救世主草凪澄人⑥~赤い結界石発動完了~

赤い結界石を発動させることに成功しました。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺以外の全員が2時間動きっぱなしで疲労困憊という表情をしている。


「澄人くん……少し休憩しないか?」


 ケビンさんが苦笑交じりにそう言うと、観測員たちは何度も首を縦に振っていた。


 いつ今のモンスターがいるはずのレッドゲートが発生するかわからない現状、休んでいる時間など1秒もない。


「肉体的な疲労なら今すぐ回復させるのでご心配なさらず」


 有無を言わさず全員へ神の祝福を行い、強制的に完全回復させた。


「……本当に体が軽い……」


「す、すごい……」


「これが救世主の回復スキルなのか……」


 観測員の人たちが体をほぐしたりしながら、自分の体の変化に驚いている。


 俺はその人たちに構わず、ケビンさんへ視線を送った。


「よし! 撤収作業にはいろう!」


「「「はい!」」」


 ケビンさんの掛け声で観測員の人たちは立ち上がり、観測機器の片付け始めた。


 それを横目に、この場所へ観測所を建てるために合図を出す。


「メーヌ、異界ゲート周辺を整地だ」


『わかったよ!』


 可愛らしい返事とともに、異界ゲートを守っていた土の要塞を地面から消し去る。


 百メートルほど離れた場所にあった小高い山が丸々無くなり、中から大量の人が現れた。


 その人たちに向かって手を振ると、平義先生が駆け寄ってきた。


「澄人、本当にここへ観測所を作れるのか?」


「はい、見ていましたよね? ここなら建造物を壊されませんよ」


「そうかもしれないが……お前はまたとんでもないことをするな……」


 平義先生と話していると、後ろからぞろぞろと作業着姿の人たちが付いてきていた。


 周りには護衛として雇ったハンターが警戒しながら歩いている。


「それじゃあ、事前に言われていた物をここへ出しますね」


 観測所を作るために必要な物資も、アイテムボックスへ収納してあった。


 それらをすべて出してから、作業着を着ている人たちへ頭を下げる。


「建設作業よろしくお願いします」


「ああ……」


 作業着を着た人たちは唖然としたまま言葉を失っていた。


 ほとんどが異界に入ったことのない一般の人なので、この風景や環境に理解が追いついていないようだ。


 建物が欲しいだけなら俺がメーヌに頼めばすぐにできあがってしまう。


 そうではなく、普通の工程で建物を建設したということが重要なのだ。


(それも一般人が異界で普通に工事をしたなんて、普通では考えられないだろうからな)


 結界内では体力を気にすることなく過ごすことができる。


 世界の常識をいくつも覆す必要があるこの実験の一環として、この人たちの手で建物を作ってもらいたい。


「それでは平義先生、後のことはよろしくお願いします」


「任せろ、成功することを祈っている」


「ありがとうございます」


 建設作業の総括を平義先生に任せて、俺はレッドゲートの対応に移る。


 観測員の人たちは撤収作業を終え、ケビンさんの周りに集まっていた。


「ケビンさん、レッドゲートの観測はしてくれているんですよね?」


「もちろんだ。新しいレッドゲートが生まれたら真っ先に私の事務所へ連絡が来るように手配してある」


「それを聞いて安心しました」


 ケビンさんの話を聞きながら、俺は目的地をケビンさんの事務所に設定し、ワープを発動させる。


「はっ?」


 またも、全員がここに来る時と同じような反応で周りを見渡していた。


 その中でケビンさんだけは冷静さを保ち、俺へ問いかけてくる。


「澄人くん、ここは私の事務所だね?」


「はい、連絡が来たらすぐに対応しましょう」


 ケビンさんは驚きながらも状況をしっかりと把握してくれたようで、他の人たちにも説明してくれる。


 観測員の人たちはケビンさんの説明を聞いた後、事務所の一室で観測データの整理を始めた。


「澄人くん、まだ新しいレッドゲートは発生していないようだ」


 事務所にいた人と話をしていたケビンさんは首を横に振ってからため息をつく。


「そうなんですか……俺の方でも探してみます」


 俺も椅子を借り、地図機能を起動させて地球上に存在する境界を確認する。


 最近は新たなレッドゲートが生まれないため、探すのが比較的楽だ。


 ケビンさんの言う通り、今日はまだレッドゲートが発生していないようだ。


(異界で赤い結界石を発動させても不発しているのか? それとも、神器で結界石を作らなくなったのか……どちらだ?)


 青い境界しか生まれない地図を見ながら、異界にいる人たちのことを考えた。


「んー……」


「どうしたんだい?」


「いえ、ちょっと考え事をしていて」


 俺が難しい顔をして悩んでいると思ったのか、ケビンさんが声をかけてきた。


 それに適当に返事をして、しばらく地図を眺めていると、画面に変化が現れる。


(発生したのか? でも、ここは……)


 赤く光る点が1つ新たに出現したが、それはグリーンランドの中央を示していた。


 グリーンランドは、オーストラリアと同じレッドラインの群生地。


 しかも、オーストラリアとは違い、人類はグリーンランドから撤退している。


 衛星写真でも、グリーンランドの大陸に大量のモンスターが闊歩している様子が撮影された。


(俺は何とかなるけど……みんなはついてきてくれるだろうか……)


 グリーンランドは観測範囲に入っていないのか、レッドラインが発生してもこの事務所に連絡は入らない。


(まずは情報を確定させることからだな)


 俺はそう決めてから、ケビンさんのところへ行って話しかける。


「ケビンさん、グリーンランドの中央部にレッドラインが発生しました」


「…………すまないが……もう一度言ってくれないか? どこだって?」


「グリーンランドです。発見できそうな観測所へ連絡してもらえますか?」


「わかった……」


 俺の言葉にケビンさんは戸惑いの表情を浮かべ、静かに首を左右に振る。


「グリーンランドへ詳しい境界の観測はできない」


「人類から見捨てられた場所……だからですか?」


「そうだ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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