救世主草凪澄人③~境界発生の謎~
境界の発生理由について澄人が考えております。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(もう原因はわかっているんだよな……ただ、公表してもいいものか……)
俺の中で境界が発生する原因については大体判明している。
異界で結界石を使い、モンスターを封じ込めた結果、こちらの世界に境界が発生するという考察だ。
その仮説を証明するためにはどうすればよいのか、今はまだ答えを出していない。
「澄人さま、どうかされましたか? そんな依頼をみてどうされたのですか?」
俺が依頼のことを考えて難しい顔になっていたため、夏さんが心配そうに覗き込んできた。
しかし、俺の読んでいる依頼内容を見て、呆れたような顔になってしまう。
おそらくこのような顔になる理由は、境界の発生原因が求められるものではないことを知っているからだ。
「夏さんは境界の発生原因は何だと思いますか?」
「境界の発生原因ですか? そんなものはありませんよ」
俺の問いかけに、夏さんは考えるような仕草をまったくせずに即答した。
「境界は自然に発生します。それ以外の仮説はすべて否定されています」
「そうなんですよね……」
自然に発生すると決めつけているからこそ、俺が貢献ポイントで購入しても何の疑問も持たれていない。
(貢献ポイントは地球上のどこかにある境界を引っ張ってきているだけだったからな)
試験対応のために境界を大量購入したところ、日本以外の低ランク境界が激減した。
その結果、俺は貢献ポイントで発生する境界が地球上のどこかにあるものだと結論付けた。
「澄人さまは、何か思い当たる節があるのですか?」
「実は……これなんですけど」
夏さんは俺の差し出した青い結界石を受け取って興味深そうに眺める。
「きれいな青い色をしていますけど……これは何の石ですか?」
「それは異界で結界石と呼ばれて流通しているものです」
「異界で……流通? 澄人さまそれって……」
夏さんがそうつぶやいたまま口を開け、目を見開いて俺を見つめてくる。
異界で開拓者として活動していることは誰にも言っていないため、夏さんが俺の探索結果を聞いた最初の人になる。
本当は臨時の世界ハンター会議の場で発表しようと持っていたが、参加しなかったので話す機会がなかった。
「異界には人間がいてハンターと同じような文化があります」
「人間が住んでいるのですか!? 異界に!?」
「そうです。この結界石がそれを可能にしています。それでですね、夏さんが知っている異界のことを教えていただけますか?」
驚嘆の声を上げる夏さんの質問を無視して話を進める。
すると、夏さんは少し落ち着いたのか、手に持っている青い結界石を机の上に置く。
夏さんは目を閉じてしばらく考えた後、ゆっくりと口を開く。
「異界には境界内にいるモンスターが生存しており、人間が生活することはできないと言われております」
「境界内と同じように体力が徐々に減っていくからですよね?」
夏さんがうなずき、俺の言葉が間違っていないことを肯定してくれる。
「それともう一つの理由は、建物を建設しようとするとモンスターの襲撃に遭うからです」
「だからミス研の待機所は重宝されているんですよね?」
「その通りです。異界内で安全の確保できるスペースの確保は難しいです」
境界の中に建物を作ろうとすれば、大量のモンスターに襲われる。
このため、異界内には建築物を建てることができない。
その夏さんの認識は世界共通のもので、誰も反論していないことだ。
(とりあえず、俺がやるべきことが見えてきたな……異界へ行こう)
「ありがとうございます。とても参考になりました」
「お役に立てたようでよかったです……異界のことは公表されるのですか?」
「追々ですかね。夏さん、このことは――」
「もちろん口外しません。澄人さまを信じております」
夏さんは俺の言葉を聞いて真剣な表情に戻り、青い結界石を返してくれた。
俺は受け取ったそれを再びアイテムボックスの中へしまい、今後の予定を話し合うことにし
た。
◆◆◆
世界ハンター協会から来た依頼は、簡単そうなレッドラインの攻略をいくつかしておいた。
ノルマもクリアし、貢献ポイントも稼げたため、異界ミッションの時間が経つまで自由に過ごせる。
(これで境界の発生理由の説明付けに動ける)
境界の発生理由を世界へ発信するため、まずは異界で結界石を使う必要がある。
それも、青の結界石ではなく、居住空間を確保するための赤い結界石を展開しなければいけない。
(異界にいたモンスターがレッドゲートに現れればいいだけだ。それはわかるだろう)
カラフルなサラン森林で青い結界石を大量に展開した時、アーミーアントの境界が大量に発生した記録が残っている。
異界のモンスターがこちらの世界へ来ているという証明のためには、異界に現れたモンスターを確認しなければいけない。
その役目を頼む人へ連絡を取り、待ち合わせをしていた。
(そろそろ着くと思うんだけど……まだかな?)
草地駅の改札で待っていると、私服姿の男性が通ってくるのが見えた。
「ケビンさん、こちらです」
手を振りながらケビンさんへ声をかけると小走りで近づいてくる。
ケビンさんは息を切らしながら俺の前で立ち止まり、笑顔を浮かべる。
「まさかきみから連絡をくれるとは思わなかったよ」
「観測員数名の確保はしてくれましたか?」
「ああ、問題ないよ。一級や特級の観測員を用意した。あとで紹介する」
俺はモンスターの鑑定や分類について詳しい人が欲しいという希望を伝えたところ、ケビンさんが複数の観測員を用意してくれた。
お姉ちゃんや夏さんは草根高校の試験援助でこちらまで手が回せそうにないため、代わりにお願いしていたのだ。
「ありがとうございます。助かります」
「いいんだよ。私の依頼のためなのだろう? それで、なにをするんだい? 詳しく聞かせてくれるのだろう?」
「異界へ観測所を建設します」
俺の提案を聞いたケビンさんは目を見開き、口を半開きにして固まってしまった。
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ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は未定です。
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