戦いの結果①~草根高校普通科選考会~
ジェイソン・ホワイトとの戦いが終わり、澄人が学校の選考会を手伝っております。
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「草根高校の選考会場は、お配りしている資料でご確認をお願いします」
臨時世界ハンター会議から数日。
一仕事終わったと思っていた俺へ、師匠が土下座をする勢いで頼みごとをしてきた。
俺がジェイソンさんと戦った際、ヘレンさんが一部始終を撮影しており、全世界へ配信されていた。
その映像を見て、覇王ジェイソン・ホワイトが俺に完全敗北したという認識が広がりつつあるという。
それでなぜ、師匠がこんなに憔悴するまで困っているかというと――。
「草根高校の普通科へ入学を希望する生徒が2万人を越えたんだよな……」
あまりにも普通科への希望者が多く、通常の入試期間では選考できないと判断した師匠は、一般入学試験の早期実施することにしたらしい。
そこで問題になったのが、試験官や会場などの準備だ。
すでに総合学科の試験は境界内での行動審査等は終わっており、ひと段落着こうとしたところでこのようなことが起こった。
時間、人、会場、審査内容等が何も決まっていない状態で、受験する生徒が増えれば増えるほど試験の準備も難しくなる。
そして現在、会場の手伝いに俺のような生徒を動員し、一人五分程度の面接が行えるように準備を整えた。
(それでもイベント会場を借りて一週間かかる……とんでもない量の人だ……)
事前に時間を連絡しているにもかかわらず、会場周辺には人がごった返している。
試験が終わった人も他の受験生の様子を見るために残っているため、人が減る気配がない。
(単純計算で一日3千人弱の面接をやるから、こうなるのもうなずける)
しかも、今回の受験者の中には海外からの希望者もいるらしく、翻訳が使える俺へ白羽の矢が立っていた。
言語関係なく翻訳で意思の疎通が図れる俺を師匠が使わないわけがなく、海外の受験生が面接をする時には同室することになっている。
ちなみ今は、他の生徒と同じように受験生へ会場の案内などをしている最中だ。
しかも、俺が草凪澄人だということが知られると混乱を招くため、ウサギのぬいぐるみを着せられている。
案内中というタスキもかけているため、マスコットとして認識されているようだ。
「すみ……ウサギさん、そろそろ休憩にしないかい?」
「天草先輩? 休憩しても大丈夫なんですか?」
「ああ、今ならなんとか。幸い、今は私のことを知っている人も少ないようだし」
声をかけてくれた天草先輩は周りを気にしながら苦笑いを浮かべていた。
天草先輩やミス研の部員も入試の手伝いに駆り出されており、今も何人か会場の中を走り回っているようだ。
研修会で勝ちを重ねている草根高校ミステリー研究部の部長である天草先輩も受験生には人気がある。
受験生が天草先輩と話をするための列を作ったことは記憶に新しい。
「そうですね。じゃあ、少しだけ休憩にしましょうか」
周りを気にしている天草先輩が早く控室に戻りたいと思っているようなので、言葉に甘えて休むことにした。
天草先輩と一緒に広めの控室へ入ると、中には数十名の生徒が集まっていた。
全員がミステリー研究部員というわけではなく、生徒会員や有志で集まった生徒も手伝いに来ている。
ただ、二つ名ハンターの【奇跡の癒し手】であるアラベラさんは仕事が入ったため、この会場には来ていない。
「澄人くん、着ぐるみを脱ぐのを手伝うよ」
「いえ、一人で脱げるので先輩も休んでください」
天草先輩が気を使ってくれたけど、俺にとっては簡単な作業なので断った。
すぐにウサギの頭を取り、【ウサギ着ぐるみ】と書かれた段ボールへ入れる。
横には【クマ着ぐるみ】と書かれた空き箱があったため、姿を隠しているもう一人はまだ帰ってきていないということがわかる。
(聖奈はまだ帰ってきていないのか、なかなか頑張るな)
聖奈も俺と同じように身を隠すために着ぐるみで活動をしていた。
研修会や交流戦で戦っている聖奈の姿は人気らしく、姿を隠さなければ受験生に囲まれるためだ。
「ふぃー! ようやく休憩だよ!」
「お疲れ様聖奈、頭取るよ」
「うん。お願い」
俺が着ぐるみを脱ぐ終わったとき、茶色いクマの着ぐるみが水守さんと一緒に控室へ入ってきた。
水守さんがクマの頭部を持ち上げるようにして取ると、中から現れたた聖奈と目が合う。
髪を団子状にまとめており、額には玉のような汗が浮かんでいた。
「お兄ちゃんも休憩? 着ぐるみだと動きづらいよね~」
「聖奈動かないで、ファスナーが下げられない」
「ごめんごめん」
俺に気が付いて近づこうとした聖奈を水守さんが止め、着ぐるみのファスナーが下げられる。
ジーっという長い音が止むと、中から汗ばんだ聖奈が出てきた。
「ありがとう。助かったーあっつーい」
「聖奈は休んで、私はこれを片付けてくるよ」
水守さんが聖奈にタオルを渡してから、着ぐるみを段ボールへ片づけ始める。
タオルで汗を拭いていた聖奈が何かに気づき、控室の冷蔵庫に入っていたペットボトル飲料を3本取り出す。
「真友、これ置いておくから飲んでね」
「え!? ありがとう」
聖奈が差し出したスポーツドリンクを受け取った水守さんが嬉しそうな顔をしている。
水守さんへ一声かけた後、聖奈が俺のところへ寄ってきた。
「はい、お兄ちゃんもこれどうぞ」
「ありがとう」
聖奈から受け取った飲み物を開けて口を付けると、冷たい液体が体の中に入っていくのがわかる。
飲み物を飲んでいる俺の横へ聖奈が座り、ペットボトルへ口をつけた。
「んく……んく……ぷはぁ!!」
「そんなに喉乾いてたの?」
「もうカラッカラだったんだよ。着ぐるみの活動を甘く見てたー」
そう言いながら胸元をパタパタと扇いでいる。
その様子に苦笑していると聖奈の手が止まり、ジッと俺を見つめてきた。
「お兄ちゃん……覇王さんが【ああなっちゃった】理由……知っているよね?」
聖奈がそう口にした瞬間、控室内の空気が張り詰めていく。
先ほどまで和やかな雰囲気が一変し、雑談が消え、ピリついた緊張感が伝わってくる。
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