救世主草凪澄人②~ケビン・マクニールからの電話~

ケビン・マクニールから電話を澄人が対応しております。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


『境界に突入して亡くなった遺族から不思議な問い合わせが多く来ている』


「どんな内容ですか?」


『爪の欠片や1本の毛髪でもよいのでそちらに残っていませんか……という内容だ』


「なるほど……」


『それとは逆に、境界内で亡くなったハンターが生き返ったとも報告をもらっている』


(この人はわかって言っているな……目的まではわかるかな?)


 ケビンさんはこの二つの件を探れば俺に辿り着くことを知っている。


 だから、わざとこのような問いかけをしているのだろう。


「それが何だっていうんですか?」


 この手合いは、こちらが下手に出ると調子に乗るタイプだ。


 別にその情報が漏れたところで、直接的な蘇生依頼が来ることはない。


 今のケビンさんの話も、俺が関わっていると決めつけて話している節がある。


『……先日、妹が生き返ったと連絡がきたんだ』


「そうなんですか。おめでとうと言えばいいですか?」


 俺は白々しく祝いの言葉を口にしながら、そんな偶然があるのかと疑っていた。


『家族へ誰がやったのかと追及しても決して口を割らなかったが……一言『神様が来たと』だけ言っていたんだ』


「それなら神様の仕業なんじゃないですか? どうして俺へ連絡を?」


 俺は相手の話をはぐらかし、ケビンさんの目的を探る。


『君はオーストラリアで行方不明になっていた人たちを救出していたね? 本当はみんな亡くなっていたんじゃないかい?』


「……俺に死者を蘇らせる力があるとでも?」


『体の一部が残っていることが条件……違うかい?』


 断言されるほど俺は大々的に活動してはいないはずだ。


 今回も一週間程度しか経っていないし、話を聞きつけたとしてもここまで早く特定できるとは思えない。


「そんな奇跡を望むのなら、ケビンさんも神に祈ったらどうですか?」


 わざわざ俺に連絡をしてきたということは、こうして俺と会話をするためだろう。


 2回目の電話の一言さえなかったらこのように長々と話をすることはなかった。


 俺の返事を聞いたケビンさんが少し黙る。


 これ以上は時間の無駄と判断し、相手が役員のため、丁寧に電話を切ろうと口を開く。


「それでは失礼します」


『毎日祈っている』


 スマホから耳を話して電話を切るボタンをタップしようとしたとき、悔しそうに震える声が微かにスピーカーから漏れてきた。


 その悲痛な声に、思わず通話終了を押す指を止めてしまった。


『私はこの世界から境界がなくなり、犠牲になるハンターがいなくなることを祈っている……だがそんな日は決して来ない……』


 その言葉は、今まで聞いたことのないような弱々しい声だった。


「……どういう意味ですか?」


 そんな言葉を放つケビンさんと、俺は初めてまともに会話をしようと思えた。


『そのままの意味だよ。私がいくら祈ったところで、犠牲者がいなくなることはないし、境界の発生が止まることもない』


「悲しい事ですね」


『ああ、とても悲しいことだ……君への依頼を清澄ギルドへ送った。確認をしておいてほしい……家族を助けてくれてありがとう』


 それだけ言うと、ケビンさんは一方的に電話を切った。


 最後の言葉にはあえて返事をせず、事実の確認だけでもしようと思う。


(アジトにいる夏さんに調べてもらえばいいか)


 そう思った俺は、アジトを目標にしてワープを発動させた。


◆◆◆


「――ということがあったんだけど、調べてもらうことはできますか?」


 俺は先程あった出来事をそのまま話し終えると、目の前に座っている夏さんへと質問をする。


「えっと……はい。その、澄人さまが蘇生した女性の中にケビン・マクニール役員の妹がいました……」


「やっぱりそうか……そこまで調べなかったな……」


 夏さんの報告を聞き、俺は苦笑いを浮かべながら納得したように呟く。


「それで、どうするんですか?」


「う~ん……とりあえず依頼を確認するよ。送られてきていますか?」


「確認します」


 俺はソファーに座り直し、夏さんの作業姿を後ろから眺める。


「澄人さま、依頼文章を転送しますね。ご確認お願いします」


「はい……確かに受け取りました」


 夏さんから送られてきたメールを開き、添付されていたPDFファイルを見る。


(すごい量だな……同じ国から何件も来ているし……確認だけでも大変だ……)


 依頼件数が百を越えており、俺は顔をしかめながら依頼内容に目を通していく。


 俺が依頼内容を眺めていると、夏さんが隣に座った。


「澄人さま、無理に受けなくても良いと思います。月に1件でいいんですよね?」


「うん。そうだけど……これはちょっと多すぎるよね」


 俺は依頼数の多さに驚きながらも、一つ一つ丁寧に読み進めていく。


【我が国に存在するレッドラインの攻略】

【交易上重要な位置に出現した境界群の攻略】

【レッドライン攻略により負傷したハンターの治療】

 ……


(俺の実力を探りたいのか、本当に助けて欲しいと思っているのかわかんないな……)


 依頼文を読む限り、俺の実力を図ろうとしているような依頼が混じっている。


 しかし、その中にも本気で助けを求めるような内容が書かれていた。


【ジェイソン・ホワイト氏の治療】


(神格4とかでもいいのかな? ……違う違う、確認したいのはケビンさんからの依頼だ)


 俺は依頼の推薦役員欄を見て、ケビンさんの名前が書いてある依頼書を探す。


 あのような電話をしてきた彼がどのような依頼をしてきているのか興味があった。


「……これかな? 境界発生の原因追究……なるほど……」


 ケビンさんの依頼は境界がなぜ発生するのか原因を探れという内容だ。


 現在、境界の発生してしまう原因は、【自然現象】という形で論争が終わっている。


 そのため、このような依頼を出すということは、本気でケビンさんは境界をなくしたいと思っているのだろう。


(こんな依頼を出すぐらいだから、ケビンさんは俺が原因を発見できると考えているんだ)


 俺はアイテムボックスの画面を表示しながら腕を組み、どうしたものかと悩み始めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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