだし、その表情は疲れ切っていた。


 その言葉を切り、俺はヨルゼンさんの状態を見ながら神の祝福を行う。


 ヨルゼンさんが亡くなった原因の一つに能力の著しい欠如がみられるため、何もせずに蘇生しても意味がない。


(能力値が神器によって削られているから、俺が保管している【能力】で修復するように……)


 ヨルゼンさんに残っている能力と俺が収集している能力を重ね合わせる。


「よし……これで大丈夫なはず……」


 確かな手ごたえを感じてヨルゼンさんの様子をうかがってみると、肌に赤みが差し、呼吸を始めた。


 一息ついて安堵した後、後ろを振り返る。


「あの……リリアンさん……」


 リリアンさんは放心したように宙空を見て、口を開けたまま涙を流し続けていた。


(リリアンさんを泣かせてばっかりだな……どうしよう……)


 再会をしてからほとんどの時間泣いているリリアンさんを見ていると、どんな言葉をかければいいのかわからなくなる。


「ん……ここは……?」


 リリアンさんが正気に戻ってくれたのは、ヨルゼンさんが目を覚ました時だった。


 意識を取り戻したヨルゼンさんは、自分の状態を確認しようと身じろぎをする。


「お父さん!?」


「リリアンか……私は一体……死んだはずでは……」


 ヨルゼンさんは自分の体を触り、不思議そうな顔をしていた。


 リリアンさんはその光景を目にし、また嗚咽を上げてしまう。


「お父さん! 本当に良かった……お父さん……」


 ヨルゼンさんに抱き着き、喜びを爆発させるように強く抱きしめ続けるリリアンさん。


 その様子を見た俺は、ヨルゼンさんが無事だったことに安心してしまった。


(よかった……祭壇を犠牲にしたのにヨルゼンさんまで治らなかったら悪夢でしかない)


「まさか……きみが私を……? これは……奇跡か……」


 まだ意識がはっきりとしていないのか、ヨルゼンさんは俺へ目線を送り、信じられないと呟いている。


「無事でよかったです。ここのことはリリアンさんに聞いてください」


 俺は二人から離れ、部屋を後にする。


 ドアノブに手をかけた時にリリアンさんの視線を感じた気がしたけれど振り向かなかった。


『澄人〜、大きな木の前で止められちゃったよ〜』


「わかった、ありがとう」


『大きな木以外の場所は全部燃やしたからね!」


 部屋を出た俺にフィノから報告が入ったので、建物の外へ移動しながらアイテムボックスを開く。


 大聖堂の書庫から持ってきた名簿を取り出し、並んでいる人の名前を見ながら神の祝福を実行する。


(人の命を確保するために広くなった七色の森、それで大きくなった七色の樹……それなら!!)


 亡くなった人をすべて生き返らせればどうなるのか。


(俺は知っている。この人たちを蘇らせることで、七色の樹の成長が無効になることを!)


「神の祝福よ!! このリストに載っているすべての人を蘇らせろ!!」


 神の祝福はその人が亡くなったということをなかったことにする。


 その結果、スキルや能力などが元通りになるのだ。


 能力を吸い取る際、俺は蘇生の途中でその部分だけを抽出しているだけにすぎない。


 俺の目の前に光に包まれた大量の人が現れる。


「神の御業か……」


「すごい……」


 後ろでは俺のことを追いかけてきたのか、リリアンさんとヨルゼンさんが寄り添うように立っていた。


 辺り一面は倒れた人で埋め尽くされ、収納するためにはメーヌに頼んで追加の避難場を建てなければいけないだろう。


(これでミュルミドネスの傷が再生できなくなったはずだ)


 リリアンさんとヨルゼンさんにこの場を任せ、俺はミュルミドネスと戦うためにワープを発動させた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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