異界の異変解決⑪~侵略された大聖堂~
澄人が七色の森に侵略された大聖堂の中を探索します。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(ここでリリアンさんを召喚して……っと)
アーミーアントを片付けながら大聖堂に入り、リリアンさんを【召喚】する。
「ここは……本当に私を……」
目の前に現れた彼女は大聖堂の中を見回し、破壊された状態を確認していた。
石柱に虹色の蔦が絡みつき、床を突き破るように根が出ている。
この中にもアーミーアントが蔓延っているため、さっさと名簿の回収をリリアンさんに頼む。
「リリアンさん、時間がありません。名簿はどこですか?」
「ついてきてください! こちらです!」
俺が焦るように伝えると、リリアンさんは即座に動いてくれた。
大聖堂の中を戦いながら移動し、ある扉の前でリリアンさんが止まる。
「この扉の中に名簿があります」
リリアンさんはそう言いながら急いで扉を開けた。
中には大量の本が並んでおり、壁一面に飾られている。
リリアンさんは部屋に入るとすぐに本棚に置いてある書物を手に取った。
「これじゃない、これでもない、これでもない……あれ? ない? どうして?」
必死に探している彼女を見ていると、逆に俺が落ち着いてくる。
リリアンさんの邪魔をさせないようにアーミーアントを雷で消し炭にしていたら、後ろから声をかけられた。
「使者さまありました! これで全部です!」
振り返ると両手いっぱいに書物を持った彼女が微笑んでいた。
俺は差し出された本をアイテムボックスに入れ、リリアンさんと一緒に次の場所へ移動する。
「次は地下の祭壇ですよね!?」
「そうです! 壊されてしまう前に行きましょう!」
八尺瓊勾玉【陰】は大聖堂の地下にある祭壇で儀式を行わなければ所有者が決まらないという。
フィノは七色の森をすべて焼き尽くすため、その後に祭壇が残っている可能性は低い。
今のうちに八尺瓊勾玉【陰】を使える状態にしておかないと、後々面倒なことになる。
(早くしないと……)
リリアンさんと共に走り出そうとしたら、天井から無数の足音が聞こえてきた。
「なにか来ます! はやくここから離れて!!」
「きゃあっ!?」
天井が崩落して瓦礫が降り注ぐ中、リリアンさんを抱きかかえて加速した。
「リリアンさん無事ですか!?」
「は……はい……ありがとうございます」
彼女にケガがないと確認してから優しく下ろしてあげた。
立ち込める土煙の奥から敵が来ることを予測した俺は、ヒヒイロカネの剣を帯電させる。
「唸れ雷!」
ヒヒイロカネの剣で威力が増幅された雷が宙を切り裂くように突き進む。
——ドゴォオンッ!!
轟音とともに土埃が晴れるのを待たず、リリアンさんの方を向いて口を開いた。
「走って! こいつらにかまっていられません!」
「はい! 急ぎましょう!」
俺たちは同時に駆け出し、奥へ続いている通路へ飛び込んだ。
背後では、アーミーアントの大群が天井から降りてくる音が鳴り響く。
祭壇に近づくたびにアーミーアントは多くなり、まるで先回りをされていたような気分になった。
「もうすぐで到着します! あそこが祭壇の——」
「リリアンさん!? 急に立ち止まってどうしたんですか!?」
もう少しで辿り着くといったところで、リリアンさんが立ち止まったまま動かなくなる。
リリアンさんの視線を追いかけるとその理由がわかってしまった。
「なぜ……お父さんが……」
彼女の言葉通り、前方にヨルゼンさんが七色の枝によって磔のようにされていた。
祭壇があるという空間内には七色の根がひしめき合っており、中央にはヨルゼンさんが苦しそうな表情で息をしている。
「くっ……リリアン……ここから……逃げろ……」
「お父さん意識があるの!? ここでなにがあったの!?」
「わからない……だが……このままだと……世界が滅びてしまう……」
苦悶に満ちた声で娘に現状を伝えようとする父親を七色の根が包み込む。
俺は咄嵯に、助けるために中へ足を踏み入れた。
——バシュン!! バシュン!! バシュン!!
「これはっ!?」
高速で向かってきた拳ほどのモノを剣で切ると、七色の実が地面へ転がる。
絶え間なく打ち出されてくる七色の実から身を守りつつ、ヨルゼンさんへ近づく。
「使者さま、私も祭壇ももう駄目です……完全に樹に飲み込まれました」
「諦めないでください! 俺が助けます!」
ヨルゼンさんは力なく首を横に振りながら微笑んだ。
俺は攻撃の嵐を耐え続け、なんとかヨルゼンさんを救出できないか手段を模索する。
(嘘だろ……どうして……)
ヨルゼンさんの状態を確認するために鑑定を行った俺は、絶望に近い感情に襲われた。
【モンスター情報】
七色の樹に操られしもの:ヨルゼン
状態 :七色の樹に体を侵食されている
(ヨルゼンさんが……モンスターの判定? こんなことって……)
目の前にいる人が、人間からモンスターになっていることに動揺してしまうが、すぐに切り替えて動き出す。
剣に魔力を流し込み、身体能力向上で剣を振るう速度を上げた。
ザッシュザッシュと音を鳴らし、手当たり次第に七色の枝や実を斬り捨てていく。
「リリアンさん!! 祭壇は確認できますか!!??」
「ダメです! 完全に埋まっています!!」
俺は一瞬だけ振り返ると、リリアンさんのいるところまで戻って確認した。
彼女の言うとおり、何重にも絡んだ七色の根が阻んでとても奥へ行けそうにない。
ヨルゼンさんを引きはがすこともできないまま、俺はあきらめずに剣を振り続けた。
『澄人! もうすぐそこについちゃう!』
「もう来たのか!!」
フィノの接近を知らせる声を聞いて、さらに焦燥感が増す。
剣を強く握りしめ、心の中で葛藤を続ける。
(決断しなければならない)
このままヨルゼンさんを放置したら、神の祝福で人間として復活させることができるか不明瞭だ。
かといって、時間をかけてヨルゼンさんだけを切り離す余裕もない。
俺は必死に七色の実を撃ち落としながら考え、リリアンさんの前に立つ。
「祭壇を諦めてヨルゼンさんを助けます」
「そんな! 使者さまは、それでいいのですか!?」
リリアンさんに答えている暇はなく、俺は急いで行動に移す。
アイテムボックスから草薙の剣を抜き、神気を開放しながら構えた。
「草薙の剣よ!! ヨルゼンさんと七色の樹を繋ぐものを断ち切れ!!」
俺の気持ちを反映するように、すべてを切り払う力を持つ刀身の輝きが増し、辺り一面を金色に照らした。
「神の一太刀!!」
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ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は未定です。
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