戦いの結果②~試験会場にて~

入試会場の手伝い生徒控室で澄人が聖奈と話をしています。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺は平静を装いながら、ペットボトルのふたを閉めて横の机にに置いた。


「……ああなったってどういうこと?」


「まったく表に出てこなくなったってこと。前までは鬱陶しいくらいニュースになっていたでしょう?」


 ジェイソンさんは自分の力を誇示するために、自分の活躍をSNSで投稿していた。


 しかし、最近は全く投稿をしていないらしい。


 そのため、ネット上ではジェイソンさんの身に何かあったのではないかという噂が流れ始めている。


 俺が無言でいると、控室にいた生徒全員がこちらを見ていることに気づく。


 ここにいる全員が俺とジェイソンさんが戦ったことを知っている。


 その翌日から全く姿を見せなくなったとくれば、彼がこうなったことも俺に関係していると考えるのが普通だろう。


(捕食のことは誰にも言っていないんだよな……どうしよう……)


 変な誤解を与えたくないので、捕食の能力については誰にも伝えていない。


 この場にいる全員を納得させる説明も思い浮かばないため、俺が口を開こうとすると――。


「お兄ちゃんが言いたくないならいいけど、クマちゃんの着ぐるみを着ている私へ記者っぽい人が同じ質問をしてきたよ」


 周りに聞かれたくない内容だと思ってくれたのか、聖奈がわざとらしく話題を変えた。


 俺にとってありがたいことだったため、そのまま乗っかろうと思う。


「聖奈にもか……俺もウサギの格好をしていたのに聞かれたな……」


 振ってくれた話題に同意するような意見を言うと、黙ってこちらをうかがっていた生徒たちも口を開き始めた。


 俺が聖奈と話していると、控室の入り口が開き、数人の生徒が入ってくる。


「澄人、ちょっといいかな?」


「翔? どうかした?」


 控室へ入ってきた翔に呼ばれ、俺は控室を出て行く。


 廊下に出ると、輝正も待っており、深刻そうな顔をしていた。


 翔が輝正と目を合わせて、小さく何度かうなずいてから口を開く。


「相談があるんだ」


「2人揃って相談? 同じ内容かな?」


「「……うん」」


 2人が同時に肯定したため、俺も真剣に話を聞くことにした。


 ただ、そのためには今は都合が悪い。


「ここだと人目に付くし、誰が聞いているかわからないから、これが終わった後にしようか」


「わかった。じゃあ、またあとで」


「よろしく頼むよ」


 翔たちはそれだけ言うと、俺へ手を振りながら控室へ戻っていく。


 残された俺は、少しの間その場に立ち尽くしてしまった。


(……とりあえず今はこっちに集中しよう)


 相談の内容を想像するようなことはせず、今は自分の役割に集中する。


 時計を見るとそろそろ翻訳が必要な生徒が面接をする予定の時間となっていたため、会場へ向かう。


◆◆◆


 恙なく一日の日程が終了し、手伝いの生徒も解散となった。


 帰り支度をしている俺のもとへ、翔と輝正くんが申し訳なさそうにやってくる。


「澄人くん……いいかな?」


 翔の歯切れが悪く、周りにいる人たちを気にしながら俺へ声をかけてきた。


 近くにいた聖奈はムッとした表情を見せるが、二人の表情を見てため息をつく。


「ねえ、真友と真はこの後予定ないよね?」


「特にないけど……」


「私も」


 聖奈の言葉に真友さんたちが答えると、聖奈は俺のほうをチラッと見てきた。


「お兄ちゃん、私たちは女子会をしてくるから、先に行くね」


 俺へそう言う聖奈は楠さんや朱芭さん、紫苑さんを誘ってから控室を出て行った。


 それを見送ってから、目の前にいる二人へ笑顔を向ける。


「じゃあ、こっちは男子会でもしようか」


 3人で一緒に控室を出て、選考会の会場から移動する。


 その間も周りの人に聞かれないように小声で話しを続けた。


「それで、相談したいことっていうのは何なの?」


「えっと……」


 輝正くんが言い淀んでいる横で、翔が俺の目をじっと見て話すかどうか迷っているように見える。


 その様子を見た輝正くんが、意を決したように口を開いた。


「いくつかあるんだけど……僕と翔を清澄ギルドに入れてほしいんだ」


「あー……窓口は俺じゃないんだよね……」


「それはわかっているよ。直接お願いするのが難しいから、澄人くんを通してほしい」


 輝正くんの言っていることは理解できるが、俺のところに来た理由がわからない。


 そもそも、翔がどうしてこのタイミングで言い出したのか気になったので聞いてみることにする。



「翔は水草ギルドがあるでしょ? 水守さんと話はしているの?」


「してる。多分、今頃聖奈さんへ頼んでいると思うよ」


「そうなの?」


「うん……たぶん、水鏡さんと立花さん以外全員」


「へぇ……」


 俺は思わず翔の顔を見てしまったが、その顔からは焦りのようなものを感じる。


(そんなに急いでいるのかな?)


 その理由がわからずにいると、輝正くんが説明を続けてくれる。


「清澄ギルドは紹介がないと、二つ名ハンター未満は受け付けないんでしょう?」


「そんなことになっているの!? 初めて聞いたよ」


「「…………」」


 俺が驚いて大きな声を出してしまい、隣を歩いていた二人が黙ってしまった。


 周りに人がいなかったのでよかったが、人が行き交う場所なので多少は気にしてしまう。


 俺は慌てて謝ると、二人は気にしていないと言ってくれた。


(でも、はたから見るとそう思われるかもしれないな……)


 立花さん家族がギルドの運営を助けてくれるようになってから、加入したハンターは二つ名ハンター3名だけだ。


 世界ハンター会議へ出席する前から加入希望者が途絶えたことがないと聞いている。


 それに、地元の草根市で活動するハンターのほとんどが加入を希望していると、師匠が言っていた。


(あの話はどうなったんだっけ? そうなんですかーって聞き流したな……)


 俺が記憶を探って思い出していると、翔が話を続ける。


「俺たちはそう聞いているから、できれば澄人から紹介してくれないかな?」


「う~ん……輝正くんの紹介ならいいけど、翔は頼む相手が違うと思うよ?」


「違うってどういうこと?」


「翔は平義先生に稽古をつけてもらっているだろう? 平義先生も清澄ギルドに所属しているから、加入の推薦を貰うならそっちからじゃない?」


「あっ!!」


 翔が目を大きく開いて驚き、輝正くんも苦笑いを浮かべている。


「……そうだった……平義先生の所属ギルドを忘れてた……」


「まぁ、すぐに連絡を取ってみなよ」


「そうする……」


 翔はスマホを取り出し、ちょっと行ってくると言いながら俺たちから離れる。


 それを見送った輝正くんが、俺のほうへ顔を向けてきた。


「それで……澄人くん、僕の推薦はしてもらえるの……かな?」


 少し不安そうな顔をしている輝正くんへ、俺はしっかりと目を合わせる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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