救世主草凪澄人①~救世主という二つ名~

救世主の二つ名をつけられた澄人が活動をしております。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 二つ名を付けられて一週間。


 不本意な【救世主】などと名付けられたが、意外にもこの名札が役に立っている。


「救世主さま、本当に私の旦那を蘇らせていただけるんですか?」


 境界内で亡くなってしまった男性の配偶者へ会うため、この【救世主】という名前を使わせてもらった。


 子供がいるのに未亡人となった彼女も、なくなった彼も30代で若い。


 彼女は彼の死を受け入れられず、蘇生できる可能性があると連絡すると、すぐに返信がきた。


「もちろん、旦那さんを蘇生できます。ただ、私が蘇生したと口外しないという約束をしていただけるのであればですが」


 こちらも対象を絞ってこの活動をしているため、無差別というわけにはいかない。


「わかりました、お約束します」


「よかったです。体の一部はありますか?」


「こちらに……DNA鑑定でも夫のものだと証明されております」


 未亡人の彼女が差し出したものは亡くなった人の毛髪だった。


 どんなものでも、彼女の夫の一部には違いない。


「それでは、いきます」


 俺は毛髪を地面へ置き、髪の祝福を発動する。


 体を蘇生させるが、ハンターの能力は俺の魔力に捕食させた。


「ほ……本当に夫が……」


 全裸で横たわる男性のそばで両膝を付き、彼女は涙を流しながら喜ぶ。


 体の一部で蘇生を行うと裸なことがほとんどのため、俺は用意していた大きめのタオルを男性の体へ被せた。


 そして、俺の手を握ると何度もお礼を言ってくる。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 俺は彼女にハンカチを渡し、涙を拭かせる。


「これで目を覚ますと思います。ただ、ハンターとしての能力は保証できません」


「夫が生きているのなら構いません! 本当に蘇るなんて信じられない! ああ、神様!! ありがとうございます!!」


 彼女は両手を組み祈るように俺を見上げてきた。


「う……ううん……ここは……」


 その声で目が覚めたのか、横たわる裸の男性が目を擦りながらつぶやいた。


「えっ!? あなた! あなた! 私よ! 分かる? 私が分からないの!?」


 男性は目を開けると上半身を起こし、目の前の女性の顔を見て驚いた表情をする。


「君は……どうして……俺はあいつをかばって死んだはずじゃ……」


「ああっ……良かった……生きていて……もう会えないと思っていたわ……」


 彼女は男性を抱き締めると、再び泣き始めた。


 抱き合う2人を眺めつつ、俺は手に入れたこの男性の才能を確かめる。


【神 格】 6

【スキル】 身体能力向上——


(スキルはそこまで突出しているものはないな……神格上限6は収穫だ)


「感動の再会中申し訳ありませんが、このことは決して口外しないでくださいね」


 2人はお互いの無事を確認するかのように抱きしめ合っていたが、俺の言葉を聞いて我に帰ったようだ。


「はい! もちろんです! 絶対に誰にも言いません!」


 彼女は涙でぐしゃぐしゃになりながらも笑顔で答えてくれた。


「そうしてください。あと、ハンターとしての能力ですが……」


 蘇ってもらった彼へ適当な理由をつけてもうハンターとして活動することができないと説明をする。


 生き返らせてもらっただけでも御の字と、これまでと同じような反応をしてくれるため、問題なく受け入れられたようだ。


 それから1時間ほどこれからの生活についてアドバイスをしてから、次の遺族へと会いに行く。


 これまで数十回と同じようなことをしてきたが、残っているものがなにもないと、断られたことが何度もある。


 境界内で亡くなった人の中には、蘇生に必要な体の一部がないことの方が多い。


 今回は髪の毛を残していてくれたが、そんなことの方が稀だ。


 突入するときには毛髪などの体の一部を残しておけば俺が蘇生すると宣伝することもできるが、広まりすぎて面倒になることが目に見えてわかる。


(やっぱり亡くなった人よりも、生きている人からの方が収集は簡単だな)


 そうなると相手を選ばなくてはいけない。


 ジェイソン・ホワイトのような優良・・人物がいれば一番いいのだが、さすがにそんな都合の良いことはないだろう。


「ここも空振りだったか……」


 妙齢で亡くなったハンターのところへ来たが、やはりというべきか何も残していなかったようだ。


 部屋に毛髪が残っているかもしれないと言ってみたが、引っ越しをしてしまっため回収は不可能だった。


「仕方ない。帰るか」


 今日はこれで終わりにしようと思い、ワープを発動しようとした時だった。


「ん? なんだ?」


 スマホが何度も震えて、電話がかかってきていることを知らせくる。


 画面を見ると、知らない番号からだった。


 普段なら出ないが、何か嫌な予感を感じ、とりあえず出ることにした。


「もしもし」


『やっと出たか』


「誰ですか?」


 どこかで聞いたことがあるような気がする声だったが、思い出せない。


『突然申し訳ない。今月の依頼について相談をしたいんだが……』


「急に言われても困ります。それでは」


 俺はそれだけ言うと、すぐに通話を終了した。


 おそらく相手はじいちゃんが二つ名を伝えてきた時の周りにいた人の誰かだろう。


 依頼については文章で連絡するようにと言ってあるので、電話でのやり取りは拒否してもよいはずだ。


「また同じ番号……しつこいな……」


 しかし、何度もかけてきたため、仕方なくもう一度出ることにする。


「電話越しの依頼は受けません。失礼します」


『君が救世主の名にふさわしい活動していることは耳に入っている』


 相手は俺が電話を切ることを予想したように、言葉を被せながら言葉を投げかけてきた。


「……どちら様でしょうか?」


『私はケビン・マクニール。思い出してくれたかい?』


「ああ、やっぱりあの時の……そのケビンさんは俺の何を知っているんですか?」


 俺は警戒心を強めながら会話を続けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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