救世主草凪澄人⑤~赤い結界石発動~
澄人が異界で赤い結界石を使おうとしております。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「こんなに分厚い防寒具を? 必要なさそうだが……」
北極で生活をしそうな厚手のコートを持ち、ケビンさんが首を傾げる。
「これから寒さが厳しくなります。それを着ていないと凍死するかもしれませんよ」
「このコートがあれば大丈夫なのか?」
「中に手袋やマフラーも入っているので、必ず着用してください」
ケビンさんが受け取ったコートを羽織り、サイズを確認するために体を動かした。
「ふむ……問題なさそうだな。きみは着ないのかい?」
「俺は必要ありません。みなさんへお願いします」
「わかった。配ってこよう」
ケビンさんは箱を抱え、観測機材を運んでいる人たちの方へ防寒具を配り始めた。
その間に俺は、貢献ポイントで格上げした【親和性:氷B】を魔力に纏わせて広げる。
(レッドラインで稼いだ貢献ポイントはこれで無くなった! 有効であってくれよ!)
成長させた氷の親和性を使うために、全神経を集中させる。
すると、俺を中心に白い霧のようなものが発生し、広がっていく。
周りの地面が凍り始めているのか、ピキピキという音が辺り一面から聞こえてきた。
「なっ!? なんだこれはっ!? さ、寒い!!??」
観測機材を用意していた人たちが手を止め、慌てて防寒具を装着する。
氷の親和性をCからBに上げたことで、予想以上に凍らせる範囲と速度が成長している。
観測機器は境界の突入に耐えれるような作りになっているが、さすがに防凍までは考えられていない。
(観測機器が凍ってしまいそうだ。それだと意味がなくなる)
そう考えた俺は、地面に広がる氷を成長させつつ、観測員さんや機材を寒さから守るために火の精霊を召喚する。
「フィノみんなを暖めてほしい」
『任せて!』
フィノが力強く返事をすると、俺の目の前に現れた炎の塊が弾ける。
炎は小さな火の粉となって飛び散り、観測員たちの周りで旋回し始めた。
「温かい……」
「あ、ありがとうございます!」
「助かりました」
「いえ、これくらいは当然ですよ」
観測員の人たちが感謝の言葉を口にしながら作業を再開するので、俺も心置きなく氷の範囲を広げた。
(広げられて500メートルか……それ以上は効果が弱くなるな……)
赤い結界石の範囲は半径1キロは確実にあるため、すべてはカバーしきれない。
しばらくすると、ケビンさんが俺の元へ戻ってきた。
「澄人くん、観測の準備が終わったようだ」
「わかりました。始めましょう」
俺はケビンさんと観測員の人たちへ合図を出し、赤い結界石を取り出す。
(【クサナギ】さんが持っていた石……使わせてもらいます)
「これからモンスターの襲撃が始まります! ですが、俺が守るので安心してください!」
宣言をするようにそう叫び、俺は持っていた赤い結界石へ魔力を注ぎ込んだ。
赤い結界石は魔力に反応するとまばゆい光を放ち、俺の頭上へ浮上していく。
「きれい……」
「あれが……」
観測員の人たちは俺の上空に浮かぶ結界石を目で追い、言葉を漏らしていた。
俺は注意深く周囲を警戒しながら、結界石の輝きが増していくのを確認し、口を開いた。
「今から結界が展開されます! モンスターの観測よろしくお願いします!!」
観測員の人たちが真剣な表情でうなずくのを見てから、俺は空を見上げる。
赤い結界石は俺の頭上でさらに強く輝き、今にも弾けそうだ。
(始まる!)
俺がそう思った瞬間、赤い結界石が天高く光を伸ばし、周囲へ光の幕を下ろす。
幕はゆっくりと地上に降り、俺たちを包み込むようにドーム状の結界が展開された。
結界が展開されると、今度は四方から土ぼこりを上げながら何かが向かってくる。
空にも影が見え、こちらを目指しているようだった。
「来たぞ!! これはっ!? ミノタウロスの大群だ!!!!」
観測員の人が大声で叫ぶと、全員が戦闘態勢に入る。
ケビンさんが観測機材を背にして剣を抜き、他の人は観測機器を壊されないように構えた。
「みなさん、問題ありません。もう動けなくなっています」
「え?」
「どうなっているんだ……」
ケビンさんや観測員の人たちは信じられないのか、呆然とした様子で近づいてくるモンスターを眺める。
そこには体長5メートル以上ある巨大な牛の顔をしたモンスターの集団が氷漬けになっていた。
俺はさらに魔力の密度を上げ、空から近づいてくるモンスターを氷で囲い、動けなくする。
「モンスターの体の周囲を氷漬けにしています。今のうちに観測と記録をお願いします」
俺の指示に従って、観測員たちがビクビクしながら観測機器を使ってデータを集め始める。
ケビンさんは大量のモンスターに気が気ではないようで、落ち着きがない。
(観測のデータだけだと不確定要素があるからな、もっと念入りに対策をしよう)
次々と現れてくるモンスターを凍らせながら、俺はアイテムボックスから手のひらほどのボールを大量に取り出す。
今回の実証実験のため、防犯用のペイントボールを大量に用意しておいた。
これをモンスターに当てておけば、同じモンスターだという確証が持てるはずだ。
「ケビンさん! ちょっと来てください!」
「い、今行く!!」
観測をしていないケビンさんを呼び、ペイントボールの趣旨を説明する。
説明を聞いてくれたケビンさんが納得して、ペイントボールを持ってモンスターに近づく。
ケビンさんが氷の中にいるモンスターへボールが当てやすいように、一部分だけ氷を溶かす。
大体のモンスターにペイントボールを投げ終わったときに2時間が経ち、範囲内にいたモンスターが結界石に吸い込まれる。
(第一段階は無事に終わった。あとはあっちで確認だな)
モンスターを吸い込んだ結界石が淡く輝いたまま浮遊している。
足元に広がっている氷を溶かしてから観測員たちのところへ戻る。
ケビンさんは疲れ切った顔をしており、他の観測員たちもぐったりとしていた。
そんな人たちへ申し訳ないと思いつつ、俺は手を打ち鳴らして笑顔を振りまく。
「さあ! 次はレッドゲートへ突入しますよ!」
そう言って笑いかけると、全員が口を開けたまま固まってしまった。
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ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は未定です。
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